▼ ひじぐだ
疲れた、と少女は畳に寝そべった。
外は薄暗く、直に日も落ちて部屋は暗くなる。
あぁもういっそこのまま寝てしまおう、
そう思った時、ふと足元に何かあることに気づいた。
「……土方さんのだ……」
つま先で引っ掛けて
ずるりとこちらに手繰り寄せる。
血で汚れ消えぬ跡となったそれを抱き寄せる。
僅かに漂う血と硝煙のにおい、そして
「……ひじかたさんのにおい……」
うとうとと寝惚け眼でそう呟く。
ぎゅぅ、と抱きしめる。
そうすると酷く安心して余計、瞼が重くなる。
日が落ち切る前に、少女は眠りについた。
暫くして、からりと戸が動く。
灯を持った男は何かを抱きしめ
畳の上で眠る少女の顔をのぞき込む。
「…リツカ…。寝たか……。」
灯を置き、少女の頬を撫でる。
少女は安心しきった顔ですやすやと寝息を立てていた。
「…平和ボケした顔だな…」
男は苦笑混じりに小さく呟く。
そしてふと、少女が抱きしめているのが
己の外套と気づく。
こんな汚れたものを、と取り上げようとするが
少女が抱きしめていて取ろうにも取れない。
しかたない、と諦め少女を起こさぬよう
そっと抱き上げる。
布団は敷いてあるのだから
きちんと布団で寝ろなどとぼやいて
少女をそっと降ろそうとした。
が、少女が服を掴んで離さない。
「……しかたねぇ。」
男は少女の横に寝そべる。
丁度、灯の火が消えた。
僅かな油では流石に持たなかったか、
と思いつつも少女の寝息に誘われ
思わず瞼が重くなる。
穏やかな顔で眠る少女の髪を撫で
そっと抱き寄せると
男もそっと、目を閉じた。