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夢であっても (人の王)

夢を、見ている。

その感覚だけは確かだった。

青い空、穏やかな日差し、風に揺れる草原。
あの日の、場所。

「おはよう。リツカちゃん。」

声がする。あの声。あの声は、確かに。
振り返ると、ただ穏やかな表情で
こちらを見ている魔術王がいた。

あの魔術王は、あの日消えた彼であって、

考えなしに駆け寄って抱きつくと
一瞬蹌踉 よろめくが
此方を抱きしめてくれる。

「……Dr.、…Dr.ロマン」
「……。」

名前を、彼が人として生きた証であるその名を呼ぶ。
ボロボロ涙が溢れて止まらなかった。

「…お願いだから、笑ってほしいな。」

優しく頭を撫でながら、
彼は随分と無茶なことを言う。

「君は、僕の夢で、誇りで、希望なんだから。」

抱きしめられる温かさに、また泣いた。








ハッと、目が覚めた。

あぁ、もう少し、夢を見たかったな。
そう思いながら目をこする。

のそりと起き上がって
手近にあった手鏡を覗く。
泣き腫らした目で本の少し、笑ってみる。


彼が言っていたから。

それが自分が作り上げてしまった
偽物の彼だったとしても、

笑ってくれ、といわれたから。






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