▼ マサムネの過去話
昼寝をしていたマサムネが、
悲鳴を上げて飛び起きた。
悪夢でも見たのかと思っていたが
少し様子がおかしい。
それに気づいたヒサヒデが
素早く駆け寄り、
マサムネの口を手で塞いだ。
反射的にか、マサムネが
ヒサヒデの手を噛むが
ヒサヒデはほんの少し、
眉間に皺を寄せただけだった。
「なにを?!」
「落ち着きたまえ右目。
彼は多分、過呼吸だ。」
その言葉通り、
暫くするとマサムネは
平静を取り戻した。
「…落ち着いたかね。」
「わ、わりぃ…」
「マサムネ様!ご無事ですか?!」
「大丈夫…?!」
「…………あの時の、夢見た…」
マサムネが、塞ぎ込んで震えていた。
「…1回、寝直したら?」
Notが
マサムネの頭を撫でてやると優しく言った。
「Not、その、…手、
繋いでてもらっていいか…?」
「かまわないけれど…」
「………(じぃー)」
「コジュともつないであげて?」
「ん、」
「マサムネ様…!」
こんなやりとりで二人と手を繋ぐと
マサムネはあっという間に
寝息を立てて眠り出した。
「あの時の、っていったい…」
「……………マサムネは、
母親に殺されかけてるの。」
ぽつりと、Notが言った。
「………?!」
「………マサムネには、
姉と兄がいて、
母親は兄に溺愛していた。
そんなある日、
マサムネが生まれた。
…コジュは知っているでしょう?
異なる瞳持つ者が
家督を継ぐっていうしきたり、
聞いた?」
「あ、あぁ。この家に雇われたとき
聞かされた。
蛇(ジャ)が宿るとかなんとか…」
「そう。マサムネがそうだったの。
…母親は怒り狂ったわ。
マサムネがいなければ兄が家督を
継げるはずだったのだもの。」
「…?待て、俺が
この家に雇われたとき、
マサムネ様は7歳。
俺が知らないってなら
それよりも前だ。
何故赤子の時に殺さなかった?」
「あの家は赤子が目を開けないの。
多分、目をあけその色がわかったら
殺されることが多かったから
そういう風に
"学習(しんか)"したんじゃない?
その前にも暫く片眼を隠す
っていうのがあったみたいだし。」
「…」
「そして、
その瞳の色がわかったとき、
母親は怒り狂って、
姉とマサムネに毒を盛った。
姉がマサムネを庇うのが
気に食わなかったんだろうね…。」
「……彼は生き残った。では、姉は…」
「…死んだよ、もがき苦しんで。
…マサムネが生き残って、
母親は父親によって成敗され、
父親は責任を負うと言って死んだ。
兄は自責で自殺した。
…今は蛇が宿した伯父が
家督を守ってる。」
「あのそこはかとなく
最上義光を思い出すあいつか。」
「そこはかとなく…か…?あれは…。」
「たまに、その時味わった地獄を
思い出すように夢を見るみたい。」
マサムネの頭を
空いた手で撫でてやると
ふっと頬が緩んだように見えた。
「…コジュ…
道半ばで倒れないようにね。
今度こそは、」
まだ道はある
(もちろんだ…!)
(Not、卿もな…)