▼ 眠る (松永)
松永は、いや…ヒサヒデは
夜中ふと目を覚ました。
何か夢を見ていたと気がする考えてみれば、
思い出さない方が良い夢だった。
ちっと舌打ちして時計を見ると
午前二時あたりだった。
まだ眠れると思い横になるが
一向に寝付ける気配はなく、
寝返りを繰り返す。
人肌でもあれば寝付けるか、
などと自分にしては珍しい考えが湧いた。
「…嗚呼、Notがいるからか…」
そう呟いて起き上がり、
支給された燕尾服と
前任の執事長から奪った
執事長の証のバッジを身に付け、
ランタンに火をつけて
そっとNotの部屋へ向かった。
暗い廊下を辿れば
簡単にNotの部屋へと辿り着く。
音を立てぬように扉を開ければ、
Notは天窓から見える月を
見上げていた。
「…………弾正…?」
Notがこちらに気づいて呼びかける。
ゆっくりと部屋に入れば
Notが微笑んだ。
「ふふ…其方から来るとはね。」
「なに、寝付けなくてね。」
「…私と同じね。」
「あの男に見つかったら面倒だがね。」
あの男、Notの父だ。
忌々しい規則に縛られた低能な存在。
ヒサヒデはどう始末しようかなどと
時折考えていた。
「大丈夫。お化けが出た
とでも言えば騙されるわ。」
「嗚呼、そうだろうな。
あの低能は卿の嘘ひとつ
見破れはしないだろう。」
そういって笑いながらランタンを机において
Notのベッドへと足を運ぶ。
「…ヒサヒデ、」
「珍しいな、卿が私の名を呼ぶなど。」
「二人きり、だもの。」
そういってその幼い手は
ヒサヒデの頬を撫でる。
「…ふふ、」
「何故笑うのかね。」
「ヒサヒデ、顔、緩んでる。」
「…お互い様ではないかね。」
「そうね。」
「はは…では、眠ろうか、Not。
安心したまえ。
また前のように姿を消すつもりはないよ。」
「それを聞いて安心したわ。
…おやすみなさい、愛しい人。」
共に目を覚ます朝の喜びを
(それ以外は何も望みはしない)