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花時雨   (足利義輝)

花時雨はまだ止まない。

娘は一人、雨に打たれていた。
行く宛も無く、帰る場所もなく、
ただ一人、雨に打たれ佇んでいた。
虚ろな目は下を向き、
泥で汚れたボロボロの素足を眺めていた。

桜も散った公園には、誰もいないし、
誰も来ない。
雨はまだ止みそうにない。

雨がさらに強くなった頃、
男が一人、近寄ってきた。

髭を生やした、赤毛の凛々しい男は
大きな赤い傘をさしていた。


「…こんにちは。太陽を指したお兄さん…。
 身売りはもうしてないわ…。」
「其之方、身売りとはなんだ?」
「身売りを知らないなんて
 陽だまりにいたのね…羨ましいわ…」

娘はぽつりぽつりとまるで独り言をいうように
小さな声で答えていく。
鈴の音のようにか細く、
雨に消されるかのような声を
男は美しいと思った。

「其之方、花は好きか?」
「はな…お花…?お花は…好きね。
 何も考えなくて良くて羨ましい…」
「そうか、では、花を見に行こう。
 其之方も気に入るだろう。」

そういって男は、娘を抱き抱えた。
服が濡れることも厭わず。

「…お洋服が濡れてしまうわ…
 汚れてしまう…」
「その程度ならば気にすることはない。
 そうだ、名を教えてくれ朋よ。」
「…Not…よ…。
 私の…本当の名前よ…」



雨に霞む花を摘む
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