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髪飾りの話の小話(ザバ主2)


男は、手のひらの小さな髪飾りを前に
大きくため息をついた。

鮮やかな黄色の飾りのついた小さな髪飾りだ。

想い人に渡せるわけでも、
渡すような間柄でもないというのに。

何故買ってしまったのか。
きっかけは何気ない一言だった。

ミッショネルズのメンバーと買い出しに行った時の事だ。

ふと目に入った髪飾りを、
想い人である少女に似合いそうだ、
などと口走ってしまったのだ。

幸いにもそれは聞かれていなかったようだが
丁度おなじものを見ていたであろうマリアが
こういったのだ。

「この色、ザバーニーヤ様の目の色と似てますね。」


それを聞いて、つい買ってしまったのだ。
小さな、ほんの小さな恋心想いを込めて。

貴女のそばで貴女を見守れたら、なんて。

「…はぁ…」

男は時計を見る。少しばかり気分を晴らせるかと
普段はしない散歩…否見回りでもするとしよう、と
小さな髪飾りを懐にしまって歩き出す。

夕焼けは鮮やかだった。
景色が鮮やかであればあるほど、男の心に影が落ちる。

あぁこの目に貴女がうつっていたのなら。

「…!」

そう思っていた矢先。ああなんたる幸運か。
想い人が、そこにいた。

少し遠くで、此方には気づいていない様子で
疲れたような様子で歩いていく少女。
声をかけても良いのだろうか、と
思案している矢先、強い風がふいて
少女の髪を彩っていた紐が飛ばされた。

少女はそれを見失ってしまったのか、
肩を少し落としてまた歩き出した。

その紐は、というと。
夕焼けに溶けたようなそれは、
地に落ちる前に男がその手に収めていた。

走れば、追いつく距離だった。
男は迷い、そして、走った。

「コノハ様!」

「ざ、ざ、ざ、ザバーニーヤさん?!」

驚いた様子の少女に、
驚かせてしまって申し訳ない、という気持ちと
言葉を交わせた、という喜びが入り交じる。


「あ、あの、それ…」

少女がおずおずと指を指す。
細く小さな少女の指が示すのは男の手に握られた紐だ。

「先程、貴女様が風で飛ばされたものでございます。
 丁度、手の届く位置に来ましたので。」

少女は目を丸くして
いつから見てたんだろう、なんて顔をしたあと
申し訳なさそうに頭を下げた。

「す、すみません…その…ありがとうございます。 」

申し訳なさそうな少女の頬は、
夕焼けのせいか赤く染ったように見えた。

「いえ、お渡しできて、よかった。…コノハ様、
 少しばかり目を瞑って頂いてもよろしいですか?」

そうだ。こうしてしまおう。

「?は、はい。」

少女がきゅっと目を閉じる。
男は懐からあの髪飾りを取り出し、
少女の髪に触れる。
紐を髪飾りで抑えるようにつけた。
自分のこの感情想いも添えて。

「もう、目を開けてくださっても構いません。」
「え、えっと、あの…」
「その…飛ばぬように、抑えをつけさせていただきました。
 …ご帰宅された後、不要とあらばお捨て下さい。…では。」

そういって背を向ける。
あぁ、自分は平静を保てていただろうか。

背後から聞こえたお礼の声に振り返って少し頭を下げる。
きっと、夕焼けが赤く染った頬を隠してくれただろう。

願わくば、己の瞳の色と同じそれが、
少女の傍に在らんことを。


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