▼ トリトン先生と少女
ふと、プールに行ってみた。
ある休日の穏やかな昼下がりの事だった。
水底にその人はいた。
目を閉じてただそこに沈んでいた。
少女はギョッとしてプールに飛び込んで
その人を水面へと引きずり出すと
その人もぎょっとした顔をしていた。
「なんだコノハか…って何故泣く?!」
「…トリトン先生死んじゃったかと思った」
ぐすぐすと泣き出した少女に戸惑いながら
男はそっと少女を抱き寄せる。
自分よりもずっと高い体温は少しも煩わしいと思わなかった。
「コノハ」
少女は名前を呼ばれ顔を上げる。
男の青い髪、滴る水滴が陽に照らされきらきらと光っていた。
「お前俺がマーマンだって言ったのを忘れたか。」
「…あ」
「あ、じゃあない。全く昼寝の邪魔をしおってからに。」
「えと…ごめんなさい。」
「…全く…。ほら、出るぞ。風邪をひくかもしれんからな。」
男は少女の手を引いてそっとプールから上がる。
手を引かれた少女が少しだけ手を握ると、
男も優しく少女の手を握った。
「トリトン先生」
「なんだ」
「大好きですよ。」
「…あー…あぁ。そうか。…ほら、とっとと着替え来なさい。」
「はーい。…トリトン先生」
「む?」
「トリトン先生がどっかに沈んでても、
さっきみたいに引きずり出しますね。」
少女は笑ってそう言った。
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