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髪飾りの話(ザバ主2)

少し出かける用事が出来たので鏡の前で身支度をする。
折角だ髪飾りでもつけよう、
とふと手に取ったのはサテンのリボン。
見た瞬間、あの人の色だ と目を奪われたそれ。
鮮やかな、炎の色。

あの人は、きっと振り向かない。
だからそっと、想いを抱くこと位は許して欲しい。
傍に居てくれたなら、と。

あぁしかしながら、きっと
この想いは誰にも気づかれていないだろう。

この炎の色をみて、
ある者は『花の色』と言った。
ある者は『美味しそうな色』と。
ある者は『オレンジ色』と。
誰も、『炎の色』とは言わなかった。
私がただこの色が好きなんだろう程度に思われている。
証拠に、贈られたもの達はみな似たような色ばかりだ。

炎の色をしたリボンは、ただ冷たく光っていた。
髪にリボンを飾って時計を見ればちょうどいい頃合だった。

さぁ用事を片付けよう。
少女は寮を後にする。

そこからバタバタとあっという間に一日が過ぎ、
帰る頃にはもう夕暮れだった。

リボンと同じ色をした空を眺めて少女は帰路につく。
ゆっくり、あるはずがない、とわかっていながら
想い人にあえないだろうか、と歩いていく。
そんな少女を嘲笑うように強い風がふいて、

「あ、」

あぁ炎の色は、夕焼け色に攫われてしまった。

見失ったソレを、探そうとして、やめた。
諦めてしまえ。見つけるのを恋心ごと

少し下を向いて歩く。あぁそういう時もあるさ、と。

悲しい気持ちで、歩いていく。
悲しい、もいつかは消えるだろう。

小さくため息をついた時、
後ろから聞こえるわけがないと思っていた声が聞こえた。

「コノハ様!」

想い人が、そこにいた。

「ざ、ざ、ざ、ザバーニーヤさん?!」

走ってきたのか、珍しく肩で息をした彼の手には、
先程無くしたあのリボンと思われるものが握られていた。

「あ、あの、それ…」
「先程、貴女様が風で飛ばされたものでございます。
 丁度、手の届く位置に来ましたので。」
「す、すみません…その…ありがとうございます。 」
「いえ、お渡しできて、よかった。…コノハ様、
 少しばかり目を瞑って頂いてもよろしいですか?」
「?は、はい。」

少女がきゅっと目を閉じ、少しすると
髪を撫でられる感触と、パチリ、と小さな音が聞こえた。

「もう、目を開けてくださっても構いません。」
「え、えっと、あの…」
「その…飛ばぬように、抑えをつけさせていただきました。
 …ご帰宅された後、不要とあらばお捨て下さい。…では。」

そういって背を向けた彼にお礼を言うと、
少しふりかえってぺこり、と頭をさげられた。

少女は嬉しくなって、早足で歩く。
あぁ、あぁ、きっと、今
自分の顔は真っ赤になっているだろう。
寮につく頃にはさすがに落ち着いていた。

悲しい気持ちは、恋する乙女の前には
簡単に破れてしまうようだ。

鏡を見ると、ああ確かに。
リボンは小さな髪留めに捕まっていた。
鮮やかな黄色の飾りのついたそれは、
きっと明日、炎の色と寄り添うのだろう。



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