▼ ハンドクリームをおすそわけするザバ主2
しまった、
と少女は顔を顰めた。
手のひらに乗った白いもの。
何の変哲もないハンドクリームだ。
何の変哲もないハンドクリームなのだが問題はその量だ。
出しすぎたのである。
「あぁー…やらかした……。」
そういいながら手にクリームを揉みこんでいく。
ぬっちぬっちと音がなるほど出しすぎるのはよくある事で
そういう時はリョウタやシロウあたりに
"おすそわけ"と称して押し付けるのだが
生憎とその2人はそばにいない。
はてどうしようかと手を捏ねながら遠くを見やる。
「お?」
その先に見つけたのは見知った顔。
あちらもどうやらこちらに気がついたようで
こちらに向かっているようだ。
軽く走って傍へと向かうと
穏やかな笑みを浮かべたザバーニーヤがそこにいた。
「ザバーニーヤさん!」
「コノハ様、お久しぶりにございます。」
「珍しいねこんなとこにいるの。」
「えぇ、少々野暮用がございまして。」
「あ、そうだ。」
そうだ。彼に押し付けてしまおう。
「?」
「ザバーニーヤさん、手、だして?」
「コノハ様の頼みとあらば…。しかし、何故?」
すっと指を揃えて出された右手。
その手をキュッと両手で掴んだ。
「な、コノハ様?」
「ザバーニーヤさんにおーすそわけぇー。」
自分よりもずっと大きくて、温かな手は
思ったよりはかさついていない。
アルスラーンさんの油のおかげかなぁ
などと思いながら余剰なクリームを"おすそわけ"する。
暫くするとすっと左手が出された。
「そ、その…此方も、おすそわけ、してくださいませんか…。」
「いいよぉ。」
少女はにへっと笑って左手も同じようにクリームをわける。
2人分で丁度の量を出すなんて
出しすぎにもほどかあるなんて少女はボヤく。
男は聞いているのか聞いていないのか
曖昧な返事をした。
いつの間にかその手は離れていて、
少しばかりの雑談をしていたら、
すぐにお別れの時間はやって来てしまった。
「助かったよ!ありがとうザバーニーヤさん!」
「お役に立て、なによりです。コノハ様。」
「帰る時気をつけてね!」
「はい。コノハ様もお気をつけください。」
少女はいつもよりも幾分か
赤い頬をした気がするザバーニーヤに笑いかける。
男もそっと笑って背を向けた。
その背に向かって軽く手を振って、
少女も帰路につき、
その途中で男の手の温かさを思い出して、
小さく微笑んだ。
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