▼ 天使長の心臓が金の杯だったらなあ
きっと、この感触は忘れられないと思う。
金の杯を傷だらけで倒れた天使長の胸へと押しつける。
金の杯は沈むように飲み込まれていく。
…それはまるで内臓を直接触るような感覚がした。
「ッ…コノハ…さま…?」
金の杯が完全に呑まれ
少女の手がぺたりと天使長の胸に着いた時、
その閉じられていた瞼がゆっくりと開いた。
「ゲホッ…コノハ様…ご無事ですか?」
自分の方がずっとずっと傷だらけなのに
天使長は真っ先に主たる少女を気遣う。
足は潰れ、腹には風穴が空いて、
指の1本動かすのすら辛いであろうに。
天使長が倒れゆく瞬間に足元に転がった金の杯は、
きっと、天使長の心臓だったのだろう。
壊れぬように抱き抱えて、息を殺して、
そうしてこうやって彼に還した。
「天使長、」
「…コノハ様。どうか、どうか涙を流すのをおやめ下さい。」
「ごめん…ごめんね…私、まだ、逝って欲しくなかったの。」
「…」
「ごめんなさい、まだ、終わらせてあげれなくて」
「……この身は、あなたへと捧げたもの。」
天使長はそっと少女の頬を撫でる。
「いつの日か共に杯へと還りましょう。」
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