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ありえないけど泣かせたかったそんなザバ主2



「神様、神様、懺悔します。」


ある夜の事だった。
施錠のために訪れた夜の礼拝堂の中、
聞きなれた声が聞こえた。
音をたてぬように扉を開けると、
月の光が差し込む中、主である少女がそこにいた。

「私は、好きになったらいけない人に、恋をしました。」


静かに、静かに、しかしはっきりと、その声が聞こえた。
思わず、ガタリ、と音を立ててしまった。

バッと振り返った少女は、あまりに美しかった。
思わず見蕩れかけたが、なんとか平静を保ち
ゆっくりと少女へと歩いていく。

「…その、コノハ様。」
「ごっごめん!忘れ物しちゃって…」

昼にね、マリア達と来たんだ。と少女は笑う。
あぁきっと、その声は聞こえていないだろうから、と。
男は少女の前に両膝をついた。

「えっなに、なに?」
「…コノハ様。…もうしわけありません。その…」
「…あ、えっと…きこえて、た?」
「はい。…ですので、私の懺悔を聞いていただきたく。」

少女がよく言う言葉だ。
自分が何か言ってしまったら、
同じようなことを言ったらおあいこだと。
ならば懺悔には懺悔をと、

あぁそうはいったのだが。

「…ザバーニーヤ?」
「… 」

この口は、それを吐くことを拒みだす。
言わなければ、気づかれない。
気づかれないならば、まだ想ったままでいられると。
彼女に愛される誰かが、
羨ましいと強欲にも思う自分が忌々しい。
その忌々しい自分を愛しい彼女に晒すのが怖かった。

あぁ、なんて不甲斐なさだろうかと。
口を噤んだまま、ただ想いだけが瞳から溢れて零れた。

涙で濡れた頬を、少女の小さな手が包む。

「コノハ、さま」

声が震える。
自分よりもずっと低い体温のその小さな手が、
愛おしくてたまらなくて、また涙が溢れてくる。

「あなたが、愛おしいのです。」

漸く出た言葉は、懺悔というよりも、愛の言葉だった。

「我が主を、愛してしまったのです。」


『愛していけない人を、愛してしまったのです。』


少女と同じ懺悔を、吐くつもりだったのだ。
ボロボロと涙を流しながら、
男はただ少女を見上げていた。

少女は小さく笑って、男の唇にそっと口付けた。

「…?…!」

男は目を見開いて少女の瞳を見つめる。

「…ザバーニーヤ、私、もう1個、
 懺悔しなきゃいけなくなっちゃった。」
「コノハ様…?」
「私ね、世界で一番大好きな人をね、
 こんなに沢山泣かせちゃったの。」

少女はぎゅっと男を抱きしめた。

「だから、ね、ザバーニーヤ。
 私のこの罪、…許さないでいてくれる?」

男は何も言えず、ただ少女を抱きしめた。



月の光だけが、それを知っていた。


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