悠揚的日常


15.悠揚的日常

さぁ、皆さん思い出していただきたい。俺が遊戯的に過ごした休日を。あれからおよそ2週間が経った。

その間に勝己との結婚を親や学校に報告したり、婚姻届を書いたりした。ちなみにこの事を知っているのは両の手にちょうど収まるくらいの人数。

互いの両親、校長、相澤先生、静、俺が元いた事務所の所長、勝己のサイドキック…それだけだ。

休みの日に婚姻届を出しに行こうとした敵が暴れてお預けになり、籍を入れられていない。

そして現在とあるバラエティ番組の収録中である。

が、それが地獄なんだ。



『やっほー!今日は人気ヒーローの烈怒頼雄斗とセロファン、カーミングそしてチャージズマでランチでーす』


上鳴のアホみたいに高いテンションが聞こえる。


『ファッションチェック!!!』
『うぉ、唐突』


引き気味で映し出される切島、瀬呂、俺、上鳴。


『は??いいじゃん!じゃせめて特徴だけでも!』
『どういう系?』
『……綺麗系。すっごく真っ直ぐで…料理も上手。斜め上を行く愛情表現する……みたいな?』
『メス顔のくせに…』
『だから、それ関係ないじゃん』


ランチしながら惚気る俺。


『広めの個室でコイツに一式合わせて欲しいのと、俺もシャツ2枚追加でお願いします』
『お前慣れてんなー俺こういうところ初めてだから緊張するわ』

『これとか良くね!?生地も迷うなぁ』
『俺は断然スリーピースだわぁ、これにしよ』


スーツ一式を新調するために採寸してる切島と瀬呂。


『速かったじゃねぇか…………おい、凪』
『やっほーかっちゃん遊びに来たぜー!』
『急に悪ィな』
『お前の手料理食べれるってんで来ちまった』
『…というわけです。爆豪さん』


爆豪宅へ突撃する俺たち、とキレる勝己。


『っしゃああぁ!!!』
『クソ凪、卑怯な手使いやがって!』
『ヨガしてたから関節技痛くなかっただけ!』
『こンのくそメス!!』
『ッブ、おい!個性使ってンじゃねぇ!』


手合わせ(プロレス)大会の決勝。と床にキスの勝己。


『よっし!じゃあ、プチ同窓会と致しまして…』
『『『『かんぱーい!』』』』
『……うっせ』


『お前が幸せならそれで良い!!』
『………俺、今日お前らと過ごせて幸せだわぁ』
『メスぅ!!』
『お前ってやつは!俺も良いダチ持って幸せだ!』


プチ同窓会でベロベロの俺。


『むっちゃ有意義な休みだったわー』
『明日からも気張らねぇと!しゃー走って帰っか!』
『酒回るぞー。てかまだ回してたのね、カメラ』
『ヒーローの休日これにて「完」ってな』


夜道を語らいながら帰る3人。


この場に爆発野郎がいなくて良かったと心底思う。個性使って地面に沈めなきゃ出演者に怪我させてもおかしくないくらいふざけた映像だった。

特に手合わせのとこ。イジリのナレーションよ…


「チャージズマにカメラマンを依頼していたんです!…爆心地はこの場にはいませんが、5人の素の休日が見れましたね」

「そーそー特にカーミング!私服もイケメンで爆心地にも勝つくらい強いくせに、酒と恋人にベロンベロンですやん!」

「止めてください……俺のキャラがぁ…」


地獄だ。地獄の時間だ。俺にフォーカスがあたる。MCのイジリがガチで恥ずかしい。お客さんたちも地に足着いてない感じで俺たちに視線を向けている。ふわふわしながら期待すんなよ。

ドSでクールなキャラが定着しつつあったのに、これが放送されるとき…それは俺が恋人大好きマンになるときだろう。大好きだからいいけどさッ!?


「本日ゲストが来てくれているらしいんですけど……4人に関係のある人が来てくれているみたいです!拍手でお迎えくださーい!」


客席や俺たちの拍手に合わせて室内が薄暗くなり、ゲストが来るであろうカーテンの向こうにスポットライトがあたる。

シルエットは……身長は180はあるか…あー、あの人は、俺がいつも会ってる…


「イレイザーヘッドでーっす!!」

「うっわなっつかしい!」

「どーも、さっきぶりです」

「メディア嫌いなのによく来てくれましたね!」


イレイザーヘッドこと俺たちの恩師相澤先生。俺は雄英で毎日顔を会わせているけど、コイツらにとってはかなり久々の再会らしい。本当によく出る気になったもんだな。

ゲストと言われてまさかの勝己か?ってなったけど本当によかったぁ……


「俺は代役だ」

「代役?誰のですか?」

「爆心地」

「「わぁーお」」


本当によかった!!!!

相澤先生ありがとうございます!!代役でも何でもいいから、アイツがここにいない事実が俺を救ってくれる。瀬呂と二人で感嘆の声をあげた。

相澤先生からはVTRの中であった問題児についてや、俺たちの高校時代のエピソードを先生目線から話してくれた。

今だからわかるけど、高校生たちを相手にするのって大変だ。思春期真っ只中で扱いにくい感情や個性を正しく導かなければならないから。その点相澤先生は厳しくも甘く指導してくれた。

若干保護者目線に先生の話を聞いていたら、相澤先生がおもむろに切り出した。


「カーミング。あの件……アイツ代理立てて出したぞ」

「あの件………?………………は?、まさか…ッ」

「今日行ったんだとよ。電話で報告してきたぞ。あの暴れ馬どうにかしろ。得意だろ」

「得意ですけど…え、出した…?は?」


なんてこった……一緒に出しに行こうと言っていたのに代理が出した…?それって、婚姻届だよな?

代理は光己さんだろうか……時間がなくて一緒にいけなかったのが悪いんだけどさ……、まぁ一緒に行けば役所パニックになるから、行かなくて正解だったのかな。や、それでも俺に一言あってもよくない?


「…明日の業務はルコウソウが請け負うから……恥ずかしくないようにしろ、だそうだ」

「ぅあ〜〜〜なんて良い子なんだ〜」


俺と相澤先生しかわからない会話。静の気遣いに両手で顔を覆い天を仰ぐ。色んな人が協力してくれた。勝己を随分と待たせてしまった感じがあるが…

ああ、俺もうアイツの正式なパートナーなんだ。待ちに待った日だ。まだ心の準備できてなかったけど…実感もねぇ…。そっか…結婚、したんだ。

天を仰いだままの俺に周囲は興味津々だ。こんなところで話す内容だから別に聞かれても問題ない……問題あるけど。

むちゃくちゃ聞きたそうに上鳴とMCが顔を覗いてくる。こっち見んな。


「なぁ、なんだって?」

「仕事…の話じゃないっぽいけど」

「あーたぶん、…明日にはわかるから、待ってて」

「何死にそうな顔してんの?」

「うっせぇよ、ほっとけッ」

「まぁッ!お口悪い!どっかの誰かさんにそっくりだわ!!」

「きしょい」


両手で顔を覆ってみても耳までは隠すことができていない。耳だけじゃなく顔まで赤くなっている自信があった。収録だからこれが放送されるときにはあることないことナレーションで付け加えられそうだ。


「イレイザー、明日ありがたくお休み頂戴します」

「スーツ着用らしいぞ。その後も、まぁ頑張れ」

「うっす…腹括りますわ」


明日は忙しくなる。



 *



 *



昨晩、スマホに送られてきていたホテルの住所と集合時間。手にはアタッシュケースが2つ。中にはヒーロースーツとフォーマルスーツ。

あのね、昨日先生に言われたスーツがどっちかわからなかったの。今思えばコスチュームの場合はそう言うから、今日着用するのはフォーマルの方だったかな。

朝の8時前だというのにホテルの近くには報道陣の車が複数台停まっている。黒髪のウィッグ被ってきた俺ナイス。


「(アイツが情報出したの1時間前だっつーのにな)」


勝己は10時からここで記者会見をするという旨のファックスを報道各社に送っている。それは雄英にも来たみたいで静から連絡があった。

俺が教員寮を出たのが6時頃だったから文面は直接見ていないけれど、かなり挑発的なものだったらしい。"数字が欲しけりゃ来い"的な。

ホテルに入り指定された部屋へと足を進める。


「っよ。もう準備できてんだな」

「…籍入れて初めて交わす言葉がそれかよ」

「なぁに?じゃあダーリンおはようとかの方が良かった?」


部屋はハイクラスの広いところ。そこで勝己はスリーピーススーツに着替えて髪の毛もワックスで固めている。ネイビーに赤黒いシャツ。i・アイランドで着ていたのに似ている。

アタッシュケースを床に置きそのまま手は彼のを握る。指輪はまだない。


「…連絡した通りだ。籍も代理が入れた、あとは今から公表すれば良いだけだ。そんでお前が俺のだって周知される」

「やることなすことぜーんぶ斜め上行くからさ…俺がお前に好きって言うだけじゃ下らなくなっちゃうじゃん」

「俺は凪からのそれが聞きたくてやってんだが?」


サプライズは準備しているけど、たぶん俺はコイツに一生敵わない。俺だって尽くすタイプだ。勝己の場合は捧げるタイプなんだけどね。

合わせていた額を離し、唇が合わさる。ぬるりとした舌からミントの味がした。舌を浅く絡め可愛らしく、性的に……ケツに回された腕が揉みしだくけどそれは今日が終わってから。


「ねぇダーリン。俺今から着替えるんだけど、かっこよくなるようにセットして欲しいな」

「メス顔がどう頑張っても無理だろ」

「酷くない?」


冗談だと髪の毛を掻き上げてデコにキスしてくる。なるほど、デコを出せってか?俺も彼と同じスリーピースのスーツで俺のイメージカラーである濃い青色のシャツを身に纏う。

結局髪型はハーフアップで長い前髪はワックスで緩く上げた。スタイリストKatsukiはここでも才能を発揮している。


「そろそろ時間だ」

「あー、帰りてぇ…」


お腹が痛くなって姿勢が悪くなった俺の背中をビシッと叩いて気合いを入れられる。


「行くぞ」

「はいよ、ダーリン」


いざ、門出。



 *



 *



『大変お待たせいたしました。えー、皆様本日は…急であるにも関わらず、ヒーロー爆心地の記者会見に足を運んでいただき誠にありがとうございます』

「え、何で?」

「司会…?」

『本日、司会進行を務めさせていただきます…ヒーローカーミングです。よろしくお願いします。爆心地にお前が司会しろって言われたんですよ。お手柔らかに〜…』


始まった記者会見。勝己はまだ壇上に上がっていない。俺の司会なんて誰が望んでいるのか知らないけど、ザワついている疑問に答える。

昨日ね、連絡来たときに”カモフラージュにお前が司会しろ”って言われたんだよね。


『えーっと…早速ですが、皆さんを呼び出した張本人に登壇していただきましょうか。おーい爆発さん太郎くーんよろしくー』

「てめ、殺すぞ」

『こっわ』


ちょっと会場の緊張を解そうとしただけなのに。今回の記者会見は重いものじゃないからさ。

俺に暴言と睨み付けをプレゼントして、壇上に用意されていた席につく。


『数字が欲しけりゃ俺の記者会見に来い…としか告げられていないので今から何が始まるのかとお思いでしょう……前置き長くても心臓に悪いので、爆心地さんやい、どうぞ』

「お前テキトーかよ」

『本職じゃないんだし。テキトーで良いって言ったじゃん』


勝己にバトンタッチして、マイクを手にした彼は会場を見渡す。生中継のためのカメラが並んで、カメラマンも沢山レンズをこちらに向けている。フラッシュが眩しい。


『私、爆心地は……昨日入籍したことをご報告させていただきます』


光で目眩まし状態だ。本当にチカチカするもんなんだな。驚きで溢れている報道陣を個性で落ち着かせる。うっわ、俺ファインプレー。

彼のフォロワーもいたようで、記者の女性は号泣し始めてしまった…なんかごめんなさい。


『とても賑わっていますが、一度カームダウンしましょう。それでは、質疑応答に移らせていただきます。ご質問のある方は挙手をしていただき、ご質問の際には媒体名お願い致します』


適当に目の前にいた記者を指名する。


「Ntvです。ご結婚おめでとうございます。あの、お相手は?一般の方でしょうか?」

『いや、ヒーローだ』

「!?どなたですか!!?」

『カーミング』

「「「「「「「!!!」」」」」」」

『はーい、俺でーす』


さっきまで勝己にカメラが向いていたのに一気にこっちだよ。もうちょっと溜めて言えば面白かったのに、あっさりと言ってしまった。

緩く笑って手をヒラヒラとさせれば、挙手をしている記者。


『質問どうぞ』

「君主カーミングは恋人がいたと言っていましたがッ?」

『彼ですよ。真っ直ぐで、料理上手で愛情表現が斜め上を行く?綺麗系…間違ってないでしょ?』

「高校時代から付き合っている女性って…」

『恋人としか言ってないよ。今は俺の愛しい夫だ』


あんぐりと口を開けて信じられないと言っている。友人たちに話したときだったり、テレビに出たときだって嘘はついていない。

勝己の隣に並ぶとフラッシュが再び。目が眩むけど、言いたいことは鮮明に持っている。


「Tテレビです。何が結婚の決め手となったんですか?カーミングからお願いします」

『何年か疎遠の時期があったんですけど…再会したとき逃げられないなって思ったんです。で…実際に逃げられなくて、ずーっと胸がザワザワして落ち着かなくて…自分の気持ちに素直になったからこの結果です』

「ありがとうございます。爆心地は…?」

『……色々障壁はあるが、離したくねェと思った。俺のにするために無様にもがいたんだ。もう離す気はねェ』


ありがとう。臆病な俺たちはもう終わりだ。


『男同士というマイノリティな結婚に批判的な人たちはいると思います。それを気にして友人にも話せなかったし…』

『愛した奴がたまたま男だった、それだけだ。言いたい奴はゲイだのホモだの言えばいい。ぶっ殺しに行ってやる』


物騒に威嚇する。男が好きとか、女は抱けないとかそういうのはない。ただ、好きになった勝己が男だった…本当にそれだけ。


「ymur新聞です!フォロワーに一言お願いします!!」

『祝え、じゃなきゃ爆破だ』

『物騒なのはやめなよ。そうだな…がっかりさせた部分はあるかもしれない。悠揚凪は勝己のモノになったけど…カーミングが君たちのヒーローでありたいと思っていることを忘れないでほしい』

『けっ、』


他にもどちらが告白したのか、互いの好きな所、休みの日は何をするのか、新婚で別居婚を選択した理由とか沢山の質問があった。

2時間に及ぶ会見もそろそろ終わりだ。万人が俺たちの結婚に賛同するとは思っていない。だから答えられることや思っていたことは素直に全て話した。

祝福してくれる同僚や仲間、家族。人目を隠れたり、気持ちを隠すことはもうない。全部で彼を愛せる。だから、その証を持ってきた。


「俺を選んで、離さないでくれてありがとう」

「そのメス顔しまえや」

「ふはっ、そのメス顔から勝己へプレゼントです」


ポケットから出したのはシンプルなゴールドの指輪。ゴールドは強さを表すから彼にぴったりだ。ちなみにサイズは寝ているときに測った。

人差し指と親指でわっかを見せアピールする。勝己はそれを見て目を見開いたが素直に左手を出してくれた。いつも驚かされてばかりだから、これで少しはいつもの仕返しができたかな。


「これは誓いの証」

「……お前、考えること俺に似てきたよな」

「………何でだよ、ホント斜め上だったわ」


同じく勝己がポケットから出したのはシルバーの指輪。まさか俺が買ったのと同じブランド…シリーズも同じじゃないか。

俺が斜め上ではなく、斜め明後日くらいの発想をしたのに…やっぱり敵わないなぁ。

左手薬指に色違いのリング。

その手で頭を引き寄せキスをする。歓声がわーわーきゃーきゃー。カメラががパシャパシャチカチカ。

腰と右頬に添えられる手は硬いけど優しくて、よくもまぁ昔の俺はこの手を離しちまったよな。今となっては俺の方が離したくなくなって、もっと甘えたくなる。

それぞれの仕事やライフスタイルがあるから、今は一緒に暮らすわけじゃない。いずれは…と思う。

キスをしていたら早く二人きりになりたくなった。さっきのホテルの部屋でイチャつくか…?勝己の家に行ってまったりするのも良い。


「最後に写真を撮らせてください!」

『3分間だけ待ってやる!良きに計らえ!』

「「「君主様〜ッ!!」」」

『いらんファンサすんな』


確かに過剰ファンサだった。でも勝己と二人の写真を撮ってもらえるなら多少の際どいのなら目を瞑る。キスを晒したんだから、くっつくくらい安いだろ。

勝己の左手を取り重ねて正面に見えやすいようにした。後ろから右腕を腹に回し軽くハグした彼はご満悦。その手も重ねれば、俺たちの世界が出来上がった。

ドキドキして落ち着かないのはやっぱり勝己の近くにいるせいだ。今は彼の人生の中で生きたいと思う。

過去の事が気がかりで"これから"のことについては薄情だった。離れていた時間は今の愛しさを運んでくれたんだな。

喉から手が出るほど欲しい彼が俺の背中で笑ってる。


「ねぇ、勝己」

「あ?」

「狩ってくれて、ありがとう」

「……3分経った。この後は俺が凪を可愛がる時間だ」




この後だけじゃないよ。


ずーっと、だ。




号外には俺と勝己の満面の笑みが使われた。




*




*



p.s.フォロワーのロスが激しかったそうです。

いや、正確に言えばROT(腐る)が激しいとか何とか…

知ったこっちゃねぇ。




【悠揚的】
ゆったりとしてこせこせしないこと。ゆっくり上がり、広がること。


俺の日常。



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やっとこさ最終回。長いことお待たせいたしました。
最後がなかなか決まらなくて12月に入っちゃったよ。
彼らを応援してくださってありがとうございました。
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