「シオン、俺と結婚しろ」
何でもない日いきなり彼からの命令口調で言われた。
彼を見ると目を伏せ眉間にシワを寄せちょっと唇が尖っていた。
この人のこういうところがたまらなく好きだ。
*
「で、皆さんに婚約のご報告をと思いまして」
「おめでとーシオンちゃーん何だか私が嬉しいー」
「シオンさんが人のものなってしまうだなんて」
「もっと早く結婚してもよかったと思うわ」
「確かにー!でもクラスで爆豪が一番て意外!」
「そりゃシオンが相手だからでしょ」
「良い奥さんになる予感しかしないね!」
私ではなく旦那の元クラスメイトに女子会と称して報告をした。この子達とは何の因果か、入学してから卒業するまで様々なトラブルを共に乗り越えてきた仲である。
ぶっちゃけ私の元クラスメイトより縁が深い。
「お酒飲んでるってことは妊娠はしてないんだ」
「してないよ、それにこのタイミングで?ってな感じでプロポーズされたし」
「「「詳しく!!」」」
「あははー、、」
*
*
高校を卒業して5年。
20歳で勝己くんが独立して自分の事務所を立ち上げた。
勝己くんがこんなにも早く独立できたのは私のおかげであると自負している。
高校入学したての「君をマネジメントする」発言が現実になってさらに5年。今年で25歳だ。同棲2年目。公私ともにマネジメントしております。
プロポーズされたのは本当に何でもない日。
今日は事件もなく比較的早く帰ってきた勝己くんを出迎える。私は主に事務仕事だから9ー17時にシフト管理されている。
社員の残業がほぼなし、まぁそれは事件の有無に関わるし夜勤もあるけど残業した場合は給料はもちろんのこと、程度によっては休みが倍に増えるとんでもホワイト会社だ。
サイドキックも増えてきて再来月にはテナントともおさらばしてついに念願の爆心オフィスが完成する。
「おかえりー」
「ただいま、」
「オフィスどうだった?」
「まぁまぁだな、金使って建てただけある」
まぁまぁとか言いつつちょっと嬉しそう。
独立時に建てる計画もあったけど人気だけど若手だし、普通の事務所しか作れないことがわかり貯金に専念した。
昔と比べると性格の角がとれて雰囲気が柔らかい。口はやっぱ悪いけどね。
「オフィスまでここから近くなるしいいね」
「寝坊しても急がなくてすむな」
「んもー」
こんな言葉のキャッチボールができるようになるだなんて、出会った頃が懐かしい。
「ふふ」
「…何笑ってんだよ」
「んー出会った頃を思い出しててさー、君をマネジメントする発言がまさか公私ともにマネジメントだなんて当時は思ってなかったからねぇ」
「ホント意味不だったわ」
「晩ごはんできたからお皿手伝って」
読んでいた新聞を置いてこっちに来ると思いきや書斎に向かってしまった。何か事件のこと思い出したのかな?勝己くんは小さな出来事を繋ぎあわせて答えを導き出すことができる。事件だけでなく付き合ったのもそれがきっかけらしいし。
さほど気にかけることなく戻ってくるのを待とうとするとすぐさま戻ってきた。
「難しい顔してどうしたの?」
目付きは元々悪いけどいつもと違う。何この顔。
「なぁシオン」
「ほい?」
「今の生活は満足か?」
「そうだねぇ、自分がやりたいことできてるしぃ、好きな人とも一緒にいれてて満足してるよ。でも勝己くんをNo1ヒーローにしてないからまだ満たされることはないねぇ」
また難しい顔だ。
「俺も満足してねぇ」
「うん、これからも精進しなきゃね」
「必ずトップになってやる。」
「うん」
「シオン、俺と結婚しろ」
その表情を見てさっきの難しい顔は何て言おうか考えてたんだなぁって愛しくなった。
何でも計画的にする人だしプロポーズの言葉も本当は別のがあったはずだ。衝動的に言ってしまった感が伝わってきて顔が緩むのを感じる。
「…はい」
私も悪態つくか捻りを返した返事をしようとか考えてたんだけど、最近はオフィスの話ばっかりで結婚の話は過去の産物になってたから油断しちゃったよ。
切羽詰まったとき人って思考停止するの本当だな。
「シオン」
勝己くんの腕が延びてきて私を胸の中へと引き込む。
「誰よりも幸せにする。何からも守ってやる。だからお前は俺を一生マネジメントしとけ」
彼から甘いニトロの香りがする。
しばらく抱き締めあったあと目をあわせる。
この目だ。この目は私を捕らえて離さない。
どちらからともなく顔を近づけ唇を合わせる。
「っん、……っふ」
「っは」
長く深い深い口づけ。何度もしてきたけど今日はいつもより深い。何だか約束の日みたいに特別で温かい。互いの舌を絡め、もっと深く、もっと貴方が欲しいと。
「ハっ」
「っふ………、愛してる」
訂正しなくちゃ。
「私も愛してる、最高に満たされて幸せ」
ドラマや映画で『愛してる』とか『幸せ』とかなぜ月並みな言葉しか出てこないんだろう、なんてって思ったことがある。
そりゃそうだわ。
だって、
それ意外何も考えられないんだもん。
「で、なんでこのタイミングなの?」
「高1の体育祭のお前思い出したら言いたくなった」
「何かしたっけ?」
「っん!? …決勝でお前がっ!!!!!」
*
"私、君じゃなきゃダメみたい"
あー、言ったわ
こんなことになるとは思ってなかったけど
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別のシリーズで書いていた爆豪くんのプロポーズ。出すつもりはなかったけどお誕生日企画として手直しをして出しました。かっちゃん、すきぃ。
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