神野区、夜。
「雄英の記者会見が間もなく始まります。準備を進めてください」
「ハーツ、記者会見の様子君は見ていてくれ。同時にアジトの様子も視られるか?」
「わかりました、できます」
画面の向こうに映るのは相澤先生とブラド先生、そして校長先生だ。いつもは着ないスーツ姿で身なりを整えた相澤先生に違和感しかない。
記者からの質問は心ないものばかりで、結果が全てのヒーロー社会。そして教育機関としての在り方を非難される。聞いてて胸くそ悪い。
『事件の最中生徒に戦うように促したようですね、その意図をお聞かせください』
『生徒の個性により状況の把握はできていたものの、敵の数や狙いを阻止する…及び最悪の事態を避けるべくそう判断しました』
『最悪の事態?26名もの被害と1名の拉致は最悪といえませんか?』
『私どもの想定した最悪とは生徒がなす統べなく殺害されることでした』
あの時の相澤先生の判断は間違っていない。爆豪くんは生きている。拘束された状態だけどまだ折れてはいない。敵だってその指示のおかげで捕まえることができたんだから。
「塚内さん…死柄木が動きました…」
動いた、けれどこれはまだ隙じゃない……
『拐われた爆豪くんについても同じことが言えますか?』
何て言った、この記者。
「は?」
『……彼が悪の内の染まってしまったら。未来ある根拠をお聞かせください』
敵みたいだよ、彼は。言動も顔も。だから敵側になってしまうんじゃないかって…?ふざけるな。
勝ちたい気持ちが強いから、泣いちゃうくらい勝ちたいから……勝つヒーローになりたいんだよ彼は。
「憶測で話をするなよ、この記者…ふざけるな…なにも知らないくせに、彼の心が弱いっていうの…?バカじゃないの…」
「環心少女落ち着きたまえッ」
「私は至極冷静ですよ……オールマイト、っは、あの記者いつか潰してやる」
相澤先生も怒っている。上部だけの彼しか見ていないマスコミたちの考えなんてクソくらいだ。
「動きました…爆豪くんの拘束を解いている……位置についてください!」
「今日はスピード勝負だ!敵になにもさせるな!さあ、反撃のときだ!ヒーローよ!」
*
「現代ヒーローってのは堅っ苦しいよなぁ」
記者会見で責め立てられる先生はずいぶんと俺のことを評価してくれてんじゃねぇか。
「俺たちの戦いは問い、ヒーローとは?正義とはなにか……全知だったら教えてくれたのかも知れないけど、捕まえ損ねたからねぇ」
USJで全知と言われていたのはクソスクエアだ。アイツも狙われてたんかよ。しかし、さっきの記者会見で拐われたのは俺一人だという言質はとれている。
「俺達は勝つつもりだ…君も勝つことは好きだろ?」
対等だとか抜かしてやがるがお前らの方が下だわクソが。ようやく身体が自由になった。
俺が敵に堕ちるだ?ンなわけねぇだろ。長ったらしい誘い文句も、嫌がらせしたいから仲間になれってか。
ねぇよ。
「俺はオールマイトが勝つ姿に憧れた!誰が何言ってこようが、そこはもう曲がらねぇ!!」
「じゃあ全知だ。彼女は力で抑え込めば良い」
「っは、あのクソ真面目こそムリだわ。アイツはヒーロー有りきの存在にしかなんねぇ!どう足掻いたっててめぇらに付け入る隙なんぞねぇわバーッカ!!!」
敵は8人。俺の心に漬け込んで勧誘しようってンだから殺されることはない。
戦闘許可は解けてねぇ。だが最大火力を撃とうにも汗は貯まってねぇしワープ野郎が邪魔すぎる。
考えろ…後ろのドアからどうやって出る…考えろ、アイツならどんな選択を導き出すッ。
アイツなら……ッ。
コンコンコン
「どーも、ピザーラ神野店ですぅ」
は?
「SMASH!!!!!!!!!!!!」
「なんだ!?」
「ック、黒霧!!ゲート!!」
「先制必縛…ウルシ鎖牢!!」
「木!?んなもん…」
「大人しくしてた方が身のためだぜ」
「もう逃げられんぞ敵連合!何故って…我々が来た!」
*
「敵全員の拘束を確認!」
『脳無格納庫、制圧完了』
突入から拘束し無力化するまで僅か20秒足らず。さすがプロヒーローだ。
「塚内!なぜあのメリケン男が突入で俺が包囲なんだ!」
「ああ、それは」
「エンデヴァーの方が視野と攻撃範囲が広い。それに警察や他のヒーローたちを統率させる能力も秀でているからです」
「気に入った!」
ぶっちゃけそっちの方が周囲が明るくなって見えやすいからとか口が割けても言えない。
あと……救けに入るのなら彼の憧れである存在であった方がメンタルも少しは回復するから。
「怖かったろうに…よく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ少年!」
「こッ…怖くねぇよヨユーだクソッ!」
ああ、無事だ。視ていても怖かった。信じていても不安だった。そこに彼がいる。
「両チームとも制圧を確認したのであとは……」
ベストジーニスト?
「ラグドールチームに急いで連絡を!!!」
大きな悪意が視える。全てを否定し楽しむ悪意…
[嫌い]
[先生だけ]
[嫌いだ、]
[オールマイト]
「お前が嫌いだッ!!!」
追い詰められた死柄木弔に反応するかのように現れた脳無。制圧したはずのジーニストと連絡がとれない。それにこの悪意は前にも感じたことがある。
「爆豪少年!!?!?NO!!!!!」
黒い液体に飲まれて消えた爆豪くんの辿り着いた先には、
嗚呼、なんて気持ち悪いモノを視せるんだよ。
ALL・FOR・ONE
【是認】人の行為や思想などを、良いと認めること。
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