盛運というもの

寮、クリスマスパーティー終盤。

作った料理や雰囲気に酔いしれる時間があることのありがたみを感じる。


「ハーツさん…これ」

「ん、なぁに?……手紙…?」


パーティーの終盤、デザートに移ったタイミングでエリちゃんから渡されたのは可愛らしい封筒だった。同じデザインのものをいずが持っていたので何かしらのサプライズらしい。

コクコクと頷き緊張で熱くなった頬と一緒に心配そうに笑う。彼女からのラブレターを開くと、練習して覚えた文字で嬉しい言葉が溢れていた。


『ハーツちんへ。いつもあそんでくれてありがとう。こせいともじのれんしゅうがんばる。ぎゅーってまたしてほしいな』


覚えたての文字は拙いけれど想いは十分伝わって少しだけウルってきてしまった。小さい子から手紙を貰うのは初めてじゃないのに、こんなにも胸に響く手紙は初めてな気がする。

彼女の可愛らしい要望通りハグをすれば"嬉しい"の感情が伝わってくる。全面的な信頼と無条件の愛情を知った彼女はもっと欲張りになって良い。

手紙のお返しに髪ゴムをプレゼントした。シュシュを一緒に作った時の余った毛糸で、かぎ針編みで大きい花があしらわれたものだ。それを手に取ると宝石を見るかのように瞳をキラキラさせている様子は年相応の女の子。


「ありがとう、ございます」

「どういたしまして。エリちゃんもお手紙ありがとう。大事にするね」

「ふふっ、うん」


エリちゃんの笑顔につられて自分の頬も緩んでいるのがわかる。年齢的には私の方が彼女にクリスマスプレゼントをする方なのに、心まで暖まるプレゼントを貰った。いずも嬉しさからかちょっと潤んでた。


「皆〜!!プレゼント交換の時間だよー。持ってきたやつに紐結んでね〜」

「常闇のなにそれ、デカい剣…マジかよ」

「俺には大剣が必要なくなったからな」

「おい!カッチャン逃げるなって!」

「いい加減!同調圧力に屈してよ!!足に紐結びつけて!!」


私がクリスマスプレゼントに選出したのは無難に革のカードケース。明るめのネイビーは男女共に使いやすい色味だと思うから、寮の部屋の鍵はこれで保管してくださいなとの意を込めている。

プレゼントたちから伸びる紐を一人一つずつ手に持って一斉に引っ張る。私の紐の先に着いていたプレゼントは少しだけ重みがあって小袋がいくつか入っているものみたいだ。


「環心何が当たった?私瀬呂のだった。当たりだね」

「私も当たりだよ。砂藤くんからので手作りお菓子キット詰め合わせ。ご丁寧にアドバイスまで入ってる」


プレゼントの中にはハズレ…というか貰っても困ってしまうものもあったので、砂藤くんのは大当たりだろう。話しかけてきた耳郎さんが当たった瀬呂くんの服も、センスが良くて彼女にもぴったりだから大当たりだね。

プレゼントの開封式で皆のを盗み見たら、ダンベルであったり金の延べ棒であったり青山くんの写真…、それは流石にドンマイ。


「誰か〜俺自分のと被っちゃったんだけど〜交換しよーよー」

「最初からやり直しと交換はしないってルールだったじゃん。諦めな」

「ジロー酷ぇよ〜自分が良いの当たったからって〜」

「エリちゃんは何が………、まさかの常闇大剣…」


エリちゃんは例の剣に当たってしまったがとても満足気だ。幼女が大剣を肩にかけるというアンバランス…苦笑してアンバランスさを誤魔化すしかできなかった。

私のカードケースは尾白くんに当たったみたい。エリちゃんの大剣に一緒に驚くというか呆れていたけれど、自分のプレゼントに関しては喜んでもらえたみたいで良かった。


「勝くんはなーに?」

「メガネのメガネ」

「…レンズだけ交換してブルーライト仕様にしたら?」


勝くんの手中にあったのは誰からのだったかすぐにわかる飯田くんのトレードマークの眼鏡。勝くんは目が良いからレンズは不要だろうな。


「シオンのは何だったんだよ」

「手作りお菓子キット。エリちゃんと今度作ろうかなって」

「違ェ、出した方だよ」

「あ、そっちね。ネイビーのカードケース。尾白くんに渡ったみたい」

「ッチ…そっちのが断然良かったわ」


お母さんからのお土産のチリペッパーを横流ししたからそれで満足してほしかったんだけどな。


「……他にあげるから、それで我慢してちょーだい」

「は?」


勝くんには一応皆とは別に…言うなれば特別にプレゼントを準備している。彼が仮免を取得したときにマフラーをダメにしちゃったから新しく用意したのと、あとはハンドクリーム。

……恥ずかしいけど、恋人になって初めてのイベントだからね…浮き足立っていたのはこの理由もある。片眉だけ潜めて気が抜けた、意味がわからん的な勝くんの顔を見ることができたから良かったのかな。

パーティー会場の撤収作業。料理もほとんど完食しているし後はお皿を洗うだけだ。それが終わったら勝くんにプレゼントを渡しに行こう。


「緑谷、爆豪、環心…ちょっといいか?」

「「?」」

「もし行く宛がねェなら…来るか?No.1のインターン」


クリスマスプレゼントはこれだけではないようです。



【盛運】
物事が栄える方向に向かっている事。発展する運命。


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寮の鍵は鍵穴なかったからたぶんカードタイプだと思う。
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