夏休み明け、ハイツアライアンス。
「「「「「「「取材!?」」」」」」」
「ああ、お前たちに新聞社の取材が入る」
新聞社からの取材で皆浮かれ気分だ。体育祭などでも注目されることはあったが、正規の取材は初めて。
取材内容としては新しく導入された寮生活について。保護者たちにも雄英生の暮らしぶりを知ってもらうことができるということで許可が出たらしい。
しかし…3年への取材はわかるが1年A組限定での取材。何かとお騒がせだからかなぁ。
「私は寮生活をしている雄英生の生の姿を知りたいんです」
「特田さん、まだ入って良いとは…」
「取材は朝8時から夕方6時です。もう時間になってますよ」
メガネに幸薄そうで柔和な男性。勝手に入ってきてはいるが、彼の言う通り決められた時間をすぎ過ぎているため相澤先生は口を閉ざす。
フリーランスかなぁ。新聞社の取材だったらバインダーとか持ってメモしそうだけど、彼が持っているのは小さめのカメラだけ。校長が許可を出してるから危険のない人物だと判断してのことだろうが…
薄い笑みの向こうは好奇心でいっぱいだなぁ。必要があればアヘッドで視ることも検討しなきゃ。
「1年A組の皆さんは、将来有望なヒーロー候補生じゃないですか……?」
「飯田、問題があったらすぐに連絡しろ」
「解りました!!」
本当に飯田くんって便利だ。後ろの方から傍観する。ぶっちゃけて言えば私は取材に関心はない。本当にいつも通り過ごさせてもらいます。
ギンッと睨まれてるのを感じてそちらを見れば相澤先生が口パクで何か言ってる…、"悪意は視とけ"ってねぇ。小さく頷き理解の意を伝える。
さては校長…私がいるから悪いことしたらすぐに解るさ!くらいにしか考えてなかったんじゃないの…?私も良いように使われてるわ。
関心を向けとかなきゃ…
*
朝8時。
この時間帯の1年A組は朝食らしい。ガチガチな委員長の飯田くんが教えてくれたけど…それぞれ好きなメニューをという感じだ。
高校生特有の、特定の人物たちでグループを作る…これはある程度見られるが比較的男女の隔たりは少ない。
談笑しながらだったり、夢中に食べていたり…朝カレーやカツ丼……よく食べるなぁ。
それにしても朝食だけでもかなり多様化して…へぇ、魚きれいに食べる生徒もいるんだ…
「あ"?何撮ってんだよ!」
「いや、取材なんだから写真撮るでしょ。勝くんさっきの挨拶のとき寝てた?」
「寝とらんわ!つーかシオン。朝のランニング、時間早ぇんだよッ年寄りかよ!」
「だって夏は暑いから5時くらいがちょうどいいんだもん」
盛大にご飯を掻き込み始めた彼は爆豪くん。口の悪さとは裏腹にきれいに食事をしている。対面で同じメニューを食べている女子生徒。
彼とは対照的で落ち着いた印象を受ける。長いストレートの黒髪とシルバーの瞳は自然と人を惹き付ける。
セクハラになってしまうので言わないが、彼女と八百万さんは将来顔でも売れるだろう。今のうちに撮っておかねば。
朝食を終えた彼らは身なりを整えて登校の準備に取りかかる。
授業にもお邪魔させてもらい彼らの様子を伺う…欠伸してしまうところは年相応だ。
1年A組の生徒の名前と個性は……
青山優雅、腹からレーザーを出す個性。
芦戸三奈、体から何でも溶かす酸を出す個性。
蛙吹梅雨、蛙と同じ特性を持つ個性。
飯田天哉、ヒーロー一家飯田ファミリーの次男坊。高速に移動できる個性。
麗日お茶子、触れたものを無重力にする個性。
尾白猿夫、尻尾を手足のように操れる個性。
上鳴電気、電気を身体に貯め放出できる個性。
切島鋭児郎、全身を硬くできる個性。
口田甲司、生き物を操る個性。
砂糖力道、糖分を力に変える個性。
障子目蔵、目や口、耳を腕に複製できる個性。
耳郎響香、耳にあるプラグで小さな音を聴いたり逆に大音量で放出できる個性。
瀬呂範太、肘からテープを出す個性。
常闇踏影、ダークシャドウというモンスターを操る個性。
轟焦凍、右から氷、左から炎を出す個性。
葉隠透、透明になる個性。
爆豪勝己、掌の汗を爆発させる個性。
緑谷出久、身体能力をパワーアップさせる個性。
峰田実、どんな物でもくっつける物質を投げる個性。
八百万百、身体からモノを造り出す個性。
環心詩音、何でも解ってしまう個性。
以上の21名。
『次は君だ』
オールマイトが最後の戦いで放った言葉。きっとこれは"次の平和の象徴"へのメッセージだ。
さてと…オールマイトの後継者となる生徒を見つけるために取材に来たが…目星をつけているのは雄英体育祭で決勝に残った6人。
そこで優勝した爆豪勝己…能力はプロヒーローと差し支えないものの、中学時代にオールマイトを越えると公言しているため後継になるとは考えにくい。
準優勝の轟焦凍も無いな。彼の父親はNo.2ヒーローのエンデヴァーだ。息子を彼の後がまに差し出すことはしないだろう。
残るは3位の常闇踏影か飯田天哉…切島鋭児郎。
個人的にジョーカー的存在として環心詩音が気になる。彼女は入試の際、実技と筆記両方でトップの成績を納めている。
戦闘向きの個性じゃなくともヒーロー科に入ることもできなくもないが…トップというのが気になる。にも関わらず、体育祭では予選にすら通過していない謎の存在。
気になる存在は複数いるが、私の勘が告げている……緑谷出久。彼がオールマイトを、平和の象徴を継ぐものだと。
「特田さん」
「ッ……君は環心詩音さんだね」
「はい…取材は順調ですか?」
「ああ、順調だとも。君たちが将来ヒーローになったときのネタもいくつか頂戴しているよ」
外で緑谷くんとトレーニングをしていた環心さんはいつの間にか私の元へと来ていた。見すぎてしまったか。
今回の取材目的はオールマイトの後継を探すことにあるが、ヒーローの高校時代というのも取材しておいて損はないだろう。
「環心さんについてもいくつか質問していいかな」
「私に?面白いことなんて何もありませんよ」
「個人的に君は謎が多いからね…好奇心なんだが」
「………、答えられる範囲でなら」
彼女の個性は大まかに、何でも解る個性というのは調べているが…今の間は私の反応を見ていたんだろうか。
「まずは…入試の実技トップでありながら体育祭の予選に落ちている。それはどうして?」
「体育祭、怪我で出てないんですよ。リカバリーガールに治してもらって出ようとしたら相澤先生から止められて…」
「なるほど…」
怪我…それであの場にいなかった。
「それと君は…ヒーロー科ではなく経営科志望だったらしいね。ヒーロー科に変更した理由なんかもあるのかな?」
「そんなことまで下調べしてるんですか……私の将来の目標がヒーローを支えることで……」
将来のサポートのために経営科と思っていたが、サイドキックになる方が近くで支えることができると進路変更。それで受かってしまう彼女の才能は恐ろしい。
サポートか…今日の取材の中で彼女は誰とでも話をしてアドバイスをしているとは感じた。
基礎訓練では飯田くんのエンジン回転数について話していた。効率の良いギアチェンジについてだ。
授業後の中休みには女子生徒たちと談笑していた。話題は女子高生らしくない組手の話しだったが、彼女は軍事格闘術のようなものをマスターしているんだとか。
轟くんの個性を見せてもらったときは、轟くんから環心さんに見といてくれと頼んでいたし…同時発動のタイムラグ、「炎が0.3秒遅い」と言っていたな。
常闇くんや障子くんとは将棋をしていて、二人を完封させていた。頭脳戦にも定評があり、ブレーンとしての能力を遺憾なく発揮することができるだろう。
そして今現在の1対1の質問を始める前も緑谷くんのフォーム確認を細かく分析していた。どうやら筋肉の動きまで解るらしい。何でも解ってしまう個性とは恐ろしいな。
これらの行動は目標が起因していたのか。
「……いずが気になります?」
「いず?」
「緑谷出久。小さいときからの付き合いなので私はそう呼んでいます」
下の名前を呼び合うほど仲が良いのか。確か爆豪くんともそうだった。朝のランニングも一緒にしているようだし、仲は良いんだろう。
しかし、同じ市立中学から3人も雄英のヒーロー科に進学。芦戸さんと切島くん、飯田くんとB組の拳藤さんたちも同じ中学出身だが……3人はちょっと異質に感じる。
「確か爆豪くんとも中学は一緒だったね。だから朝食は彼ととっていたのかい?」
「ボッチ飯はかわいそうなので付き合ってあげてるんです」
お世辞にもコミュニケーションが得意とは言えない爆豪くんだ。クラスメイトと話しているところは見たが、彼女との会話が一番自然体でいるような気がした。口調は乱暴なものだったが表情は穏やかだ。
「緑谷くんは体育祭で指を壊しながら個性を使っていたからね。成長具合に驚いたんだよ」
「…………努力してますよ、彼は」
「彼にも取材をしてこようかな。雄英でどのように成長したのか聞きたいね」
「…彼を苛めないでくださいね、その個性で」
自主練中の緑谷くんを見ていたシルバーが射抜く。やはり彼女には私の考えが解っているんじゃないだろうか。暗に釘を刺されてしまった。
だが記者としてはここで止めるわけにはいかない。
*
あの記者……総合して害はないんだけど、いず大丈夫かなぁ。プロの記者としてモラルとプライドを持ち合わせているらしく、確証がないことは記事にする気はないみたいだ。
しかし、勘がよさそうだから…個性譲渡という普通では行き着かない答えにたどり着かないとも言い切れない。ワン・フォー・オールの秘密が知られたら彼を危険に晒してしまうからそれは避けたいが。
あ、…苛めないでって言ったのにぃ……
「うぉ!!何なん!?近くない!??」
「特田さんの個性全身レンズなんだよ…たぶんいずとツーショット撮った…許すまじ……」
「そ、そうなん?って、飛び出していっちゃった」
「環心ちゃんの嫉妬ね、ケロケロ」
「なになに〜!?恋!?」
「恋じゃなくて絆の方よ」
「なぁんだ〜お腹すいた、夕飯にしよー!」
*
「タイトルは…そうだなぁ、新たな平和の象徴の若かりし頃!…なんてどうかな」
「…そうなれるよう、精一杯努力します」
「そんな陳腐なタイトルじゃ売れないと思います」
「わっ!シオンちゃん!?」
「特田さん、苛めないでって言ったのに…」
「申し訳ない。緑谷くんがあまりにも素直で」
いずとのツーショットを完遂した特田さんは得意気に笑って見せた。申し訳ないとか言いつつも内心そうは思っていない。
良い人だけど、悪い人だ。
「じゃあこれはどうかな?美人ヒーロー、高校時代は魔性だった?お相手は誰だ!とか」
「本当に食えない記者ですねぇ。魔性じゃないしお相手はいません、明言しておきます」
「僕との写真もある…特田さんこれって」
「質問のお礼と意地悪をしたお詫びだよ」
懐から出した写真は主に私と男子の写真。悪意あるなぁ。こういうのが週刊誌とかに使われるんだろう。
「シオンちゃんとツーショット久々だね」
「呑気かっ……もぅ。ありがたく頂戴します…」
写真の出来としてはどれも申し分ないため貰っておこう。
「頑張れよ、ヒーロー」
取材時間が終わったからとキザに去って行った特田さん。結局のところ今日の取材が公になる日は……私たちがプロになってからかな。保護者への安全アピールの記事は期待できそうにない。
*
*
某日、自室。
「おい、シオン…怪我の手当て…ンだこれ」
「お帰りー、今日も見事にボロボロだね。今ね、写真が日焼けしないように加工してたの」
「"美人ヒーロー、高校時代は魔性だった?お相手は誰だ!(仮)from特田"…趣味悪ぃなコイツ。誰だ」
「特田さんだよ。前に新聞社からの取材来たでしょ?質問に答えたお礼にって何枚か貰ったの」
「ふーん」
フォトフレームに入れる写真にUVカットフィルムを貼っていたら、仮免補講から帰った勝くんが訪ねてきた。お風呂上がりの肌には手当てがされていない。今日も今日とて擦り傷がいっぱいだ。
キリの良いところで加工作業を片付けて治療セットを取り出す。掠り傷を消毒して薬塗ったりガーゼを貼ったりテーピングしたり。
治療されるがままの勝くんは飾っていないフォトブックに入れずに放置されていた写真を見ているけれど…無言なのが怖い。
「これ…」
「んー?朝食の時のだねぇ」
げ、勝くん耳も掠れてる。顔部分が終わって背中にアイシングをする。包帯はしなくてもいいかな…地味に腫れている患部は青アザになるだろう。
「い"ッ!押すな、痛ぇだろーが」
「気休めに血流よくしてるの。湿布しかないから」
「……グぅッ」
「もうちょっと冷やしたら湿布貼るから」
広背筋に触れて宥めるけど、押すたびにピクッと反応するから痛いんだろうな。知ったこっちゃない。背中が終わり、腕に移る。
週末の私の部屋のゴミ箱には湿布のフィルムと脱脂綿が占領する。見慣れた光景だけれどさぁ……?フィルムと言えばさっさと写真の方も終わらせよ。処置を終えて手についた消毒液や軟膏を洗い流す。
「今日は以上でーす」
「いって…」
「文句言うなら来るな。じゃまた明日7時ね」
「ああ」
明日のランニングの時間を確認して、勝くんを部屋から追い出す。湿布臭いから窓開けて換気しないと。夜の空気はまだ暖かいけど、仮免終了予定は12月。
「その頃は寒いぞ……あっ」
窓を開けると入り込んできた風で放置していた写真とUVカットフィルムが舞った。あーあ…と思いながらバラバラになった写真たちを拾い集めて順番に並べていく……
「あれ、2枚足りない。どっかに飛んじゃった?」
視てみてもない。特田さんから貰った私のピンの写真と朝食の時の写真。飾る予定はなかったけれど貰ったものなのに失くしてしまうのはな…
そう思いながらいずとのツーショット写真をフレームに納めた。
*
*
「マジで……趣味悪ぃな…」
写真が見つかったのは5年後。
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なんとなく書きたくなった。4期1話。
犯人はお前かっ!!!雑記でも書いたんですけどデが可愛かった。OPは雄なのにね…
私、高校時代は6時半には学校いたので8時に朝食って遅くない?って思いました。8時半からHRだった気がする。
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