火曜日、7限終わり。
「一人で日直なんて嫌やぁ〜」
一人の日直のなんてめっちゃめんどくさい。あーあ、飯田くんがおればすぐ終わるんに…
ペアであるはずの飯田くんは7限目の授業で負傷してリカバリーガールのところ。治癒はしてもらえんとちゃうかな。だいぶ疲れてたし。
「晩ごはん何かなぁ〜お餅…も良いけど今日は酢豚が食べたい気分だな」
「それいいわね、あとで一緒に作る?」
「わっ!?環心さん帰ったんとちゃうかったの?」
「鉄哲くんに捕まってた。"スティール"を細かく分析してほしかったんだって」
クラスの皆はもうとっくに寮に帰ってるから残っている人はいないと思ってた。そっかB組で個性強化のアドバイスしてたんだ。
そういえば、私も入学してすぐの演習で近接身に付けた方がいいってアドバイス貰って、そのおかげで個性の幅が増えたなぁ。
彼女はいろんな人から頼られているし、実績もある。インターンで私に見せた未来を変える姿は記憶に新しい。
初めは笑わない人だなって思ってたけど…よく見れば優しい表情するし不機嫌なときは眉間に2ミリだけシワが寄る。
個性の使い方もプロお墨付き。体術だってMCMAPというアメリカかどこかの対人格闘術極めてて、デクくんも押さえつけちゃうし。
頭も良いし判断力や思い切りもある。派手な個性じゃないけど自分のできることでヒーローをしている。
「凄いなぁ」
「そんなことないよ」
「あっ、口に出て……た…?」
「うん、インターンの辺りからね」
ほとんどじゃん!何やってんだ、もぅ。恥ずかしいなぁ、日直の日誌進まんわ。
ちょうど飯田くんの席に座ってこちらを凝視してくる環心さんは何だか楽しそう。
「ちょっと面白がっとるやろ」
「ふふ、かわいいなぁって」
かわっ!?淡く微笑んだ環心さんにそれ言われても自信なくなるだけやってば。
そういえば、彼女とこうして一対一で話すのは初めてかもしれない。一度、聞いておきたい事があったんだ。
「環心さんのヒーローになるきっかけって、デクくんなんやろ?」
「そうだよ。彼がヒーローになるって言ってて、幼心に支えてあげたいって思ったのが始まり」
「支えるかぁ」
「で、一番近くで支えるなら私もヒーローにならなきゃなって。今はヒーローたちを支えるヒーローになるのが私の将来設計」
私と同じだ。彼女が以前個性事故で小さくなったときにも同じだなと思った。
子どものころ、初めてヒーローを見たとき皆の笑顔が目に入ったのを覚えている。そして皆を笑顔にするヒーローは辛いとき誰が守るんだろう?って。
あ、私がそうなればいいんだ。
「私も…ヒーローを救けるヒーロー、なりたい」
「一緒だね」
「うん、一緒だ」
頑張る姿を近くで見てきて、この人を支えたい。守ってあげたい……そんな気持ちを抱かざるを得ない。何ていうんやろ、庇護欲?ちゃうな、相乗効果で高め合って、そして…んー難しいなぁ。
「麗日さん百面相してる」
「へッ?いやこれはちゃうくて!」
「まぁいずみたいなベビーフェイスだと余計に大丈夫か?みたいなとこあるよね」
「そう!それ!でもむっちゃ頑張っててぇえええ???!また口に出しとった?!!」
「いや、なんとなく」
してやられた、策士やったわ。まともに話して自分のペース作れるなんて思っとったらアカン。
「いずはね…守らなきゃ、勝たなきゃって想いが強いとき周りが見えなくなっちゃうから…その時はっ……頼みますっ」
「へ?」
「子離れ的な心境」
環心さんはデクくんのサイドキックになるものだと思っていた。そういえばさっき"ヒーローたちを支えるヒーロー"って…
「デクくんから子離れ?」
「期末試験でオールマイトに言われたの。いずと離れるべきだって。それが最近ようやくわかった…私だけが支えなくとも、いずはいろんな人に支えられてるから…過干渉しない方がいいって」
「それでいいん?」
「麗日さんがいるからいい。だから、頼みます」
頼むと言われても何をやったらいいかわからんから困る。そりゃ私だって支えたいとは思うけど。
デクくんの元を離れようとする環心さんは、今後どうしていくんやろ。ヒーローを支えるという目標はあれど、具体的な目標がなければ達成は難しい。
「じゃあさ、爆豪くんは?」
「勝くん?」
私が思うに、爆豪くんは環心さんにかなり気を許している。下の名前で呼ぶし、ペアの演習の時は彼女と組みたがるし。
「爆豪くんを…支えちゃう、とか?」
「支えるはもちろんだけど、彼は休ませたいな。プライドダイヤモンドでエベレストだから……そうだね、殴ってでも休ませなきゃ」
「それ大丈夫なん?」
「今の私ならイケる」
イタズラっぽく口角を上げる。でもその瞳は優しい。入学したては険悪な雰囲気で、どちらも"嫌い"だって言ってたはずなんだけどな。
それがいつからか…寮生活が始まってからかな、仲良くなってる。
「勝くんにさ"人に頼れと言う癖して自分で実践できてねぇ"って言われたんだよね。私も無理矢理にでも休ませないとダメなタイプで…」
「似た者同士なんかなぁ」
「かもね。だからお互いに頼るときは頼ろうねって…フラストレーション溜まったら手合わせしたり、メンタルケアでハグしたり」
「へぇ……??ハグ?」
確かに爆豪くんが弱ってるところ見たことないな。環心さんもどちらかといえばメンタルケアしてあげる方で…?
メンタルケアでハグ??いや、聞き間違いかもしれない。ハグ?
「ストレス解消にはいいのよ、ハグ」
「ホンマにしとるん!?あの爆豪くんと!!?」
「うん、試しにしてみる?」
おかしいことなど何もないと言うように彼女は通常運転。あれよあれよと言う間に、立たされて正面から温かい体温。
悪いことしてるわけじゃないんだけどな。恥ずかしくてかなわんわ……あ、でもコレいいかも。
環心さん柔らかい、優しくて良い香りがする。身長も彼女の方が高いから……その、胸が、顔に。
八百万さんみたいに発育の暴力って訳やないけど、人をダメにしてしまうボディ……ッ!
「も、もう大丈夫!なんか!安心したッ!安心というか温もり最高だったッ!」
「恥ずかしがらなくても良いのに。ハグって気持ちを落ち着かせるのに良いんだけどなぁ?」
「いや!アレ!邪な気持ちが!ごめん!」
支離滅裂なこと言っとるわぁ。これは爆豪くんが大人しく癒されるのもわかる。大人しくなった爆豪くん…うわ、想像せんければよかった。
あれ?二人って付き合ってる?幼馴染みという肩書きはあれど…幼馴染みってハグ…するんかな!?
雰囲気はいいけど付き合ってはない?男女の友情は成立する…と思っとるけどそれエエん!?
「爆豪くんと環心さんって…付き合っとるん?ハグとかって…そーいう関係かなぁって……」
「いずともしてたわよ?オデコ合わせとか」
性別を越えた男女の友情か…達観しすぎて私には解らんよぉ…恥ずかしいとか無いんかなぁ。私なんか彼の事が頭に過るたびに不思議な気持ちになって…
「ふふ、また百面相してる。日誌早く相澤先生のところ持って行こ。早く酢豚が食べたいわ」
「!わかった!ちょっぱやでやる!!」
*
「ねぇ、酢豚にパイナップル入れる派?」
「ウチは入れるかなー。お肉柔らかくなるやん」
「敵だ。フルーツは別々でしょ?」
「えー!入れてよ!」
「じゃあ自分で作って」
「うわぁーーーん戦争だァ!」
前よりもちょっと仲良くなれたかな。
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