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この話は、【kagaminationLOVER】企画に提出したものです!

manuscript.orgのイメージ小説
本家様とは一切関係御座いません!

現代ぱろ、レンリン七歳差兄妹設定です。
大丈夫な方のみどうぞ!




まっしろな画用紙。カラフルな絵の具やクレヨン。
初めて目にしたとき、強烈な印象を抱いた。
まだなにも描かれていない状態、これからいくらでも自分を描ける状態。
何でかこうか、何をかこうか?
ワクワクしてドキドキして。なんだか変に緊張して。

あのときは私自身もちっちゃなこどもだった。
私という存在もまっしろで、定まってないふにゃふにゃの存在。
だからかな、何でも描ける気がしたし、なんにでもなれる気がしたんだ。


今は…どうしてかな。
なんだか余計なことばかり考えてしまうんだ。
私は何かになれるのかな。
私の未来には本当に何かがあるのかな。
私は何のために生きてるのかな?

皆は答えを持っているのかな。
大人になればわかるの?


ね、誰か教えてよ。教えてよ…レン兄。






・・・・children





「レン兄ーいない…かな?」


ゆっくりと扉を開け、少女…リンは部屋へ入り込んだ。
部屋への入り方からも解かるように、此処はリンの自室ではない。
リンの兄…レンの部屋である。
何故年頃の少女が自分の兄の部屋なんぞに入り込んでいるかというと。


「あーやっぱレン兄の部屋は静かー。道路に面してない部屋っていいなぁ。」


ただたんに落ち着くという理由だったりする。
ちなみにレンは大学生。忙しいらしく、まだまだ帰ってこない。
リンはちいさくため息をつき、閉じたドアに体を預け部屋の中を見渡した。

ちいさな頃から、リンにとってここはお気に入りの隠れ家だった。
隠れ家と言っても、同じ家ではあったのだけれど。
勉強しなさいと言われないし、下手なことして怒られることもない。
口うるさいお父さんもいなければ、心配性のお母さんもいない。

いるのは、やさしく頭を撫でてくれるレンだけ。
一番安心できたのだ。ひとりぼっちでいる自分の部屋よりも。
…いつの日からかこの部屋に行くことは滅多に無くなったけど。

ちいさなリンが部屋にそっと忍び込むとき、いつもレンは机に向かっていた。
そうして音に振り向いて、リンの姿を確認してやさしくほほ笑むのだ。
今でも変わらず机に向かっているのだろうか。
おんなじ家に住んでいるのにただ想うだけなんて、なんだか馬鹿みたいだけども。


「…レン兄は忘れちゃったのかなぁ」


ちっちゃな頃にした約束を。
貴方はもう忘れてしまったでしょうか。




ちいさな頃から、リンは絵を描くのが大好きな子供だった。
まっしろな画用紙に自分で世界を作っていくのが楽しくて。
暇さえあれば紙とクレヨンを持ってお絵かきに没頭していたものだ。

同い年の近所の子供たちとも遊ばず、一日中絵を描いている小さな娘。
いつの時代も、人と違うことをする者は不審がられるものだ。
両親たちも例外なくそうだった、つまりは我が子を心配し何かと干渉をしてきていた。

でも、歳の離れた兄…レンだけは反応が異なった。
絵ばかり描いているリンを不審がることもなく、責めることもなく。
ただただ、そのままにしてくれた。
上手く描けたとき、持っていけば必ず褒めてくれて。

それがリンにはたまらなく嬉しかった。
自分の描いたもの、それはまるで自分の分身のようで。
それを認めてくれる、それをみて微笑んでくれる。
そんなレンの反応がリンにとってしあわせで、宝物だった。


そうしてリンがレンの部屋に入り浸るようになって、リンが知ったちいさなひみつ。
それはレンがいつも机に向かっていた訳。


「あっリン?!」
「レン兄…お話書いてるのっ?」
「…あー、ばれたか。」


いつものようにレンの部屋に来たリンが見つけた紙の束。
そこに書いてあったのは、まだこどもだったレンの拙い字が紡ぐ物語。
ちいさなリンには読めない字も多かったが、それが本に載っているお話だと理解できた。
そのとき、リンは純粋にびっくりしたのだ。
だって、そこに書いてあった話はとっても面白かったものだから。


「レン兄、これね、読んじゃダメ?」
「えっ?!」
「面白いもの!このおはなし。」
「いや、その…面白いかな?これ。」


そもそもリンはまだ読めないんじゃないかな…と小さく呟く声は聞こえていたけど。
でも、レンのしている表情はリンには見覚えがあった。
これはいつもリンがレンの前に描いたものを持ってく前にする表情だ。

自分の描いたものを見てほしい、でも、変って言われたらどうしよう。
こわい、けどもやっぱり見てほしい。
わくわくそわそわ、そんなときに思わずしてしまう表情。
そんなときどう言ってほしいかは、リンは充分知っていた。
それ以前に純粋に読んでみたかったというのもあるのだけれど。


「うん、面白い!ね、レン兄?もっと読みたい!」


だってだってモッタイナイよ。
こんなおもしろいお話が、この部屋の中だけで誰にも読んでもらえないなんて。
誰にも見られないままほっとかれてしまうなんて。
レン兄がよくても、リンにとって凄くいやだよ!


今考えるとなんとワガママな考えだと赤面してしまう。
でも、あの時は本気でそう思ったのだ。
あんまりにもリンが真剣だったからだろうか。
それとも、少しはレンにも見せたい気持ちがあったのだろうか。
結局レンが折れて、みせてくれることになったのだ。


「これを誰かに見てもらう日がくるなんてなぁ…。」
「じゃあリンがはじめて?」
「勿論。リンが僕の話の読者一号だ。」
「どくしゃいちごう!」


その言葉がなんだかとても大切な言葉のように思えて。
照れたように笑いながら紙を渡してくれるレンに、何故だか自分までにこにこしてしまって。
そうして、そこでちいさな約束をしたのだ。


「ねね、いつか、いつかよ?リンがレン兄のお話の絵を描いてみたいなぁ」
「へえっ挿絵ってことかな?」
「さしえ?」
「物語の場面を表す絵がはいってるの知ってる?その絵だよ」
「!そう!リンはレン兄のさしえがかきたい!」
「いいね、それ。じゃあいつか描いてくれる?リン」
「うん!かく!それまでもっともっとうまくなる!」
「随分な張り切りようだなぁ。じゃあ僕ももっと面白い話をかけるようにならなくちゃね」
「やくそく?」
「ん、約束」


最近覚えたばかりの指切りとやらを使って。
歳の離れた兄妹は、くすくすと笑いながら約束をしたのだ。
それはもうずっと昔の話で。
今とは違う、こどもだったからできた約束なのだろうか。






「っ!」



ハッと体を起こせば、そこはどうみても自分の部屋のベッドの上。
昔のことを想いだしているうちに、いつのまにか眠り込んでしまっていたらしい。
窓の外を見れば真っ暗闇。
慌てて電気をつけ時計を見ると、すでに夕飯は過ぎ去り夜中とも呼べる時間を指している。
自分の姿をみれば、お気に入りのセーラー服は眠り込んだせいで皺がついていて。


「うう…しまった。最近睡眠時間少なかったしなぁ…」


反省しつつ部屋着に着替え、足を忍ばせ一階に向かう。
時間をみてから主張しまくっているお腹と、夕飯の残りくらいはあるんじゃないかという淡い期待と共に。
抜き足差し足、もう寝ているであろう家族を起こさないように静かに階段を下りる。
そしてリビングへ入ろうと手をかければ、薄暗い明かりとかすかに聞こえる話し声。

…まだ誰かが起きていたのだろうか?
やっぱり夕飯に気づかず寝てたなんて、怒られるかな?

ビクビクしつつドアの向うの声に耳を澄ませる。
すると、聞こえてきたのは。


「レン、最近学校はどうだ?」
「忙しいよ。覚えなくちゃいけないことはたくさんあるし。」
「そうか、まぁ俺も鼻が高いよ。このまま頑張ってくれ」
「わかってるよ。」


…兄と、父の会話。
とりあえず、夕飯を作ったであろう母の声が聞こえないことにほっと息をつく。
ふたりともいつも帰りが遅く、平日ならば何日も会わないことのが多い。
夕飯を食べはぐったのも、適当に言えばなんとかなるだろう。
そう考え、さていつリビングに入ろうかと考え込んでいると。


「問題は、リンの方だなぁ…。」
「?リン?」
「あぁ、あの子もな、お前と同じで頭はいいんだが…しかしな。」
「…。」


突如わいてきた自分の話題にびくりと肩を震わせる。


「全く、兄妹揃って困ったもんだ。」
「…でも、きちんと勉強してるんでしょ。」
「まあな。そこらへんも似てて困ったもんだ。…絵をかく職業に就きたいなんて言い出されちゃたまんないんだがな。」
「…はは。」


ぎゅっと服を握りしめる。
泣くな、泣くな。いつも言われてることじゃない。
リンは頭の中で呪文のように言葉を繰り返す。
知ってる、解かってるよ。言われなくても、解かってる。
だから、だからレン兄は。


「お前らの将来を想って言ってるんだぞ?」
「…分ってるよ父さん。リンだってわかってるさ」
「だといいんだがなぁ。変に寄り道しないといいが…」
「息抜きだって必要だよ。父さんがゴルフするのと同じでね」
「…それもそうだな」


それ以上は聞いていられず、静かにリンは踵を返した。



先ほどまで寝ていたベッドにダイブし、枕に顔をうずめる。
忘れたいのに、一階での父と兄の会話が頭の中でぐるぐるとまわり消えてくれない。
父の言葉はもう慣れている。
いつも言われていることだし、それにもう夢だけ見れる歳でもない。

自分の好きなことだけしてれば生きていける、なんて。
そんなことを信じていけるようなこどもではないのだ。
だから、別に傷ついてなんかいない。


『息抜きだって必要だよ』


わかってる、わかってるよ。
息抜き。ただの、息抜き。
どんなにすきでも、どんなに頑張ってても。
それでも、これは息抜きでしかない。



立派な大人になりなさい。
まわりの大人は皆同じようなことを言う。

遊びはほどほどにしなさい。なんで?自分の将来を傷つけたくはないだろう。
勉強しなさい。なんで?いい大学に入れるからだよ。
大人の言うことは聞きなさい。なんで?それが正しいからだよ。


正しいって何?立派って何?
将来ってなんなの?
それは大人に決められなくちゃいけないものなの?
自分の未来は自分で決めちゃいけないの?


大人の方がこどもよりも経験が豊富だからね。

そりゃそうだ。
じゃあ、大人は皆そのまた上の大人の人に教えてもらってきたの?
大人の人は皆がみんな正しいの?
じゃあ何で大人の人は不満ばっかり言っているの?
国が悪い、政府が悪い、会社が悪い。
皆が正しいんじゃないの?


「…ちがう、これじゃただの屁理屈だ」


ごろんと体の向きを変え、仰向けになる。
何とはなしに天井を睨みつけ、そしてまたぎゅっと瞳を閉じた。



わかってる、わかってるよ。
でもね、私はまだこどもなんだ。
物わかり良くうなずくことはできない。諦めることもできないんだ。
レン兄みたいに。
私はまだ、ちいさな約束を忘れることもできないんだ。

…忘れたくないんだ。
私は、まだ。


「ここにいたいよ…」


まだ、まだ。
あともうすこしだけ。
ちいさな夢をみていたいの。


目をつむるっていると、ふっと昔の光景が思い浮かぶ。
いつだったかの、レンとの会話。
あぁやだやだ、やだな。
思い出したくなんかないのに。


『レン兄、最近忙しそうだねー。』
『まあね、灰色の受験生だから』
『ウーヤダ!私も来年中学受験だよ。お母さん今から張り切ってるし…うええ。』
『大丈夫、リンならいけるって。』
『そうかなぁ。』
『そう。俺だって大丈夫だったんだから。』
『うう、レン兄は頭いいから。』
『…そんなことないよ。』
『?』
『そんなこと、これっぽっちもないんだよ。』
『レン兄?』


なんだか、嫌な予感がしたんだ。
レン兄は最近忙しそうだった。
それは私から見てもわかるほどで、だからここずっと部屋に入ってなかった。
ねぇ、理由は本当にそれだけ?
…きっと分りたくなかったんだ、私は。


『リン、もう部屋きちゃ駄目な。』
『えっ?なんでっ!?』
『だってもうリンも中学生になるしね?』
『まだ、ならないよ。』
『もうすぐだよ。まー勉強くらいは見てあげられるからさ。ね?』
『…そんな、だって。部屋くらいでしかレン兄の話読ませてくれないし…』
『リン』


いやだ、いやだよ。
そんな声で名前を呼ばないで。
まだ、まだ私はここにいたいよ。
…レン兄の隣、で。


『もう、こどもじゃないんだよ。』
『!』


あぁどうしよう。
思い出しただけで、なんだか泣いてしまいそうになっちゃうよ。
あーあ。泣きたくなんかないのにな。




(…それでも、私は、まだ)



もうレン兄は忘れてしまってると思うけれど。
それでも私は、忘れたくないの。

もうすこしだけ。
あともうすこし、もうすこしだけ。
自分にも、自分にだって何かが出来るって。
私のキャンパスには、まだまだたくさんの夢を描けるんだって。


(私はまだ…信じてたいよ)






おわり


(かがみねーしょんらばーに提出したものです!)

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