novel

top >>いつか堕ちる雪の花


●大正か明治くらいのパロ。他人設定。




物心ついた時からなんとなくわかっていた。
自分は、此のおうちに居てはいけない人間なのだと。
生まれた時から決まっていた。
自分の立場が。


…名家の妾腹の子という立場が。
はじめっから、ずっと。






・・・・いつか堕ちるの花






初音家。
それは古くから続く華道の家元である。
時が移り行きこの国に西の風が吹いても、変わらずにその後光を輝かせている。
まるで化け物のようなそんな家。


その家には、跡取りとなるべく大事に大事に育てられたた少女と、もうひとりの娘がいた。



「りんさん」
「みく姉様」
「…婚約が、決まったそうですね」
「はい」


綺麗な髪を二つに縛る、年上らしき少女は髪を緩やかになびかせつつもうひとりのもとに向き直る。
視線の先は、対照的に珍しいくらいに髪の短い年下の少女。
どちらも見目麗しく、まとう着物も上等なもの。
しかし、どうにも髪の長い娘の方が鮮やかな色合いの着物である。
まるで引き立て役のような。


「お相手は、新興のお家だとか?」
「はい。そう聞いております」
「あぁ名前はなんだったかしら、…そうね、忘れてしまうくらいの家ね」
「姉様」
「それに、お相手さんは縁談を片っ端から断ってる方だとか」
「…」
「まぁ、貴女もさっさと断られておしまいなさいよ」
「それは」
「…?」
「それは、お会いしなければ分りません。それと」
「なによ?」
「姉様にそんな顔をしてほしくはないのです」
「っ!」


ぎりっと少女は口を噛みしめる。
片方の少女は、控えめながらも微動だにせず、視線をきっちり受け止める。
いつもどおり、いつもと変わらず。
大きく出ることはない、必ず一歩後ろでしずかに存在感を押し殺して。
それでも、彼女は視線を逸らさない。
彼女の光は、陰ることなくひかり続ける。
ただ存在を主張しないだけで。かわらずそこにありつづける。


(なんでそんなことができてしまうの!!)



「どうして、貴女はそうなのです?」
「姉様?」
「どうして、どうしてそんな平然と…っ」
「ねえさま」
「どうして?!」


髪の長い娘は、一度俯くがすぐにまた顔を上げじっと睨みつける。
目の前の少女を。つよいつよい瞳で。
それに対し、髪の短い少女はふんわりとほほ笑んだ。


こんな状況で。
まるで可憐に咲く花のように、優しげな嬉しげな表情で。
なぜか彼女は微笑んでいた。


「?!」
「みく姉様」
「な、なによ…」
「ねえさま」


ありがとうございます。


少女はそう言い、深々と頭を下げた。
口元の笑みはそのままで、ただゆっくりと頭をさげた。


そんな様子に、年上の少女は絶句する。
しかし顔を上げる前に表情を慌てて戻し、ぷいっと顔を逸らした。


「な、なんなのよ?!」
「いえ、ただ」
「…ただ?」
「言いたくなったのです。だからお礼を、と」
「…訳わっかんないわ」
「そうですか?」
「そうよ、…貴方はいっつもそうよ!」
「…」


(いつもいつもいっつも。)
(貴方は私が言えないことをたやすく読み取って、そうして私に笑いかける。)


「どうしてあなたは…貴女は!」
「姉様」


ぎゅっと力強く手を握りしめ唸るように声を出していた年上の少女。
その少女に寄り添うように年下の少女は近づき、そっと固く握りしめられたこぶしを手に取った。
白くなるまで力の込められたこぶしをみて悲しそうな顔をする。
そして力強く握りしめられすぎたこぶしを解くようにやさしく撫でた。
やさしく、やさしく。


いつのまにかぎゅっと握られていたのがやんわりと解かれ、ゆっくりと少女の手を離れる。
それを見届けてから、間近で少女たちは視線を合わせた。
睨むように、見上げるように、…悔しそうに、哀しそうに、慈しむように。
いろんな感情を孕んだ視線は交差し飛び込み胸へと達する。

目は口ほどにものをいう。
そう、きちんと心に届く。



「姉様、りんは嫁ぎます」
「…」
「姉様がこの家を継ぐように、これはりんのすべきことです」
「ッ」
「だから、だからそんなふうな顔をしないでください」
「…う、…ッ」
「今まで有難うございました。姉様、だいすきです」
「   」


ふんわりとほほ笑み、年下の少女はそっとその場を後にする。
残った少女は、その格好のまま何もできずに立ち尽くす。
ずっと、ずっと。



結局口に出せなかった言葉を心の中で繰り返し唱えながら、少女はしずかに立ち尽くした。
いままでずっと、言いたかった。
けれど言えなかった、その言葉。


「結局ずっと、言えなかった…」


(ごめんなさい。そして、そして…)
(私だって、ずっとずっと貴女が好きだったわ。)



手に入らないなら最初っから見つけなければよかったんだわ。
あぁ、こんなに痛むなら。さっさとここからいなくなっておしまいなさい。
貴女なんて。






「さようなら、みく姉様」




さよならなんて、絶対言うもんですか。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




ある和室で素っ頓狂な声が響いた。


「は、婚約?!また?」
「また、じゃありません!」
「だって、お見合いみたいなのは何度も…」


ぼさぼさの髪をさらにぼさぼさにしながら言葉を続ける。
そんな青年に対し、対面している女性は苦虫を噛み潰したような表情を作った。


「今までのは、お!見!合!い!!今回のは婚約です。もう決まったことよ」
「そんな勝手な…」
「勝手なのはどっちだか!今までアンタはどれだけすっぽかしてきたと思ってるの!」
「…ははは」
「笑いごとじゃありません!」


ダンッと女性は力強く畳を叩く。
そんな女性に恐れをなしたように首を竦め、青年はあらぬ方向へと視線を泳がせた。
女性は一度落ち着けるように深いため息をつき、なんとか先の体制に戻る。
そしてじっと青年を見据え、ゆっくりと口を開いた。


「錬、鏡音家は商業で成り上がった御家よ」
「はぁ…まぁ。」
「私達の代でなんとか盛り上げた。そうして今は貴方がより発展させている途中」
「はい」
「そして、このままより盤石なものにしたいわ」
「まぁ、そりゃあ」
「そのためには、錬。アンタの結婚よ」
「…」
「話がないのならいい。けれどお誘いがきているの。それを断るなんて…わかるでしょう?」
「…」
「錬、あんた好きな子でもいんの?」
「なっ」
「ま、いないわよねぇ。父様と同じくらいの仕事馬鹿だし」
「…煩い」


ぷいっと顔をそむけ、ふて腐れたように腕を組む。
その青年を、女性はまじまじとみつめた。


正直言って、我が息子ながらなかなかイイ男だ。
顔は男にしては綺麗で、細くしなやかな体。そして商才にたけた頭。
そして今順調に結果を挙げている「鏡音家」の跡取り息子。
まぁ優良物件と言えるだろう。
が、如何せん。女性に興味が無さすぎる。
今までのお見合いもどきのお食事も、やれ仕事が、やれ商談がといってことごとく断りやがった奴だ。
さて、どうしたものか。


「それに、俺なんかに名家の娘さんなんて…可哀想でしょう」
「は?」
「政略結婚がどうとかは…今更言わないけど。でも、俺はこんなだし」
「…」
「やってける、筈がない」


思わぬ言葉に女性は目を瞬かせた。
まさか、そのような言葉が息子から出てくるとは思わなかったのだ。
そこまで考えているとは。
…ううむ、さすが私の息子じゃない?


「そんなの解かんないわよ」
「…わかる」
「なんでアンタはそう決めつけんの。とりあえず一回くらいかお出しなさい」
「だって」
「だってじゃない!ったく、あんたガキなの?うじうじしてんじゃないわよ」
「…うわ」
「とりあえず!一回会ってみて、話してみなさい。そうじゃないと相手だって解からないわ」
「…」


会わないと、伝わらないのよ。


その言葉に、青年はふいっと顔をそむけた。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「今日は宜しくお願いします」
「お嬢様、よくいらっしゃいました」


ぺこりと頭をさげた少女に対し、出迎えた女性は顔を綻ばす。
この料理店は敷居がそこそこに高いお店であり、初音家懇意の店でもある。
初音家の娘…りんとその店の者が顔見知りなのは当たり前だ。
それに加えて。


「先日つくっていただいたもの、あれとても評判なのですよ」
「まぁ…」
「さすが華道の御家、初音様のお嬢様ですねって!」
「気にいって頂けて何よりです」


りんは初音家の娘として小さなころから華道を叩き込まれてきた。
それはもう、跡取り娘と変わらない程度に。
であるからりんの腕はこの年にして周りと引けを取らない腕前にまでなってた。
御家にくる仕事をきちんと任されるくらいに。
ふんわりとほほ笑む少女からは想像もできないが、これでいて才能は凄まじいまでなのだ。


「そういえば。御婚約なさるんですって?」
「ええ…まだ分りませんが…」


才能があるからといって、彼女が家元を継ぐことは無いけれど。
継ぎたいとも思わないだろうが。
自分の立場、それを彼女は深く理解している。
それはもうちいさなころから。ふかく、ふかく。


「今日のお食事はそれですね。あぁお嬢様のために腕を振るわせて頂きますわ!」
「有難うございます」
「ええ!さ、中におはいりになって。あぁ寒いですねぇ。雪が降るそうですよ」
「ゆき…」


案内されるままにりんは和室の一部屋に通される。
そこには、母親であろう美しい女性がぴしりと座っていた。
睨むように宙を見つめていたが、入室の声にこちらをむきふんわりと笑む。
それはとてもとても綺麗な笑み。


「あぁ初めまして。貴女がりんさん?」
「はい、お初にお目にかかります。初音りんと申します。…宜しくお願い致します」
「そんな固くならないでくださいまし。はじめまして、芽依子といいます」


きちんと腰を折りお辞儀をしたりんに対し、苦笑気味に返す女性…芽依子。
ここにいることから、恐らくこれからりんが会うであろう人の母親なのであろう。
しかし、肝心のお相手は未だ現れていないようである。


「御免なさいね、まだあの子ってば来てなくて」
「いえ、お仕事がお忙しい方だと伺っておりますから」
「…まぁ、貴女変わっているわね」
「はい?」


おもしろそうに、芽依子はりんをじっとみつめてくる。
対するりんは思いもよらぬ言葉にぱちくりと目を瞬かせた。
はて、それほど変わったことを言ってはいない筈であるが。


「今までは、皆さん顔をゆがめたりなんなりしていたのに…貴女はまったく表情を変えないのね」
「はぁ…」
「嫌じゃないの?約束を遅らせられて」
「?」


ぽんぽんと意見をいってくる芽依子にりんは魅入られたように固まった。
こんなふうにバシバシ意見を言ってくる人は、りんの周りでは一人しかいなかった。
最近は完全にこちらを避ける様になった彼女を思い出しながら、りんは少し笑いそうになった。
まあ、はたから見れば感じ取れないくらいの変化ではあったが。


「仕事などがございましょう。それというのはどうしようもないことです。それに対して何か言う気は起きません」
「…嫌じゃないと?すっぽかされても?」
「はい。…そうですね、嫌というよりは」
「?なあに?」
「残念に思う、かと…」
「へ?残念なの?」
「ええ」


考えつつりんは言葉を紡ぐ。
そんなりんを見つめて、芽依子はおもしろそうに、不思議そうに続く言葉を待っていた。
このこは、面白い。
会った時からの予感が、少しずつ確信に変わっていく。
これは、思わぬ拾いものかもしれないわね。


「会える筈だった方に会えない、それは縁が繋がれなかったということです」
「そうねぇ」
「もしかしたら、繋がれるかもしれなかった縁かと思うと…やはり、残念だな、と」


そう、私は思います。


そう言ってほほ笑んだりんは、今まで芽依子が見てきた少女の中で一番切ない顔をしていた。


・・・・・・・・・・・・・


「外?」
「はい、雪がふっているそうなので…」
「いいけれど…寒いわよ?」


一寸かわったご挨拶から数分後、なにか切り出してきたかと思えば。
りんは外に出てもいいか、と尋ねてきたのだ。


「雪の日に外に出れるなんて、めったにありませんから」
「?まぁ、あと少しは来ないでしょうしね。いってらっしゃい」
「有難うございます!」


ぱあぁと顔を輝かせ、ほんとうに嬉しそうにお礼を口にする。
よそう以上に反応に驚きつつ、芽依子は送り出す。


「じゃあ行って参ります。直に戻りますので」
「ちゃんとあったかくしていきなさいよ?」
「はい」


そして、今まで気づかなかったことを思い出し、芽依子はりんを呼び止めた。


「ねえ、りんさん」
「はい?」
「此処には、貴女一人できたの?」


普通、お見合いには誰かしらが傍につく。
親だとか、もしくは親戚だとか。一対一はまぁ初めからはないことだ。
何か気になっていたのだが。りんがあまりにも自然だったため気づかなかったのだ。


「…ええ。私に人を付ける価値等ありませんから」


この両腕がありさえすれば、花を生ける能力が無くならなければ。
…それすらも、今は疎んじられているけれど。




そう告げて軽く頭を下げて行ったりんの後姿を、芽依子は呆然と見送った。
それほどに、今の彼女の言葉に感情は込められていなかったのだ。
まるでさきほどの少女とは別人のような、つめたい瞳で。


「あの子は、…なんで?」



なぜそれほどの闇を抱えて、ああも笑っていられるの。






・・・・・・・・・・・



玄関を出るときに無理やり持たされた傘を開かず抱えたまま、掌をそっと空へ向ける。
ひらひらと舞いおちてくる雪は、まるで何かの花びらの様。
ものも言わず、降り積もる。


「ほぁ…きれいです…」


雪を捕えようと手をあげる。
しかし、雪は手に触れた瞬間じゅわりと溶けて、その瞬間に雪では無くなる。
一寸前までは雪であったはずの水をみつめ、それでもまた、りんは掌を空へと向ける。
なんどやっての雪は水へすぐかわる。
雪は熱により、雪のままではいられない。
わかっていても、何故だか少女は繰り返す。ただひたすらに、雪を欲しがる。


捕えられないから。
自分には絶対に手に入らないものだから。
それが雪に重なってしまうのだろうか。
手に入らないなら。
ならば、最初から…


ガサリ


突然聞こえてきた音にりんはハッと我に変わる。
そう、ここは料亭の御庭。誰がいようと不思議ではない場所。
あまりにも無心に雪と戯れてしまったことに羞恥心を覚えつつ、そっと周囲を見渡す。
そこには。


「…雪の精、とか」
「はい?」


何故か顔を真っ赤に染め、こちらを凝視してくる一人の青年が佇んでいた。





続け

・・・・・・・・・・・・・・



レンリンどこいった…?!!!!!!
続きます。一応。長くなったので分けました。
はじめのミクりん加減に私はずっとツッコんでました←
いやあ、ツンミクちゃんけっこーすきよ。
でもやっぱ卑屈リンちゃんもっとすきらしー(オイ



2011/04/30






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