novel

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きらきらしてて、ふわふわで、あまったるくて。
少女漫画や、友達から聞く「恋」っていうのは大体そんなイメージ。
上手くいかないーだとか、フラれた―だとか。
大変なんだよっていうけれど。
そうゆうのも全部ひっくるめても。やっぱり、なんか可愛い。


きらきら、ふわふわ。


…私には、絶対に似合わないや。




薄荷ドロップス





「リンは恋しないの?」

もちろん、してるよ。絶賛ベタ惚れ中ですよ。
でも、でもね。


「しないよー。だって、よくわかんないんだもん。」

内緒なの。


…だってね。

私の好きな人は、恋しい人は、私の双子の弟なんだもの。





ぜったいに、ひみつ。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






時は放課後。そろそろほとんどの部活も終わろうという時間。
校内の部活終わりらしい数人の女子生徒たちが、楽しげに話しながらと下駄箱へ足を進めている。


「はあ」


さてそんな中。溜息をつきつつ、億劫そうに下駄箱から上履きを取り出す少女がひとり。
紺のブレザーに灰色のセーター。シャツのボタンは二個あけがイチバン。
あまり可愛くない紺のスカートはひざ上まで短くして、寒い足はあったか黒タイツでなんとかカバー。
雑誌に載っているような今時の可愛い制服には遠く及ばないが、一応女子高生なその姿。
その少女…鏡音リンは、肩までの金髪を揺らしつつ、もう人の気配がしなくなりかけた廊下へと歩き出した。


リンも、先ほどまでは他の生徒達と同じように流れに沿って友達と校門へ歩いていたのだが。
やけに違和感を主張していた左手の理由に気づき、こうして戻ってきた訳なのである。
違和感の理由は、御察しのとおり。


「かばん、わすれてた…」


リンは、おそらく教室におきっぱであろうカバンに思い浮かべ、もう一度溜息をついた。
ジャージだとか、辞書だとか。
その程度の物ならば、正直無視してしまうのだけれど。
入っているのは。


「さすがに…おべんとうは、ヤバいよねー。」

ちょっと、無視しづらいものなの。
忘れて帰ってしまっては、なんだか後ろ髪が引かれるというか。
…教室が、非常に怖くなりそうというか。


そんな理由をつらつらと考えつつ、リンは階段を上っていく。
上っていく、まだ上っていく…。


そうして、なんとか自分の教室の階まで辿り着き、ふぅふぅいいながら廊下を進んで行くと。


「…?」

なにかが、微かに鼓膜を揺らした。
疑問に思い耳を澄ますと、どうやら発信源はリンの向かう教室であるようで。


「こんな時間まで…勉強とか?」

偉いなぁ、無理だわぁと顔をしかめつつも教室へ近寄っていけば、徐々にはっきり聞こえてくるある言葉。


『…きです!』


あららら、これは予想外。


まさに、教室は告白現場として起動真っ最中。
リンは、あちゃーと口だけ動かし、扉の傍で立ち止まった。


告白現場なんて、できれば乱入することは避けたいものである。
しかし、非常に残念なことに、リンのお弁当はその場所におきっぱなし。
彼女の机の左に、大人しく小さなトートバックは迎えを待っているはずだ。


「…ちょーのーりょくとか、使えないかな。」

もちろん、リンにそのような能力は存在しない。


「……。」

少しの間、変化も何もないドアを見つめていたリンだが、
教室内ですぐには変化が起きなそうだと感じとると、ふぅ、とため息をひとつ落とす。
そうしてくるりと体の向きを変え、ドアの前にそっと腰を下ろした、
なるべく音をたてないようにドアに寄りかかり、面白味もない廊下の壁をぼんやりと眺める。


「はやく、終わんないかなぁ。」

もう成功でも駄目でもどっちでもいいから、私にトートちゃんと会わせてくれ。


なんて当人たちには嬉しくないことを考えていると、再び教室内から声が聞こえ始めた。
ついつい耳を澄ませると、返答らしきものが聞こえてくる。


『ごめん。』

あら、あらあら。


その声を聴いた瞬間、リンはすくっと無言で立ち上がった。
そのまま、後ろも振り向かずにスタスタと階段にむけて歩いていく。


「ったく。モテる男は辛いですねー。」

しかし告られるなら余所でやられてくれ。


「…ばーか」

どろり。嫌な気持ちが、汚い想いが溢れてしまいそう。
あぁもう、いやだいやだ。
なんてきたない。醜い自分なのか。
私になんか、何も関係ない筈なのに、ね。


「レンの、ばーか」

でも、気にしちゃうんだ。仕方ないじゃん。
だって、大好きなんだもん。しょうがないでしょ?


「わたしの、ばか。」

あぁもうほんと、いやになる。
おべんと忘れたことも。教室が告白現場になってたことも。
…どんな小さな声でも、レンだとわかってしまう自分のことも。


「はは、なんかいたいね。」

ぜんぶ、いたい。



はじめは音を気にして静かに歩いていたが、階段についてからから全力を出して駆け下りる。
その勢いのまま下駄箱に辿り着き、上履きを脱いで靴箱に放り込む。
来るときにだしっぱにしておいた革靴に思いっきり足を突っ込んで、リンはそこから走り出した。


やだ、いやだ。みにくくて、きたなくて。
そうして何故か、…すごく、いたい。


あぁほらね、私の恋は、甘さなんてカケラもない。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「…ごはん、支度しなきゃ。」

帰ってきたまま玄関に買い物袋ごとへたり込んでいたリンは、外から聞こえてきた鐘の音で我に返った。


あれから。下駄箱から走り出してから、
途中で今日の夕食の材料がないことに気づき、ふらりとスーパーへ寄ってまたふらりと帰ってきた。
リンの両親は、共働きでかつ毎日帰りが遅い。
たまに早ければ家族でご飯を食べに行ったりするが、普段の食事や洗濯などは姉弟が行っていた。
寒い冬、たいていは朝起きられないリンが夕食を、レンが朝食&お弁当当番をこなしている。
だから、今日もいつもどおり夕食はリンの役目。


「はやくしないと、レン帰ってきちゃうし…。」

帰ってきてまだ何も準備がなってないとなったら、さすがにレンも不審に思うだろう。
そうなる前に、早く、とは思うのだが。


「……」

なんだか、動かない。


あぁ、これじゃあスカートに跡が付いちゃう。
早く着替えて、ハンガーにかけなきゃ。


そんなことは考えるのだが、如何せん思考があっちこっちにいってうまくまとまらない。
そうこうしているうちに、時間はお構いなしに進んで行って。


「ただいまー…えっリン、どうしたの?」

リンがのそのそとハイハイのような体勢でリビングに進んでいたら、ガチャリと音と共にレンが帰ってきてしまった。


「あ、あー。…おかえり?」
「いや、うん。ただいま。…なんだけど、リン、どうしたの?」
「うー?」


同じことを二度尋ねられるが、返答が思いつかないリン。
とりあえず、へにゃりとわらってみると、荷物を適当にほおってレンがリンのほうへ近づいてきた。


わー綺麗な顔ー。ほんとにこのひと私の弟なのかな。


なんてことを考えていると、くいっと腕をひっぱらっれて変な体勢だった体をきちんと立たされる。
そうして手に持ったままだったスーパーの袋を抜き取られ、リンの腕を握ったままレンはさっさとそれを机の上へ持って行った。


その鮮やかな手並みにぽけっとしつつ引っ張られていると、レンは袋を置いた時に見えたであろう中身に目を丸くし、くるりとこちらに向き直った。


「リン、今日のご飯、なに?」
「え?あぁ…今日は寒いから湯豆腐にでもしようかなーって。あったまるし。」
「…それはいいんだけど。じゃあリンは蜜柑とバナナだけで湯豆腐作れるの?」
「…ほぇっ?え、…あれ?」


呆れたレンの声につられて袋の中を見てみれば。


オレンジ、オレンジ、きいろ。きいろ、きいろ、オレンジ。


なんとも鮮やかな色彩ばかりが凛の目を刺激する。
というか、その二つ以外袋の中に食糧はなかった。


「あれぇ?お豆腐二丁とねぎと白菜を買った気がしたんだけど…。」
「…どこでどう空目してそうなるの。」
「あれー。」
「…ねえ、リン。」
「はい?」


不意に近くなった声に我にかわると、リンの瞳に、レンの顔がどアップでうつる。


「どうか、した?」
「…。」

なんとなく気まずくて顔をそらせば、ぽんっとリンの頭にのせられる、レンの手。


…あ、なきそう。


ふっと出てきたなみだをひっこまらせるため、ぎゅっと口を引き結んでから、すぐにへらっと笑顔を浮かべた。


「なんでも、ないよ」
「…リン?」

レンの心配そうな瞳とばっちり目があってしまい、ついその瞳から逃れたくてふぃと顔をそらす。


「…なんでも、ないもん。」

自分でも、随分頼りげない声だとは分かってるけれど。

それでも、どうにか言葉を絞り出して、そうしてそのままレンのほうに抱き着いた。


「っ!リンっ?」
「なんでもない、だから、…ぎゅってして。」
「…勿論。」

ぎゅっと抱きしめてくれるレンの腕の中で。
ありがとうとお礼を呟きながら、レンの胸板あたりにほおを寄せる。
あったかさに泣きそうになりながら、リンはゆっくりと瞼を下した。



なんでもない、なんでもないもん。
だって、しってるもん。
リンをいっちばん大事にしてくれる人はレンで。レンを一番大っ好きなのはリンで。
さっきの告白だって、何があったって絶対断ってくれるって。
わかってるもん。


でも、でも。
言えないんだ。いえないの。
レンは、リンのだって。手を出さないでって、言えないの。


だから、だからね。


「…もっと、ぎゅっとして。」

そんなこと忘れちゃうくらい、抱きしめて。
そうすれば、平気になるから。また、いつも通りの私になるから。


すると、ふっとレンがほほ笑んだ。
そうしてリンの耳に口を寄せ、そっと呟く。


「リンが言うならいくらでも。」


あんまりにも似合いすぎてたので、なんだかおもしろくなってリンはくすくすと笑い声をあげる。


「うわ、キザー。」
「ま、だいすきだからね。」
「しってるー。」


ふたりで目を合わせて笑い合って、そうしてまたぎゅっと抱きしめあう。


あぁ、ブレザーが皺になっちゃうなぁ。
ぼんやりとそう考えながら、まぁいいか、とそっと目を閉じてほほ笑んだ。







ふたごであいしあうのは、きもちわるい?いけないこと?
…しらないよ、そんなこと。
レンも私も、お互い以外はいなかったんだ。






これ以上の運命の相手、他にいると思いますか?



(たくさんある恋のなかには)
(少しくらい、あまくないのもまじってるんだ)





おわり。



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弁当は無事レンが救出して帰ってきてます。
求ム、文才orz

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