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●ハローハローの続きです!男子校パロ!



君が来てくれて僕は嬉しい。
ねぇ、これが学園生活を謳歌するってヤツなのかな?




ディアマイフレンド




きーんこーんかーんこーん


誰もが聞いたことが有るであろう音が鳴り響く。
何かの始まり、または終わりを知らせてくれるチャイムの音だ。
ちなみに、今のチャイムが指し示すのは授業の終わり。それも最後の授業…六限の終了を示す音。
この学園はお金持ち校、掃除はなんと専用の業者の人が行ってくれている。
そしてHRは日常では日に一度、朝のみに行われている。

つまり今鳴ったチャイムは、生徒たちの解放を示す音ってわけだ。
そんなだから、音と共に教師が出て行った途端、教室が騒がしくなるのはしょうがないことだろう。
まぁ、僕らは学校が終わっても解放されることは無いけれど。


「笹瀬?」


ぼんやりと考え事をしていたら、後ろから声がかかる。
突然の声にびくっと体を震わせつつ振り向けば、心配そうな表情をしたレン…鏡音レンだった。
ん?何故心配そうな顔?
不思議に思い腕の時計を見遣れば、チャイムの時間からもう十数分は過ぎた時刻。
どうやら、けっこうの時間思考に沈み込んでいたらしい。


「おーい、大丈夫?」
「ん?あぁ、だいじょーぶ。ごめんごめん」
「…そうか」


にっと心配ないことを示すように笑いかけるが、それでもまだ心配そうなレンの表情。
あれ、僕は随分とぼーっとしてたみたい。
しかし別に体の不調がある訳ではないので、その表情は無視し自分の机の上を片づけ始める。

本当に授業そのままの状態で残っているノートに教科書、それにシャーペン。
机のものを片づけもしないでぼーっとしてたのが、僕。
…確かに、これでは心配するかも。
自分で自分の行動に苦笑しつつ、鞄に必要な物だけ詰め込んでしまう。
教科書?そんなもん、勿論おきっぱだ。


「っと、おわりー。レンごめん待たせた!」
「別にそれはいいけど、…大丈夫な訳?」
「あはは、だいじょーぶだって」


机の中ををチェックし勢いよく立ち上がる。
そのまま鞄を肩にかけ、僕の席の前で立っていたレンの傍に並んだ。
そうして、レンの目の前で手をひらひらと泳がせると、何が面白かったのかふっとほほ笑んだ。
…相変わらず、可愛い顔。
ほけっと見惚れかけてしまい、はっと我に変わる。

危ない危ない、ぼけっとしたらまたレンに心配をかけてしまう。
気づかれないように軽く頭を振り、ぺしぺしと頬を叩いた。


「さ、いこ!今日はどこ案内しよっか?」
「校舎内はけっこうみたしな」
「うん、案外時間かかったよね」
「本当にな。この学園広過ぎんだよ」
「あはは。まぁ…お金がっぽりとってるからねー親から」


あきれた様なレンの言い方に、くすくすと笑いながら教室をでる。
僕たちが最後かと思い電気を消そうと振り返れば、まだ数人は教室に残っていた。
珍しい、今日は金曜日で明日は休みなのに。


「笹瀬?今日はどこいく?」
「あっあぁ!そうだなぁ…図書館とかは?」


振り返った格好のまま立ち尽くしていたら、前を歩いていたレンが振り返る。
おっと危ない危ない。
うーん、今日はどうもぼーっとしてしまうなぁ。


「図書室でなく?一度案内してもらったけど…」
「それは中等部専用。それぞれ以外にでっかいのがあるんだ。それが図書館」
「…相変わらず非常識な学園だな」
「ふふっまぁねえ。でもとっても素敵な場所なんだよ?」
「へぇ、笹瀬が言うとは相当だ。…行ってみたい」
「よーし、れっつごー!」
「…お子様?」


ごー!と腕を大きく上げて歩き出す。
勿論、最後の言葉に対してぼふっとレンの背中にたっくるをお見舞いするのも忘れずに。
いてっと全然痛くなさそうに呟くレンに笑ってから、今度こそ本当に教室を後にした。

もう一度振り向いていれば、何かがわかったかもしれなかったのに、
ね。










・・・・・・・・・・





レンがこの学園に来てから、十日くらいがたった。
授業がはじまってからは、ちょうど一週間。
彼は僕と同じ部屋になったのだけれど…心配したようなことはまだ起きていない。
案外、このまま何も起きずにおわれるかもしれない。
なーんてね。

レンは、僕が言うのもなんだけど…とても賢い人だ。
ずっと隠しておいたままでいるのは、きっと無理だろうなぁともう思ってるくらい。
あー面倒な人と同室になっちゃったなぁとかは、残念ながら思えていない。
なぜって?それはとっても簡単。
彼の性格が非常に僕と合うからだ。ほんと、予想以上に。


そんな訳で、レンが学園に来てからずっと一緒に行動している。
いや、ずっとってわけでもないのかな?
でも最初に言ってたように彼とはクラスも同じで部屋も同じ。行動パターンは嫌でもかぶるってものだ。
もし合わない人と同じだったら…ぞっとしてしまう。
ほんと、レンでよかった。
レンもそう思ってくれてたらいいんだけどね。


「ここが?」
「ここが。見た目は古臭いけど中身は最新式だよ。学生証もってる?」
「あー確か此処に」
「図書館は学生証がないと入れないからね。この学園はどこもそうだけど」
「寮は寮生証だよな」
「あれは特別」


さて歩いて数分、辿り着いたのは図書館の前。
学園の転校生という立場のレンは、もちろんだが学園の中の配置を知らない。
ついでにいうと、今の時期は秋学期がはじまったばかりで僕は暇。
そして僕らはウマが合った。
結果として、レンにこの学園を案内するようになったという訳だ。
案内を始めたのは一週間前からだが、途中で授業が始まってしまったため未だ全てを終えてはいなかったりする。


「迷路みたいだった」
「え?」
「校舎から、ここまで。なんか曲がり角多くなかったか?」
「そういえば。まぁでもこの学園は全体が迷路みたいなもんだから」
「…厄介な」


唸るような声をだし、苦虫を噛み潰したような顔をするレン。
それがあんまりにも嫌そうで、ついついふきだしてしまった。
確かに。ずっと通ってる僕でさえ、分んなくなるくらいに此処は広い。
迷路というか、この中の道は意図的に方向感覚を狂わせるように出来ている気がする。
あくまで“気がする”だけなのだけど。


「入るよー」
「おう」


図書館の前の門を押せば、ギィイと重い音をたててゆっくりと開く。
そこからのびている道を歩き、そびえ建つ古そうな建物の扉の前にたった。
横目でレンが学生証を手に持っていることを確認し、ゆっくりと扉に手をかける。
すると、完全に手が触れる前に扉の横に目立たない様に設置されたパネルがひかり出す。
おお、さすが最新式。


「ここに学生証タッチさせて」
「こうか?」
「うん」


頷きつつ、僕もレンに続いて学生証をタッチさせる。
するとピコンと響く軽快な音。


『二名様で宜しいですか?』

「えっ」
「はい。お願いします」

『畏まりました。扉が開くまでお待ちください』


電子音とわかるつくられた音が響くとともに、待つまでもなく開く扉。
驚いたのか目を丸くするレンの背中を押し、中に入る。
そこには。


「うっわ…」
「ど?こちらが我が学園の誇る最新式の設備が駆使された第一図書館。蔵書量も大量らしいよ」


棚、棚、棚。本、本、本、本。
見渡す限りそびえ立つ高い高い棚と、そこにギッシリと隙間なく詰められた本。
そして時々目の端で動くのは、もちろん棚。
棚と棚と隙間には、広々と使える書見台と座り心地のよさそうな椅子。
それらが、此処に入ってくるものを圧倒する数で並んでいた。


「まあ此処にあるのはホンの一部で、後は書庫にしまわれてるらしいけど」
「書庫?」
「そ、地下にあるんだけどね」


くぃっと指だけで地下を指す。
レンはまだ驚きが覚めていないようにぼけっと図書館を見渡している。
それをみて、悪いと思いつつもクスクスと笑ってしまった。


「…何」
「いや、小さな子みたいだなぁって」
「こんにゃろう」
「あははっ」


いや本当に、驚く姿が可愛くて。
そう心の中で呟いてから、ぶすっとしてしまったレンの顔をまじまじと見つめた。
うぅーん。相変わらず綺麗な顔だ。
教室でも寮でも、基本的にレンはいっつも無表情、というか涼しそうな顔だ。
だからちょっと表情が崩れるだけで、余計に可愛く見えてしまうのだろう。
こんなことは絶対本人には言えないけどさ。怖いし。
そういえばクオ兄様もそうだよね。いいなぁ、お得で。


「笹瀬?」
「ぅあっハイ!何も思ってませんよ!」
「は?」


レンの声に慌てて意識を引き寄せる。
危ない危ない、またぼーっとしてしまっていた。
今日はなんか多いなぁ。秋学期始まったばかりだし、疲れてるのかしらん。
ま、それは置いといて。


「あぁごめん。さっこっちきて」
「え、こっちって…本棚?」
「そう本棚。ではでは、此処が最新式と呼ばれる所以をお見せしましょう」
「入口じゃなくて?」
「あれだけじゃね。まっみといて」


不審げな顔をするレンを引っ張って近くの本棚にたつ。
そして本棚の横にあるパネルにふれて少し操作をする、と。


「ぅおっ」


ヴゥイン…という駆動音と共に、本棚がするする下方に動き出したのだ。
下方に…つまり、高いところの本が勝手にここまで来てくるという訳だ。
このおかげで、この図書館の本棚は信じられないくらいの高さで保てるのだろう。
これが、多分他では見ないだろう此処の利点。
まぁ他にもいろいろあるらしいけれど、僕が一番感動したやつだ。


「これは、上下に動くのか?」
「いえす!ここの地下一階は空洞になっててね。この本棚が潜れるようになってるんだ」
「あれ?地下って書庫って」
「それは地下二階から。確か地下三階…四階?まであるんだ」
「そりゃ凄い」
「だよねー」


感心したように、じっくりと本棚を観察している。
応えつつパネルで操作をすれば、するすると本棚は元の高さに戻った。
うん、便利だなぁ。


「これさ、落ちない?」
「ええっと…本が?」
「そう本。高さが変化するとき、本危ないんじゃない?」
「確かね、本棚がちょっと斜めになってるんだ…あぁほら、みてみて」
「?…あー成程。でもこれホント微妙にだな」
「ねー、これを作った人の努力がみえるよ」
「凄いな…っと後ろ」
「お?あぁっすみません!」


びくっと振り向くと、迷惑そうな顔の学生服の少年。
手にメモを持っているので、おそらくここの棚にお目当ての本があるのだろう。
うわっ申し訳ない!
慌てて謝罪しつつ体をよける。見れば、レンはすでに邪魔にならない場所で立っていた。

そうだ、ここは図書館。邪魔にならないとこ…か。
…あっ!そうだ!
パッと閃いたのは、僕お気に入りのとある場所。
そう、そうだ。図書館と言えばあそこじゃないか。すっかり忘れてた。
そうと決まれば、行動あるのみ、だ。


「笹瀬?」
「レンっ案内する場所、まだあった!」
「おっおいちょっ早」


とととっと近寄りぐいぐいと腕をひく。勿論声を潜めるのは忘れない。
うん、レンの不満そうな顔も見ないふりをして。
本棚をいくつも通り過ぎて、この図書室の真ん中くらいの場所で壁際に寄る。
一番壁際のある本棚の裏にクルリと回り込んで。確か、ここであってたはず…っと!


「階段…?」
「うん、足元暗いから気を付けてね」


本棚でちょうど隠された、扉も何もない入口。
そこをくぐると上りの階段が登場。ゆっくりと上がっていくと、辿り着く。
正方形の、小さな部屋。
窓と本棚と踏み台、そして丈の小さなソファーがあるだけの、それだけの部屋。
ここが、僕のとっておきの秘密の場所。


「こんなとこが…」
「吃驚だよねー。僕も見つけた時吃驚した」
「ここは」
「僕のお気に入りの場所。読書室、かな?こういう場所他にも結構あるんだ」
「この図書館に?」
「そうだよ。まるで生徒を試すように、いくつもいくつもね」


軽く肩をすくめてみせてから、窓の端に腰掛ける。
窓の外はもう夕暮れ。その光で、部屋の中をオレンジ色に染め上げていた。
丁度いい時間。この時間帯のこの部屋は、一番のお気に入り。
レンに見せれてよかった。
あぁ、ほんとうに。


「綺麗だな」
「えっ」


え、今…思ってたこと口に出してた?いやいやいや。
ってことは、ええっと…レンが言った、のかな?
びくっと振り向けば、とっても穏やかなレンの表情。
わわわ。


「この部屋が、綺麗」
「…うん、うん。でしょう?」
「あぁ」


ありがとう。


ちいさく呟かれた言葉に、にっこりと笑顔で返事をした。




・・・・・・・・


「あー結構時間食っちゃったねー」
「まぁ。いいもんみれたし」
「そういってもらえるとうれしいな」
「うん」


もう暗くなりかけた空のした、ゆっくりと寮までの道を歩く。
図書館からの寮までは距離が結構ある。
レンとだらだらと歩いていると、後ろからも足音が。
それは、…あれれ?


「あっリン、鏡音も」
「おー奇遇だね」

「あれ兄様」
「…」


自然と四人で歩きながら、ぱちくりと瞬きレンと目を合わせる。
今までレンをいろんな場所に案内してたけど、外で兄様たちにあったのは初めてだった。
…なにか、あったのかな


「それで、リン」
「はぁい?」
「事件だ」
「はぁっ??」



素っ頓狂な声を上げる。大声を出してしまったけれど、これは兄様のせいなので許してもらおう。
あぁもうなんでなの。
どうして、こういう嫌な予感だけは当たるんだろうね!!!



・・・・・・・・・・・・・・


さて僕が大声を上げてから数十分後。


「「部屋荒らしィ!?」」


僕たち…カイ兄様クオ兄様レン僕の四人は、兄様たちの部屋に集まっていた。
勿論、事件だという兄様の話を聞くためだ。
しかしなんだ、部屋荒らしって!


「そう。鍵をかけたはずの部屋をね」
「何件くらい起きてるんですか?」
「10〜15件程度。しかも秋学期が始まってからの短い期間で」
「多いね…」


僕らが聞く大体の質問に答えが返ってくる。
どうやら、結構詳細な事件の内容をどっかで仕入れているようだ。


「被害は?」
「今のところは何も。ただ荒らされてるだけらしい」
「お金とかは手が付けられてないんだって」
「へぇ…変なの」
「おい」
「イテ」


うっかり本音を漏らすと、レンにどつかれてしまった。
いや、事件なのはわかってるんだけどさ。
わざわざ部屋に入るなんて危ない真似をしておいて、何も取らないなんておかしいじゃん?
だとしたら、考えられるは…。


「荒らすだけなの?」
「あぁ」
「じゃあ、何かを探しているってこと?」
「…」


思ったことを告げてみると、目を大きく開いた兄様たち。
え、僕なんか変なこと言った?!
普通そう考え付くと思うんだけどなぁ…。


「兄様?」
「…とりあえず、どうしてかってのはおいといて」
「えー」
「この件に対しては慎重なんだよ。教師陣はね」
「あぁ」


警察の届け出はまだ。
まぁ確かに、もし生徒の中なら、大変だもんね。
教師側も慎重にならざるを得ないだろう。
大切な子供たちに傷でもついたら大変だ。親たちが黙ってはいまい。


「どこで事件はおきてるの?」
「ここ以外の寮三つとも。全てで起きた事件らしい」
「え?」


ここ以外すべて。
あぁなんかいやな予感。というか、いやな流れじゃないですか。
起きてないことを喜ぶべきか、それとも?


「ここでは…」
「起きてない。だから、この事件を今日まで知らなかった訳」
「そっか…兄様寮長だもんね、何か寮であれば知らされるのか」
「そう」
「呼び出しでもあったんですか?」
「寮長会議でね、突然何かと思ったら…これだよ」
「…おつかれさま」


やっぱり。今日は会議があったのか。
大変だなぁ。
ふと横を見れば、レンが何か考え込む仕草をしている。
うん、なんか嫌な予感。


「犯人はこの寮の生徒だと?」
「えっ」
「ふぅん、鏡音、何故そう思った?」
「此処だけ狙われてない。ならば…となるのは普通です」
「まぁね」


えっえっえっ!レンってば何を!
そんでなんで皆そう平然としていられるのかな!
自分たちが犯人だなんて、そうじゃなくとも疑われるのは絶対嫌だ。
…あっそうか、疑われることはないんだ。
だって、そう簡単に話は進まないんだもんね。


「でも実際無理じゃない?自分の寮以外に行くなんて」
「だよね」
「あぁ」
「そうなのか?」


納得するために声に出せば、あっさりと頷く兄様たち。
あぁやっぱり。
一人きょとんとするレンのほうに顔を向け、説明しようと口を開いた。
こればっかりは、実際に寮生活を送らなきゃわからないことだろう。


「あーレンは来たばっかだもんね実感わかないかな?」
「この寮は中等部に入って振り分けられる。そっからずっと同じなんだ」
「つまりは六年間通い続ける。」
「だからね、寮以外の人は大抵バレる…てかすぐわかるんだ」
「成程」

「まぁ注意しろってことだ」
「これは皆に?」
「一応な。気を付けるよう、今日の点呼の時にでも言っておいてくれ」
「はーい」
「はい」


反論すべきことでもないので、真面目に返事をする。
と、突然くいっと顔をこちらに近づけてくる、カイ兄様。
僕…じゃなくて、レンだな、これは。
な、なんだぁ?


「そんでだな。鏡音」
「はい?」
「この学園は、どうだい?」
「え」


レンは突然の話の飛躍にフリーズしている。
事件の話からこの話に来たんだ。確かに驚くのはしょうがないよね。
カイ兄様ってどうも話があっちこっち行くんだ。ほんと謎。
しぱしぱ目を瞬かせているレンがちょっと可哀想になったので、助け舟を出す。


「レンすごいよーモテモテだよね!」


冗談っぽく言ってみれば、チラッとこちらを見てから俯かれた。
んんん?
嘘は言ってないんだけどなぁ。
実際、転校初日とかレンの周りに群がる生徒がたくさんいたものだ。
レンは全然相手にしなかったので、さすがに今は減ったけど。


「…あんなのは」
「ん?」
「あれは、家に釣られてるだけだろ」
「あぁー鏡音は辛辣だな」
「事実ですから」


ま、たしかにそーだけどさ。でも。


「そんなの、当たり前じゃない?」
「な」
「だってこの学園だよ。お金持ちや伝統ばかりを重んじる家の子供が集まるとこだよ?」
「そうだね」
「初等部なんて、もっと酷かった」


初等部、それも低学年の頃なんて、右も左も解かんない時だ。
だから子どもはみーんな親の言うとおり。
親が仲良くなさいと言う人と仲良くして、親が言わない人とは話もしない。
親たちの、お家同士の関係が、そのまんま子供たちに現れる。
あーほんっとーに。


「馬鹿みたいだったよ」
「リン」
「兄様、…今はこんだけしかいないからいいでしょ」
「そうじゃないよ」
「俺らが言いたいのは…」


あれま、兄様たちがふたりして辛そうな顔だ。
こんな顔させたいわけじゃないんだけど。
そこで二人の言いたいことを理解して、うんうんと頷いた。


「あぁ。だいじょーぶだよ。今だって普通に学校生活を送れてるよ」
「…そう」


苦笑しながら、顔の前で手をひらひらと振る。
兄様たちは優しいから、こうなるのは解かり切っていたじゃないか。
あぁ、失敗。


「それに、レンがいるしね」
「…はっ?」


この場の空気を換えようと、レンの方へ話をふる。
実際、僕は今とっても楽しいんだ。レンのおかげで、楽しいんだよ。
だから兄様、安心して?

おっと、レンは吃驚したのか目を丸くしてこちらを見つめている。
本心なんだけどなぁ。
言わなきゃ伝わらないって本当だね。言っても伝わんないことだってるもんね。
聞いてくれるかな、レン。


「ね、レン。僕はレンが来てくれて嬉しかったよ」
「な、突然何を」
「こんな縛られた場所で。君は普通に接してくれるからね」
「そんなの。笹瀬だって」
「僕は皆に対して同じだよ。それでも、一方通行じゃ意味は無い」


そう、受け入れてもらわないと意味は無いんだ。
レンは未だ驚いたような顔をしているが、兄様たちは顔を俯かせている。
違うよ兄様、そんな顔しないで。僕はふたりに安心してもらいたいんだ。
今僕は楽しいってことを、レンのおかげだということを。知ってもらいたいだけなんだ。
三人に。僕の兄様と僕の友達にさ。


「僕はレンが同じ部屋の人でよかった。君の家は残念ながら知らない。でもよかったって思ってるよ」
「…!」
「っなーんちゃって。レンの話だったのにね、ゴメン!」
「笹瀬」


あはっと明るく笑えば、気を抜いたようにレンも笑ってくれる。
うん、笑顔って偉大だ。


「鏡音、リンの世話大変だな」
「あっクオ兄様ひどい!」
「いやリン、本当のことだよ。なんてったってリンだからね」
「カイ兄様までー!!!なんなのさ二人ってばぁ!」


ぎゃんぎゃん喚けば、兄様たちが楽しそうに笑う。レンも笑う。
楽しいね、楽しいな。
ねえ伝わってくれたかな?
伝わってくれたらいいな。このきもち。


「おっと。もう食堂しまっちゃうね」
「えっ」
「あぁあっ?!ごはん!」
「さっいこいこ」


ひとしきり笑って、兄様の一言で皆で立ち上がる。
寮の食堂は朝夕にひらいていて、開いてる時間ならばいつ食事をしてもいいことになっている。
でも、時間を過ぎたら完全に閉まってしまうのだ。
ある意味、門限よりもこの時間の方が大事にされてたりする。


「何食べよっかな」
「カツ丼食べたい気がする…」
「げっミクオ昼も大量に食べてたじゃん」
「もう消化した」
「うわぁ」
「クオ兄様の中どうなってんの。てかなんでそんな細いの!?」
「化け物ですね」
「だよねー怒ると怖いし」
「ははは、分かるかも」
「…カイトお前後で覚えとけ」
「僕だけっ?!」
「リンと鏡音はすぐにでも」
「アハハハハー!逃げようか、レン」
「応」


わいわい騒ぎながら部屋を出て食堂へ向かう。
廊下だから自然に兄様たち、僕たちで二列になって歩くことになる。
兄様たちが前で話していて、こちらから完全に注意がそれたことを確認する。
よし、おっけ。


「ね、レン」
「ん?」
「レンにも、此処に来てよかったって思ってもらえたらいいなって思ってるよ」
「え…」


こそっとレンの耳元で呟く。
さっき言えなかったこと。てかさっきの続き?
うん、言えてよかった。


「勿論、ただ思ってるだけで君には迷惑かけるき無いから。安心して?」


にっとわらいかけて、すぐ前を向く。
隣のレンの動揺は無視!そう無視。
言うだけ言って…とは思うけど、これはもうしょうがない。
だってだってさ!反応こわいじゃんか!ねえ!

と、前を向けば、兄様たちはもう食堂の入り口についている。
いつのまにこんな距離ができたんだ?やばいやばい。
慌てて走ろうとすれば、くるっとカイ兄様が振り向いた。


「おーい、あと五分でラストオーダーだってさ!」
「あっカツ丼お願いしまーす」
「速いね」


うわわわわ!
横でもうすでにクオ兄様は食券を買って頼んでいる。
あぁあああ焦る!!


「ぅあハイハイハイ!!あー何かな。レンは?」
「…考える」
「早くしろよー二人とも」
「兄様、早っ!!!せっ急かさないでよぉお!」



あーどうしよう。 
券売機の前で悩みながら、ついチラリとレンを盗み見てしまった。
…レンはどう思っているのだろうか。友達だったらいいの。



あぁでも、もしバレてしまったら、その時…。
僕はどうするのだろうか。





・・・・・・・・・・・・・・・






なんとかご飯をかっ込み、風呂を済ませた。
一応部屋に一つシャワーがついている。が、浴槽はないため、大体の生徒は大入浴場を利用している。
俺も使っているが、人が少ない時間をなんとか狙って入っている。
…話すのは、面倒だし。
それに、笹瀬は大入浴場を使わない。
あいつがいないと、なんてゆーか…変な気分になるんだ。


「今日は…なんか疲れた」
「そうだな」


ぱたりとベッドに倒れこむ笹瀬に相槌を打つ。
今日は金曜日、一週間の終わりで疲れがたまっている。それに加えて放課後のいろいろだ。
ほんと、…なんか疲れたな。


この部屋は、ベッドが両脇の壁に一つずつ寄せられ、その間に勉強机。
ベッドの下側…ドア側に、タンスや本棚がおいてある。
真ん中で線対象になるよう配置され、そこで仕切りが作れるようになっているという訳だ。
合わない奴だったとき、ここで仕切りの役目が登場するのだろう。
俺らには必要ないものなのだが。

ふと笹瀬をみれば、髪の毛を苦闘しつつ乾かしている真っ最中だ。
濡れている髪、パジャマに着替えた服装をみて、既にシャワーを終えていることを察する。
そういえばこいつ、なんでいっつもシャワーなんだ?



「笹瀬」
「んー?」
「いっつもシャワーなのか?」
「あ…あぁ。そうだよ」


一瞬びくりと体を強張らせ、ぎこちなく笑いかえしてきた。
ん?なんかいつもと違う。
いつもいつも、めんどくさいとばかりに考えずに突っ走ってる奴だ。
こんな顔、するんだな。


「僕ね」
「?」
「大けがしたことあってね、傷あるんだ、体に。」
「っ!じゃあ、それで」
「浴槽はあんまね。皆いるわけだしさ」
「悪い」
「えっ別に」
「…悪い」


笹瀬は苦笑気味に笑ってただけだった。
でも、なんだかいつもと違かった。何かは解かんなかったけど。
…そりゃそうか。怪我を負うなんて、思い出したくもないもん、か。




そのあと宿題なりなんなりをし、消灯前になって寮長補佐の仕事をこなす。
笹瀬は疲れがピークだったのか、部屋に戻るなりバフッとベッドに倒れこんだ。


「おーい、無事か?」
「レン…僕はもう駄目だよ…」
「眠いんだな」


苦笑しつつ部屋の電気を消し、自分もべっドに入り布団をかぶる。
寝る準備はもう万端、体だって、疲れを訴えてる。
なのに、どうしてか俺の目は冴えたままだ。…どうしてだ?
あぁ、気になっているからだ。今日のことが。
…笹瀬のことが?


「笹瀬」
「なぁに?」
「どうして教えてくれたんだ?あの場所」
「えーっと、図書館のとこ?」
「そう」


横を見ずに声をかけていたが、ふと見れば笹瀬はもぞもぞとこちらに顔を向けていた。
今にも眠りそうなとろんとした声。
それでも、こいつはこっちをまっすぐ見るんだな。


「どうしてって、どうして?」
「え」
「んー。気に入らなかった?」
「はっ?!そんなこと!」
「よかった。じゃあ、いいじゃん」
「…」


にこっと、安心したように笑っている。
…そんな、無防備な顔。やめてほしい。
まだ会ってそんな経ってないのに、どうしてこうも安心しきった顔が出来るんだろうか。
何がいいじゃん、だ。さっぱり解かんない。


「僕はあそこが好きなんだ。だから、レンにも知ってほしかった」
「は」
「それだけだよ、ほんと。あーっと!つまりは聞かれても困るっていうか…」


困ったように、いやきっと本当に困ってるんだろう。
笹瀬はわしわしと自分の頭をかき、ばたばたと足を動かしている。
なんなんだ、ほんと。
…ほんっと、コイツはなんなんだろう。


「は、はははっ」


考えるのもめんどくさくなってきた。
あぁ、眠いからだろうか?どうも笑いが止まらない。
きっと、コイツの変な空気が移ってしまったんだ。


「なっ?!れ、れん?」
「あーゴメン。面白くて」
「はぁ?」
「いやごめんごめん、気にしないで」
「気になるなぁ」


なんとか笑いを収めて笹瀬をみやれば、ぷくっと頬を膨らませていた。
その仕草が、妙にこどもっぽく、そして可愛くうつる。
もともと女みたいな顔をしている奴だ。制服じゃない分、余計そう見えるんだろう。
なんだこいつ、ほんと可愛いんだな。
っと、そうじゃない。今俺が言うべきなのは。


「いいから。…笹瀬」
「ん?」
「ありがとう」
「ふふっどういたしまして」


そっと感謝を伝えれば、いつものように笑顔で返してくる笹瀬。
…あぁ、どうしてだ。なんでだろう。
ふにゃっとわらった顔が、どうしても見続けることはできなかった。



心臓が、煩い。





「笹瀬?」
「ふぁ……ぐぅ」
「寝たか…」


もぞりと体を動かしてみれば、幸せそうに眠る笹瀬の寝顔。
…本当に、女みたいな顔してるんだな。
というか、こどもみたいだ。ちいさなちいさな子供、みたいな。
自分の思いつきにちょっとわらってから、届くか届かないかくらいの声で囁く。


ちいさく呟いた言葉は、笹瀬に届いただろうか。
…届かなくても、いいけれど。それでも、言いたかった、いいたくなったんだ。

貰った言葉が、なんだかすごく嬉しかったからさ。


「…?」

そう思ったとたん、異常に激しく音をたてはじめる心の臓。
…これって病気?んなこと聞いたことないけど。
おかしいなぁ。
笹瀬に会ってから、いろんなものが狂いっぱなしだ。
それを全く嫌だと思ってない俺も、本当に、どうかしてるのかもしれない。


「おやすみ、…ありがと」








thank dear my friend!






(俺も、この学園に来てよかったっておもってるよ)
(だって、笹瀬に会えたから)









おわり


友情編ww男装ならではのネタに行かない何故じゃ!



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