苛々していたから。理由をあげるとしたらただその一言に尽きるだろう。

 その日のシズちゃんはやけに、上機嫌だった。原因は判っている。昨日シズちゃんが中学時代の先輩と久し振りの再会に驚喜したことなど、蜘蛛の巣のように緻密に張り巡らされた情報網を持つ俺の耳には当然筒抜けだった。

――気に入らない…。

 そんな俺の昏い感情が爆発するのは、その日の放課後のこと。


「あ」

 ばったり、そんな擬態語が似合うようにして人気の失せた授業後独特の雰囲気を持つ廊下で出会ったシズちゃんは、途端にその顔をしかめて。

「あれ? シズちゃん。珍しいね、今日は直ぐに帰らなかったんだ。ああ、もしかして日頃の暴力のことで先生に呼び出されでもしてたの?」

 俺は直ぐににやりとした笑みを自分の顔に貼りつけると、人を食ったような口調で言葉を紡ぐ。
 普段なら沸点の低いシズちゃんのこと。当然、次の瞬間にはきれている。

 しかし、

「チッ、ノミ蟲が…。――…さっさと失せろ」

 するり、言うだけ言って俺の直ぐ横を通りすぎたシズちゃんに、俺は大きく目を見開く。と同時に、ふつりと俺の中に湧き上がってきた衝動。

 気づけば、俺の体は動き出していた。

「!」

 ぱしり、有無を言わさずその腕を取り、直ぐ傍にあったトイレ――実はよく見ると女子トイレだったのだが――へとその体を引き込めば、不意を突かれた様子のシズちゃんは特に抵抗するでもなく、俺の力に従った。

「っ手前…!!」

 一番奥の個室へと滑り込めば漸くと事態を察したのか、シズちゃんはぴくりと蟀谷(こめかみ)を揺らす。

「――煩い」

 しかし俺がその声を遮るようにしてばたんと大きな音を立ててそのドアを閉じれば、シズちゃんは僅かにその身を竦める。
 その隙を逃さず、俺はぷちぷちとシズちゃんの前を開けさせていった。

「 な、」

 驚いた様子でシズちゃんがその目を白黒させている内に、俺の指先はその胸の先端を捉える。くっとまだ何の反応も見せていないそこを俺が無理矢理に摘めば、シズちゃんはぴくとその肩を揺らした。

「っ…?!」

 かあっと途端に色づいたその顔を見上げ、俺は笑う。

「あれ? もう感じちゃったの?」

「違ぇ!!」

 シズちゃんのそのつり上がった眉を見ても、俺は止まらない。二つのそれを掠めるようにして僅かな刺激を送り続けてやれば、シズちゃんはくっとその息を詰めたのが分かった。

「て…め、いい加減に…!」

「――…静かに」

 ふっと表情を引き締めそう囁いた俺に、シズちゃんも何かを感じたのだろう。振り上げたその手はぴたりと空中に止まり、その唇は静かに閉じられた。
 一瞬の間の後、聞こえてきたのは賑やかなソプラノの声々。それは、段々とこちらに近づいてくる。

 しかし、そんなことは俺の知ったことではない。

「ッあ…?!」

 べろり、と。唐突にその立ち上がった尖端を舌先でつついてやれば、シズちゃんの唇から溢れたのは艶のある声。
 慌てた様子でその両手を使って自分の口を塞いだシズちゃんの顔を見上げ、俺はきゅっと口角を持ち上げる。胸だけでこれ。感度が良いとは結構なこと。何かと都合が良い。
 相手の両の手が塞がったのを良いことに、俺は手のひらをかちゃりとそのベルトへと掛けた。

「っ、待…」

 言葉を発しかけたシズちゃんはしかしふと明確に響いた女子たちの声に第三者の入室を悟ると、きゅっとその唇を噛み締める。
 これから部活でもあるのだろうか。姦しい彼女たちは鏡が設置された場所まで進んだ後そこで溜まったらしく、その声は一向に消える様子を見せない。

 緩んだシズちゃんのスラックスのウエスト部分に俺は手のひらを滑り込ませると、そのまま直ぐにそれを後方へと回し、ちらりとその表情を窺う。シズちゃんの瞳は強制的に与えられるもどかしい快感の所為か、僅かに熱っぽく潤んでいた。

「…ふ、うッ……」

 くっとその後孔を慣らすように押せば、その瞳は怯えたように小さく揺れる。
 慌てた様子でその口元を押さえる手のひらを一つだけにしたシズちゃんは、もう片方のそれでぐいと俺の肩を押してきた。その力は普段の彼と比べればひどく弱々しいものだったが、俺は深く眉間に皺を寄せる。そんな小さな抵抗ですら、そのときの俺にはひどく腹立たしかった。

 だから、

「んう…ッ!?」

 ガリッ…、と。

 噛み付いた先は、胸の頂。
 びくりとその首を反らせたシズちゃんに気を良くした俺は、素直に鳴いたご褒美としてどんな刺激も逃さまいと健気に赤く腫れ上がったそこをぺろりと舌先で撫でてやる。

「………は、あ…」

 うっとりとした様子で小さく息を溢したシズちゃんはきつく眉を寄せながらも、既にその表情は惚けている。右手で尖端を弾けばぴくりと身を震わせ、反対側をねっとりと舌で舐ってやれば熱い吐息が俺の肩先にかけられて。
 もう良いだろう、と。俺はシズちゃんの右の膝裏に手のひらを差し込み、その脚をゆっくりと持ち上げる。シズちゃんはもう、抵抗しなかった。焦らすようにして後方を解していた動きを止め、俺はその一つの指をついにするりとシズちゃんの体内に挿し入れる。

「――…ッ!!」

 きゅうと侵入者をきつく締め付けたそこに、俺は声を出さずに小さく肩を揺らして笑った。


「――…そう言えばさー、前言ってた彼…どうなったの?」

 ふと聞こえてきた高い声。

「ああ、折原くん?」
「そう言えば気になるって言ってたよね〜!」
「ちょ、ちょっと!! あんまりおっきい声で言わないでよ!」

 聞こえてきた自分の名にしかし、俺は特に関心を示さない。寧ろぴくりとシズちゃんの柳眉の方が反応を見せた。俺はシズちゃんの意識が僅かにそちら側に逸れたということに気づき中へと忍ばせた指を更に奥へと押し込めれば、流石に受け入れたばかりでまだ少し苦しいのか、シズちゃんはくっ…と悩ましげにその眉を寄せて。

「折原くん格好良いよね〜」
「あ、でも格好良いと言えばさ」


 平和島くん、と。


 聞こえたその単語に、ぴたりと思わず俺の手が止まる。

「ああ、実は結構格好良いよね!」
「実はってか…かなりじゃない?」
「実際、力が強いっていうのもちょっと格好良いよね〜」

 だけどあれは行きすぎ、と笑った彼女たちの声などもう、俺の耳には届かない。俺は深いに眉を潜めた。
 相変わらず熱い吐息を鼻にかかった声と共に漏らし続けるシズちゃんの表情をちらと一瞬窺った後、その滑らかな膝裏にするりと手のひらを滑り込ませる。

 そしてぐいっ、と。

「!」

 強くシズちゃん足を持ち直した俺に、…はっと熱い息を吐き出したシズちゃんの顔がはっと引き締まる。しかし俺はそれを気にすることなく、片手で掴んだその右足をシズちゃんの体へと強く強引に押し付けた。


 そして次の瞬間――貫く。


「―――い……ッ!!?」

 シズちゃんは予告もなしに突き込まれたその質量に、声にならない声で叫ぶ。まだ碌に慣れてもいなかったそこは、さぞや痛かろう。しかし、これもシズちゃんが悪いのだ。俺を目の前にして他のところに気を移した、シズちゃんが。だからこそシズちゃんは、俺が俺自身を取り出したことにも気づけなかったのだろう。

「…はッ…、…良い締め付け…」

「ッ痛…!! ……は、早く抜け…ッ!」

 その耳元へとダイレクトに囁いてやれば、シズちゃんはぴくりと体を跳ねさせたものの苦悶でその顔を歪め鋭い瞳で俺を睨む。仕方ないなあと額に汗を滲ませながらも余裕を気取り、俺はシズちゃんの少し萎えたその先端を軽く指先で撫でてやった。

「…ッん…?!」

 びくり、既に先走りを溢すそこは突如与えられた直接的な刺激に、更にその質量を増す。俺はそこを軽く扱いてやりつつ、舌先で胸の尖端を転がしてやる。勿論、緩やかに腰の律動も始めてやって。

「……っあ、ん…」

 異物感と快感とを同時に与えられたシズちゃんは、戸惑うような声でしかし小さく喘ぐ。
 しかし俺の先がそこを掠めた瞬間、シズちゃんの体は大きく反り返った。

「…――あ…ッ?!」

「……ここ、だね」

 にやりと笑って俺はと再度ぐりとその場所を突く。

「……ふう…ッ!!」

「あのね、ここが前立腺って言うんだよ」

 気持ちいい?と小さな声で問いかけながら俺がその場所を掠めるようにして挿入を繰り返せば、シズちゃんの瞳にはうっすら涙の膜が張って。無理に肉を割られてぎちぎちと音を立てていた筈の結合部が、やがてスムーズに動くようになっていく。慣れてきたのだろう。
 上も下も容赦なく刺激を送り続ければ、生理的なものであろう透明な雫がそのリズムに合わせ、シズちゃんの頬からぽろぽろと散った。

「……ッく、…んあ…!」

 強すぎる刺激に仰け反ったその背中を薄い仕切りの壁に押し付け、俺は更にシズちゃんを追い込む。下から突き上げるようにしてやれば、シズちゃんは喉を晒して快感に浸った。

「――ねぇ、そう言えばさ」

 そのときふと、再度響いてきたのは訝しげな女の声で。

「さっきから何か…聞こえない?」

 ぎくり、と。シズちゃんの体が強ばるのが分かった。

「ああ、私もちょっと思ってた」
「え? 私、何も聞こえないんだけど!」
「えー何かって何! 怖っ!!」

 身を固くしたシズちゃんを笑い、俺は腰のリズムを速める。

「――…!!?」

 馬鹿、とでも言いそうな鋭い視線で抗議されるも、俺は意に返さない。涙目で見つめるなんて、逆効果だ。
 ぐりぐりとその中の前立腺を狙って腰を打ち付ければ、シズちゃんはひッ…と喉の奥で引きつった悲鳴を上げる。流石にこれはまずいかと考えた俺は、シズちゃんが食い縛っていたその唇に噛み付くようにしてキスをした。

「んん…ッ」

 くぐもった嬌声が、俺の口内に消える。

「――…なーんて、うっそ〜」
「えー? 何それ!」
「馬鹿ね、私たちしかいないに決まってるでしょ。もうこんな時間なんだし」

 賑やかな会話と共に、女たちの声が遠くなる。もうそろそろ、部活が始まるのだろうか。

「ッ、つぅ…!」

 その声々が完全に消え、彼女たちがいなくなったと分かった途端、堪えきれないといった様子でシズちゃんの両手の端から溢れ出したのは、ひどく切羽詰まった様子の嬌声で。心地好いその鳴き声に俺はゆるりと目を細め鋭く口端を持ち上げ、笑う。

「…っ可愛いね、シズちゃん」

「ふざけッ…っあ、」

 俺の動きに合わせて収縮するそこに、俺は緩む口元を抑えられない。シズちゃんも人がいなくなったという安心感からか、声の抑えが利かなくなってきているらしい。

「…ッ、ふ……ッは…っあ、…んうっ、ん、ッ……!」

 突き上げのリズムに合わせ、その金の髪が宙に揺れる。シズちゃんは身長が高いから、下手をしたらその髪はこの個室の外からも見えているのかもしれない。どこからか差し込んできている西陽をきらきらと金に反射させるその光景は美しく――…しかし、その直ぐ下方でぐちゃぐちゃと厭らしい水音を立てて行われるその行為は、ひどく淫猥だ。

「っあ、あっ、くあッ…、あ、ッんん…!」

「……ふッ、」

 頭を振って快楽に飲まれるシズちゃんを見ていたら、俺の脳の奥がじんわりと痺れてくる。こんなに気持ちいいのは初めてだ。俺もそろそろ、余裕がなくなってくる。

「も、やめッ…!」

 今さら止めたところで、辛いだけだろうに。しかし、強情なシズちゃんは否定の言葉を叫ぶ。

「…っシズちゃん…」

 しかし心優しい俺は余裕がなかったこともあり、


「一緒にイこうか」


 囁いて、…笑った。

「っ止めろ! や、……ッんあ…」

 深く深く、中を突く。俺より身長の高いシズちゃんをしかし突き上げ足が付かなくなるようにさせるつもりで、俺は何度も自身を奥へと叩き込んだ。シズちゃんの体は弓なりに反り、喉元を晒して叫ぶ。そのぽこりと突出した喉仏にさえ欲情した俺は、堪らずそこに舌を這わせた。

「やッ……くっ…ん…臨也、臨也ッぁ…!!」

 掠れた声で俺の名を呼ぶシズちゃんはただ、欲望のままに快感を追いかける。大嫌いな筈の俺の嫉妬に振り回されて喘ぐその姿は、なんて浅ましい。なんて愛おしい。

「んッ―――…ア……!!!」

 陽に透けたその髪が、柔らかく輝く。


 憐れで美しい金色の獣の左胸に、俺は小さく口づけた。



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