「……ん…っ」

 俺の舌の動きに翻弄され、シズちゃんは鼻にかかった声で喘ぐ。だけど勿論、これは態となんかじゃない。

「…シズちゃん、本っ当にキス下手だよねえ」

 銀糸を引いて唇を離した後、まるで小学生のするお飯事のようにちゅっと啄むようなそれを送れば、シズちゃんは肩を上下させつつもきっと鋭い瞳で睨み付けてきた。

「っるせェ…」

 それを聞いた俺は、きゅっと両の口端をつり上げる。さてさてそれではそんな生意気な恋人をぐずぐずなまでに陥れんと、俺の右手はその腹筋の筋を辿り疾っくのとうに首をもたげていた熱へと――…

「おい臨也、待て」

 ぴたり、俺のその手は動きを止める。非難を込めた目でゆっくりと俺が顔を持ち上げれば、深く眉間に皺を刻んだシズちゃんと視線が絡まった。

「手前な…、この前も俺が下だったじゃねェか」

「ああ、そうだね」

 俺は暢気にそう答えながら、シズちゃんのそれをするりと再び手を伸ばした。ひくり、目の前の唇が、苛立ちを隠さず歪に持ち上げられる。

「ふざけんな。今回は手前が下やれ」

「えー」

「えー、じゃねェ!」

 俺はちらりと上目でその瞳を覗き込みつつ、既に僅かながら緩んだ蕾の辺りをするりと指先で辿る。ぴくと、シズちゃんの腰が僅かに揺らいだのが判った。

「だって俺、シズちゃんみたいに淫乱じゃないからさー」

「っ…、ああ!?」

「きついんだもん。シズちゃんのなんて只でさえ規格外なんだし」

「…………」

 言って不意に俺が手のひらの動きを止めればふらり、シズちゃんの瞳の水面が僅かに危うく、部屋に差し込むネオンの光を反射した。

 ああ、なんて―――。

 俺はふっと、肩から力を抜く。ゆるりと唇の端を持ち上げ、そこに苦笑いを浮かべてやった。

「仕方ないなあ…」

「?」

 訝しげな色を表したその顔を見上げ、俺は言う。

「良いよ。今回はシズちゃんが上ね」

「! あ、ああ」

 戸惑いの表情を浮かべたのは、一瞬。シズちゃんは直ぐににやりとその顔に悪い笑みを浮かべ、俺のそこへと指先を滑らせる。
 俺は穏やかに笑って、それを見ていた。

――挿れさせてあげるよ。取り敢えず初めの一回は、ね。

 …くっ、と。中に入り込むその節榑立った指。俺は小さく鼻先で熱吐息を逃がしつつ、きゅうとその侵入者を締め付ける。

――まあ、イニシアチブは渡してあげないけど。

 弧を描いた俺の瞳が鋭い光を放ったことに、愚かで愛おしいこの男は――…気づかない。




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