目の前を、白魚のような足が揺れる。その足の裏――土踏まずの辺りで徐々にその白が陰を濃くしていく様子は、何故だか凄く扇情的に見える。薄桃の桜貝のような爪。するりと引っ込む指と指の間の谷間。俺はそれらを丁寧に丁寧に舐り、食む。

「ん…っ」

 頭上から小さく甘やかな声が降ってきた。そっと俺はその肌に舌を這わせるが、ふらふらと定まらないその白磁に俺は焦れて手を伸ばしかける。だが、途端にその白は翻りぱしりと俺の頬を打った。

「……っ、」

「シズちゃん、だーめ」

 目の前で悠々と黒のソファに腰掛け足を組む制服の女が、艶やかな漆黒の髪を揺らしてくすりと小さな笑みを溢す。

「臨也…」

「言うこと聞けないんならお仕置きだよ?」

「あッ…!?」

 …ぐりっ、と。

 俺が舐めていたのとは反対の足が伸びてきたかと思えば、それは中途半端に立ち上がっていた俺自身を踏み潰してきて。堪らず俺はぐっと顎を引くが、そこは直ぐに臨也の指先によってくいと上を向かされる。

「なあに? 何か文句ある?」

 思わず俺を見下ろす緋色の瞳をきっと睨み上げれば、すうっとその赤は鋭さを増した。

「あ、そんな顔しちゃうんだ」

「…っ、くうッ…?!」


 ヴヴゥン…

 突如俺の体内を揺らしたのは、震動。ずっと前に突き刺されていた疑似具が、今さらながらに俺の後孔で動き出したのだ。堪らずびくりびくりと俺が背筋を跳ねさせ伸ばした途端、げしっと再び俺の股の間を踏みつけたのは当然、臨也の足。

「あ゛ッ…!?」

「あはははは! シズちゃん、こんなところ踏まれて悦んでるの?」

 とんだ変態だね、と囁くような嘲笑を浴びせられ、俺の顔は恥辱に歪む。しかしそこがその嵩を増したのは紛れもない事実だった。痛みと混ざり合った快感に、俺の瞳を薄く透明な膜が覆う。屈折し歪んだ世界に見えた臨也は、恍惚の表情で俺を見下していた。

「…良いねシズちゃん、その顔。いやらしくって、可愛い」

 かああと、頬に熱が集まるのが分かる。だけど俺はそれが悔しくて眉間をしかめた。しかしまるで褒美だとでも言わんばかりについ数秒前まで足蹴にしていたそこをするりと撫で上げた臨也の足裏にさえ反応してしまう自分が堪えられなくて、俺はそっと視線を伏せる。
 そのときふっと、俺の目の前で臨也が動く気配。それに誘われるように視線を前に向け直した俺は、軽く目を瞠る。臨也が立ち上がっていたのだ。勿論、それだけではない。赤いチェックに飾られた制服のプリーツスカート。無防備な程に短いその中へと臨也が己の手のひらを突っ込んでいたことに俺はまず驚き、視線が絡まった途端ににやりとその口端を持ち上げた臨也が一気にその両手を引き下げたものだから俺は二度驚いた。
 するりと。それはまさに流れるような動作で臨也のその黒のニーハイに包まれた細い足首から抜き取られたのは、意外にもひどく純情そうな薄桃のショーツ。俺はごくり、思わず喉を鳴らした。

「あーあ」

「…?」

 しかしふっと突如臨也の唇から発せられた落胆するような声に、俺の脳内は困惑に染まる。ぴらりとその桃色を揺らした臨也は深くその口元に笑みを刻みつつ、不意にずいと俺の眼前にその下着を突き出してきた。

「っ、」

 俺は思わず軽く身を引く。しかし、臨也はそれで許すような奴ではない。ゆったりとわざとらしい口調で言葉を紡いできた。

「あたしのパンツ、シズちゃんがぺろぺろぺろぺろ足なんかを舐めてきた所為で、こーんなに濡れちゃったんだけど」

 俺が知るか、誰がそんなことさせたと思ってやがる。

 そう言いかけ口を開いた俺は、しかしその言葉を少しも発することはできなかった。

「く、あッ…!」


 ヴヴンッ…。

 臨也の握る小さなリモコンによって、突如その震動数を増やした疑似具。俺は慌てて唇を噛み締め、嬌声を押し殺す。

「――…ねえ、シズちゃん」

 規則的な快感に瞼を下ろす少し前、見えたその布は確かに小さく色が変わっていて。視覚がなくなったことによって嗅覚が研ぎ澄まされたのか、どこからかふわりと甘やかな匂いが香った気がして俺は目眩のような感覚に襲われた。

「舐めてよ。ちゃんと綺麗にして」

 …俺は臨也に言われるがまま、そっと震える舌を突きだしそこを唾液で濡らし始めていた。

「――んッ…」

「……、ふふっ…」

「………、…」

「あはははっシズちゃん、やらしー!」

 くいっとその下着越しに舌を指先で掴まれた俺は、その手の伸びる臨也の方へと視線を持ち上げた。俺の動きを妨げるそれはひどく煩わしい。だけど、それよりも何よりも。
 熱い。自身のそれが、熱くて熱くてもう苦しい。

「…もう良いよ、ありがと」

 そう言ってその桃を床に投げ捨てその場に突如膝を付いた臨也に、俺は小さく生唾を飲み込んだ。ひやりと冷たくしなやかな臨也の指が、ゆっくりと焦らすようにして俺の前を寛げていく。

「いざっ…」

 俺の喉から溢れたものは、期待に染まり上擦った声。喉がやけに渇いている。

「今日はシズちゃんもよーく頑張ってくれたからね…。ご褒美、欲しい?」

 臨也はそんな俺を悉く焦らしたいようだ。息も絶え絶えな俺は必死に、こくこくこくこくと何度も小さく頷いて見せる。臨也はそんな俺の足に徐な動作で跨がりつつ、「どうしよっかな〜」と薄く笑んでいた。

「んっ…」

 くちゅり…、と。

 スカートに隠れたその中で、どちらともつかない水音が漏れる。

「ふ…っ、ん…」

「、あ…」

 ごく浅い出入を繰り返しつつ、臨也の熱っぽい視線がこちらの様子を窺ってくるのが分かった。

「臨也っ…は、早く…」

 他でもない臨也の言い付けによって両腕の使用を禁じられている俺は、ただただ必死に懇願するしかない。

「…ん、仕方ないなあ…」

 俺を見つめていた赤がゆるりと弧を描き、遂に待ち望んでいたそのときが訪れた。


 ――ぐちゅり…、


「ッく、う…っ!」

「あ…っ!」

 熱くて熱くてはち切れそうな俺を包み込んだその柔らかな肉の感触。俺は歓喜でぶるりと背筋を震わせた。くぷくぷとゆっくりゆっくり俺の全てを飲み込んでいくそこの締め付けは抜群で、俺はその焦れったい動きだけでも危うく達しそうになってしまう。

「…あ、シズちゃんまたおっきくっ…」

 甘い声を出しながら、しかし臨也は浅ましい俺の体を馬鹿にするような笑みを溢す。そんなことはしかし、今の俺にはどうでも良かった。
 遅い。その遅すぎる律動に堪えきれず、俺は遂に己の手を伸ばし――ぐちゅり、と。その柔らかな胎内を強く、突き上げた。

「アっ…?!」

 びくり、

 弓なりにのけ反った臨也の細い体。俺は内から湧き上がる衝動を抑えきれずに、その程よい肉感の尻を掴み――…

「っにすんのさ…!」

「っ、うああッ…?!!」


 ヴヴヴヴン…!!


 突如俺の中で暴れだしたその震動に、俺は思わず手のひらを離しあられもない声を叫んだ自身の口を慌てて両の手で塞ぐ。快感でびくびくと跳ね上がる背筋は、全く止められるものではなかった。

「シズちゃん…あたし、シズちゃんは自分から動かないでって言ったよね…?」

 …ゆらり、

 黒いオーラを醸し出し壮絶な笑みを浮かべる臨也に、しかし俺は何の言葉も返せない。ただ俺の中を揺らす凶暴な快楽にうち震えていた。

「…ッあ…あ、臨――…」

「…――お仕置き」

 伸びた臨也の手のひらが、俺の後孔を埋めるその疑似のものががしりと掴む。やっとのことでその状況を理解した俺が絶望に染まった眼で臨也を見上げれば、その唇はにやりと歪に歪んだ。



世界は真白に弾ける




 
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