よく晴れた空が、眩しかった。
 風に木々が揺れ、草原は靡きその模様を描き出す。
 オイラたちには不釣り合いなほどに、長閑な風景。

 だからこそオイラはその景色から逃れるように目を瞑ってそこに寝転び、束の間の休息に身を委ねていた。


 オイラとサソリの旦那が己の考える"芸術"について言い争うことなどは最早、日常茶飯事。
 このときもそれだった。

 オイラは"一瞬の美"について。旦那は"永遠の美"について語り、頭に血が上ってついつい手が――というより旦那の場合はヒルコの尾が――出てしまうことも、常。
 今回先に自身の凶器を翳したのは、例によって旦那の方。
 オイラは目を開くことも億劫だと思い、寝返りをうつようにしてその毒の付いた凶器を躱し(かわし)――…


 ――そしてオイラは、目を見開いた。


 闇色のマントに、血の色の雲。
 暁の証でもある、その――オイラが身に纏うものと全く同じ――コートに身を包む旦那は、この麗らかな空にはひどく浮いて見える。
 それはまるで穏やかな景色が、オイラたちという存在を浮き彫りにしているかのようで。


「…旦那、」

 真っ赤に燃えているかのような髪。
 旦那はいつの間にかヒルコから抜け出しその身を晒していて、寝転ぶオイラの真上――腹の上にどかり、膝を乗せていた。

「これは何のつもりなんだ? うん」

「――死ね」

 黒の下から伸びるチューブのようなものに取り付けられた、刃物。
 気づいたときにはそれが真っ直ぐ、オイラの喉元へと突きつけられていたのだ。

「…いや、死ねってのは正確じゃねぇな」


 芸術は爆発だ。
 それが、オイラ中の揺るぎない考え。

 だけどなにも、それ以外には全く何の感情も抱かないという訳ではない。
 光に透ける柔らかな旦那の緋色だとか、その鼻筋の通った端整な顔だとかは純粋に――美しいと思う。


 ぼんやりとそんなことを考えている間に、オイラの直ぐ目の前で薄い唇が開かれた。

「一旦死ね。いや、皮を剥がさせろ」

「はあ?」

「…実際にそうなってみれば、お前みてぇな馬鹿でもこの良さが分かるだろ」

 その静かな瞳から、旦那の真剣さが伝わってきて。


「――人傀儡になるか? デイダラ」


 オイラの背中を静かに、冷たい汗が伝った。

「…冗談だろ? うん」

 オイラがそう震わせた喉に、その刃の切っ先が触れる。
 すっと、旦那の重たげな瞼が更にその瞳を鋭く光らせた。


 しかし、そこはオイラもS級犯罪者。


「!」

 それに気づいた旦那が、オイラが印を結ぶ一瞬前にその場から一気に飛び退る。


「――喝!」


 ボウン!!


 オイラの声に呼応し、砕け散った白。
 旦那の後方から音もなく飛来してきていた小さな鳥形の起爆粘土が、煙を上げて爆発を起こす。

 オイラの真上の旦那の心臓付近を狙った、ごく小規模な爆発。
 当然、オイラの身体にその力は届かない。

 オイラは直ぐに身を翻し体勢を起こすと、素早く旦那の飛んだ方へと向き直る――…が。

「………」

 チッ、と舌打ちを溢した旦那は、憎々しげな表情。しかしその瞳からは既に戦闘の意志が掻き消えていて。

 オイラはにっと口端を持ち上げ、旦那に向かって笑って見せた。

「――なんだ、旦那はオイラと一緒に永遠を生きたかったのか? うん?」

「……煩ぇ」

 その視線は相変わらず、鋭いまま。
 しかしその言葉が否定ではなかったということはつまり、そういうことで。

 自然とオイラの唇の端は、更にその高度を引き上げる。

「――旦那、」

 オイラはすっと右の腕を曲げて手のひらを顎下方付近に構え、その平の方を旦那に向かって見せる。
 そこにある物言わぬ唇が愉しげな様子でかぱり、僅かな隙間を開いた。

 それに合わせて、オイラも詠うようにして言葉を紡ぎ出す。


「もしもオイラたちが死ぬようなことがあったら、一緒に爆発しようぜ」


 うん、とオイラが一人頷けば、旦那はふっとその唇に薄く笑みを浮かべて。


「…冗談じゃねぇ」


 その声はひどく、楽しそうなものだった。



君と共に



 相変わらずオイラと旦那の愛し方は、平行線を辿っている。



111209