※会話文メイン。 俺は仕事場で貰った雑誌――『にゃんこの気持ち』を、のめり込むようにして熱心に眺めていて。 「………」 「………」 その横からじっと、サイケの視線は感じていた。 「………」 「………」 「……静雄?」 「ん、何だ…?」 「…………」 「…………」 「…呼んでみた、だけ」 「……そっか」 俺がそう呟いて再び手元の本に視線を落とせば、サイケが分かりやすくしゅんと項垂れたのが視界の端で見えて。 「…………」 「…………」 むうー…と力なく頬を膨らませつつ、じっと大人しくしているサイケ。俺のあまりの構わなさにサイケが軽くいじけ始めているということは、何となく俺にも分かった。 「…………」 「…………」 だから。 「……サイケ、」 「!」 「………」 「…、何?」 「呼んでみただけ」 「………」 「呼んでみただけ返し」 「――うん…!」 「?」 「……」 子ども染みたことを俺がし返せば、 「………」 「……」 何故だかサイケはその後分かりやすいくらいに頬をほにゃりと緩めていて。 「…そんなに嬉しかったのか?」 「うん、勿論!」 「………」 隠す気もないらしい穏やかなうきうきのリズムに合わせ、ピンクの蛍光色のコードがゆらりゆらりと揺れていた。 「――シズちゃん」 ふと、ソファに腰掛ける臨也から掛けられた声。 「ん…?」 「………」 「………」 「………」 「…?」 ちょいちょい、 臨也は真顔で俺を手招いた。 俺は訝しみ用があるんなら手前が来いよとは思いながらも、ゆっくりとそちらの方に歩み寄る。 「………」 「………」 「ん、」 「……?」 しかし、俺がその目の前に立っても臨也はまだ手招きを止めなかった。 何かおおっぴらに話せないような話でもあるのかと、俺は首を傾げる。すっと身を屈めた。 すると――…ちゅ、と。 「ッ…?!」 頬を掠めたその柔らかな感触。 「………」 「………」 それに俺は内心動揺しながらも、なんとか真顔を保ち臨也の赤い瞳を見詰める。 …少し、頬は上気してしまっているかもしれないが。 「………」 「………」 「………」 「…手前何だ、今の――」 「ただキスしてみただけ」 「……………」 「………」 「…………」 「………」 「…………」 「ねえ」 「…………」 「し返さないの?」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「………臨也、」 「…」 「…………」 「……何」 「呼んでみただけだ」 みただけ返し 俺を見上げた臨也のその唇は、不満そうにへの文字を示していて。 だけどその瞳は困ったように、しかし確かに柔らかく笑っていることが分かったため、俺はハッと鼻を鳴らしてやったのだった。 111205 |