「―――何故、あんな目立つ騒ぎを起こした」

 低く、唸るような声でおれは詰問する。
 視線を向けた先に突っ立つバンダナは、じっと静粛に憮然とした表情。

「すみません」

 これは反省していないな…と、直ぐに分かった。おれはすうと目を細め、その顔を静かに見据える。

「この島では海軍の奴らの巡回が多いから自重しろと、おれは前もって言っておいた筈だ」

 バンダナは馬鹿ではない。少なくともまだ幼さが抜けきらないシャチよりは、ずっと。
 だからこそ滅多にないくらいに頭に血が上ったのだとしても、バンダナがこうしておれの言葉に従わなかったのは初めてのことで。


 …ふう。


 おれは、大きく息を吐き出した。
 平坦な声でしかし謝罪の言葉を口にしておきながらも、やはり頑なに自分の非を認めようとしないバンダナの態度には、些か困惑する。しかしそれを向こうには悟られまいと、おれは故意に渋い表情を保ち続けた。

 するとふと、おれから外れたバンダナの目二つ。
 それはひたり、空中に固定された、かと思えば、薄く開かれた唇からはぽつり、驚く程に低い声が紡がれて。

「…あいつら、船長のこと馬鹿にしやがったんすよ」

 驚き息を詰めたおれに向き直ったその顔は、色濃く影落ちやけに真剣。…激情を秘めた無表情。


「海賊王になるのは、うちの―――船長だ」


 殺気立ったその瞳におれは思わず、口をつぐんでしまった。
 そしてじっくり、態とに数秒をかけてその言葉の意味を咀嚼すれば、自然と視線は落ちる。

「…、…………」

 その眼差しからおれはするり、顔を背けた。

 その途端に、ぱちり、バンダナが唐突に軽く瞬いた気配。


「――あれ…、船長?」

「…………」

 傾げられた金髪頭はおれの態度に少し面食らったような雰囲気を醸し出し、それからややあって…――にやり。

「…ひょっとして、今」

 だからおれはふいと、やはりそちらとは別の方向に己の首を逸らす。


「照れてたり、します?」


 元より形だけだったとはいえ、十数秒前とは違っておれの怒気が完全に霧散したことをバンダナはその肌で感じ取ったのだろう。
 つい先程までその奥に暗い焔を燃やし危うい光を放っていた瞳は、一体どこへやら。

「…黙れ」

 にやにやとこちらを眺めてくるその顔が、おれにはどうも気に食わない。
 知らずの内に己の口元に当てていた右の手の甲はそのままに、じろり、おれはそちらを睨め付ける。

「可愛い。――…良いっすね。たまには、そーゆー船長も」

 …へらへらとその頬を緩めるバンダナの顔にも、いい加減腹が立ってきた。

「……ナかせるぞ」

 地を這うような低さで脅した言葉に、

「っ、と…。それは、遠慮しておきます」


くるり、僅かに慌てた様子で踵を返したところで――…今更だ。


「逃がすか」


 ――ぱしり、


 捕らえて引き寄せた腕は、離さない。
 たらり汗が伝ったバンダナの首筋に唇を近づけつつ、おれはざまあないとその肌に囁いた。



120306 照れる船長。
 
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