木乃伊の恋



もしかして、ゲイ
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深緑を帯びた風が、ごうっと吹き込み頬をなでる。6月も近いとはいえ、早朝の空気は刺すような冷たさが残っている。
恭弥はブルゾンの前を握りしめ、小さく身震いする。昨日までの自分なら、そういった無意識の防御本能さえもうまく機能しなかったに違いない。久々に生きてることを実感する朝だった。

「寒ければ窓閉めますよ」

隣でハンドルを切る京極が横目でちらりとこちらを見る。

「大丈夫です。気持ちがいいです」

そう答えると、横顔がふっと和らいだ気がした。

「でしょ。田舎の空気ってほんと澄んでますよね、特に朝は」

今日はのんびり世間話をしていても、パートさんに睨まれない。分刻みで工程をあれこれ組み立てて仕事に追われることも、客からのクレームに怯えることも無い。
何の障害もなく無防備に過ごせる時間がこれほど有り難く、いとおしいものだったとは。

「でも、お店、大丈夫ですかね」
「仕事の事は考えない」

それでも気を抜けばふいに思考を濁らす不安要素を、京極はその都度ぴしゃりと跳ねのける。

「大丈夫大丈夫、あっちはあっちでなんとかやってるって」

今日と明日は、入社一年目のSV研修生が、恭弥に代わって一日店を切り盛りすることになっている。
これもれっきとした研修カリキュラムの一環で、年に何回か、こうした現場体験が行われているらしい。
京極も過去に丸三日間、都内のとあるコンビニに研修生として配属されたことがあると言っていた。

本来なら研修の日程が決まれば、前もって通達されるようだが、今回は抜き打ちだったらしい。本社より連絡があったのが一昨日。おかげで恭弥の方は、突如事実上の休日を得たという訳だった。

一日目の市場調査は午前中のみで切り上げられた。二人は市街地の競合店舗を回り、手ぶらだと怪しまれるからと、実際に商品も購入した。

ドリンクコーナーを眺めていると、京極にこの中で何を一番買いたいかと問われ、パッケージが真新しいライチ風味のスポーツドリンクを指さした。
「やっぱ新商品だよね」と京極が意味深に笑う。
次の店でも、その次の店でも、京極は同じ質問を繰り返した。
出し巻き卵のおむすび、チョコクロワッサン、野菜たっぷりロコモコ丼、玄米トースト。
いつしか後部座席は買い物袋でごった返していた。

「恭弥くん、この後予定は?」
「特には」
「あそ。じゃあ、あともう少し付き合ってくれないかな」
京極は俺一人じゃ食いきれないからと、大量の食材を横目で流し見た。



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