拍手御礼文4/コン雨
「石田、さみー」
ぬいぐるみが自分の腕と腕を擦り合わせながら主張した。
部屋の中だというのに外と気温があまり変わらず、ぬいぐるみが話しかけた相手は薄手のコートを羽織っている。
「そうだね」
そろそろストーブ付けようか。でも、と石田と呼ばれた少年は独りごちた。
「温めてくれるとかねぇの?」
返事をしてはいても、まるで自分が眼中にないかのような態度に、ぬいぐるみは抗議を申し立てる。
「火でも付けてあげようか?」
「オレ死ぬよ。それでも良いの?石田寂しくて泣いちゃうよ」
「泣かないよ、寂しくないし」
さらりと返された残酷な言葉にえんえんと泣くフリをしながら叫ぶと、トドメを刺された。
「なんだよー、はくじょーもん」
「だって、義骸がなくなるだけで君が死ぬ訳じゃないし」
ぼすぼすと、ぬいぐるみが石田少年の腕を叩く。
「じゃあ、俺がほんとに死んだら泣く?」
「泣くかもね」
ふと疑問に思って叩いていた手を止めて聞くと、微笑混じりで返された。
「マジで?」
「さぁ?やってみる?」
ぱぁ、と声色が明るくなるぬいぐるみに思わず笑いそうになった少年は弓の様な武器を構える。
そして、ぬいぐるみに照準を当てた。
「ちょっ、それおかしくね。待て待て。早まるな」
たとえぬいぐるみの中に入っている魂魄でも、石田は射止めてしまうだろう。
それは魂魄の消失、つまりぬいぐるみの中にいるコンの消失を意味するのだ。
「冗談だよ」
弓をギリギリまで引いて、慌てているぬいぐるみを見ていたが、突然くすくすと笑い出した。
「うわ、タチ悪」
「君がくだらない事言い出したからだろ」
死んだら、いなくなったらなんてもしも話を石田は好まない。
立ち上がって、そう距離の離れていない寝室へ向かう。
「くだらなくねぇよ、オレは真剣にだなぁ…あ?」
ぬいぐるみはふわりとした違和感を首に感じて声をあげた。
「あげる」
白と青のそれを首から外して眺める。
「だせぇ、このがら」
毛糸で編まれた所謂マフラーは、石田の趣味なのだろう、白い地に青の小さな十字架が敷き詰められるように入っている。
自分はシンプルなものを好む癖になぜこんなにも派手なものを作ったのか些か疑問だ。
「いらないんだ」
滅却師の象徴でもある青い十字架に文句をつけられた事が気に触ったのだろう。
石田はコンからマフラーを取ろうとした。
「んなこと言ってねぇ」
石田はそれを避けながら言う。
「なら、先刻の台詞は撤回してくれないかな」
「気にしすぎだろ」
「…返してもらえるか」
ここまで強情だとは知らなかった。
「あー馬鹿にして悪かった。…ありがとう」
「初めから素直にそう言っておけば良いんだよ」
ふん、と威張る様子は苛つくが少し可愛い。
「…はぁ」
他人への甘え方を知らないのだろう、と自分の方が大人なのだ、と自分に言い聞かせコンは返答を諦めた。
「何溜め息ついてるんだ」
「…別に」
なんでこんな奴好きなんだろ。
センスないし胸ないしっていうかそれ以前に男だし。
でもま、好きなもんは仕方ねぇか。
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