confeito






俺の恋人は金平糖みたいだ。

見た目はちくちくしているのに、食べてみると意外と甘い。

大抵のやつは金平糖というより栗のイガのように鋭い外見にあまり近付こうとしない。

まぁ、こいつが甘いのは俺だけが知っていれば良い事だから寧ろ好都合か。





「黒崎…どうかした?」

黒髪の少年はずっと自分の手から視線を外さないオレンジ色の髪の少年に規則正しく動かしていた手を止めて声をかけた。

「あ、いや」

「もう少しで終わるから待ってて」

バツが悪そうに頭を掻きながら答えたオレンジ色の髪の少年‐黒崎に言って再び手を動かし出す。

「何か質問でもあったの?」

数分後、黒髪の少年‐石田は持っていたシャーペンを机の上に置いて尋ねる。

「質問とかじゃねぇんだけど…今日機嫌良いな」

「そう?」

黒崎は小さく首を傾げて言った石田の目を見ながら、問題を示して立ち上がった。

「これ教えてくれ」

そして、石田の隣に座る。

「質問ではなかったんじゃないのか?」

「良いから」

黒崎は怪訝な顔をしながらも説明を始める石田の指を見ていた。



「…聞いているのか、黒崎」

「あ…、悪ぃ」

元から説明を聞く気はなかったと言ったら張り倒されるのは目に見えているので、先手を取って謝っておく。

「別に謝れと言ってる訳じゃないけど。最近いつも上の空だし、何かあった?」

「そんなんじゃねぇよ」

視線を逸らして答えた黒崎にそれ以上気にした風もなく、説明に戻ろうと視線を落とした。

「なら良いけど」

「石田」

下を向いた時に影を作る睫毛を見ながら、黒崎は石田の名前を呼ぶ。

その声を聞いて顔をあげた頬に手を添え、しかしその手を石田の背中に回して抱き寄せた。

「黒崎…?」

こんな風に抱き締めても殴られなくなったのはいつからだろう。

腕の中にある自分のものでない体温を感じながら、ふと思った。

「石田」

誰かの名前を呼ぶのを特別だなんて思った事はなかった。

何かに取り憑かれたように繰り返し石田の名を読んでいると、腕の中の温度が少し離れる。



「何かあった?」

再び、今度は先程よりも心配そうに目を見つめながら問われる。

「好きだ」

その目を見つめ返して、手を取ったまま呟く。

「何なんだ突然。何か変なものでも食べたんじゃないのか」

石田の口から紡がれる嫌味も、朱に染まった頬を見れば照れている事は明白だ。

「お前の手料理しか思い当たらねぇな」

わざと意地悪い言葉を返すと、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

その予想通りの姿も、どうしようもなく愛しく思える。

再び一度抱き締めて、その手を頬に添えると小さく口付けた。

石田は黒崎からの触れるだけのキスに、しかし予想をしていなかったのか驚いたように目を見開く。

「くろさ…」

黒崎の名を呼んで小さく開いた口内に舌が侵入してくる。

無意識に退いた石田のそれを追うようにして絡めた。



「ふぅ」

長いキスの後、潤んだ瞳で黒崎を見つめていた石田は情緒のない小さな溜め息をつく。

腰に回された黒崎の手を外すと、石田はペチンと相手の両頬を挟むようにして叩いた。

「お前なぁ…って何してんだ」

手が離れて黒崎が視線を上げると石田が自分の服のボタンを外している。

「君がしたいのはこういう事だろ」

「ちげぇよ。あ、いや…。とにかく。今はそういうつもりじゃなくてだな…」

否定にじとっと睨むような視線を向けられて、良く考えればそういうつもりで行動したので素直に肯定しそうになり、しかしボタンに手をかける石田を見ると止めずにいられず、言い訳のような言葉を連ねた。

「じゃあ、どういうつもりなんだい?」

視線が痛い。

「テスト期間中なんだから、勉強の邪魔だとは思わなかったのかい?」

「邪魔…だったか?…だよな。毎日上がりこんでるもんな…」

半ば興奮気味のまま言った言葉に黒崎がしゅんと肩を落としたのが見えて、慌てた石田は少し口ごもりながら答えた。

「いや、それは…僕も良いって言ったから別に…」

「じゃあ、なんで怒ってんだよ」

それを聞いて少し調子を取り戻したらしい黒崎は眉間に皺を寄せて尋ねる。

「君が何にも言わないからじゃないか」

石田は黒崎の目を真正面から見て答えた。

「は?」

「…今日の君の態度は明らかにおかしかった。なのに君は理由を聞いても何も言わないし」

石田の拗ねたような物言いに、沸き上がってくる感情を抑える。





言えば確実に機嫌を損ねる。

石田は硬そうに見えて脆い。

細い綺麗な指に、無数にある細かい傷。

弓を引く姿は堂々としているが、その内でどれだけの痛みを抱えているのだろう。

強い石田だからこそ、心の闇に飲まれそうになる事はそれ自体が弱さだと思っているのではないだろうか。

いつか壊れてしまうのではないか。

そんな心配は一番石田が嫌う事だと分かっている。

しかし、万が一を考えるとどうしようもなかった。

突然あっけなく身近な命が消える事を知っている。





「ずっと…俺の側にいてくれないか」

「嫌だね」

「は?」

まさか即答で断られるとは思っていなかった。

一応想いは通じ合っているはずなのだ。

がくりと肩を落とす黒崎の様子に、石田は笑いを噛み殺して続ける。

「僕は死神にこれ以上力を貸すつもりはないし」

不本意ながら何度か結果として死神を助ける行動を取ってきた。

しかし、石田は死神を憎んでいるのだ。

色々な死神に会って少しは印象が変わっても、それは今も変わっていない。

何度も口論になっている話題。

黒崎が口を開く前に言葉を続けた。

「もちろん虚の力になんてならない」

黒崎の霊圧が微かに人間のものから離れる。

時々、黒崎の霊圧が揺らぐのを石田は感じていた。





黒崎が闘っている事は分かっているつもりだ。

きっと、自分であって自分ではない強い存在に負けないように。

飲み込まれないように。

それは時々見ていて痛々しくて、だけどそれは黒崎自身の事で僕が口出しする事ではない。

ただ、辛いなら少しは何か吐き出して欲しい。

まぁ、黒崎の事だから辛いとも感じていないかもしれないけど。

圧倒的な力に潰されて自分が自分でなくなる怖さは知っている。





「黒崎」

「なんだよ」

気落ちした様子の黒崎の名を呼ぶと、想像した通りのテンションで返事が返ってきた。

「僕は死神を憎んでいる。そして虚は滅却の対象だ」

「わざわざ繰り返さなくても分かってる」

少し苛ついているような声音が言葉を紡ぐ。

何を言わんとしているのか分からない会話は大抵不毛なやり取りとしか受け取られない。

「でも、人間の君は嫌いじゃないよ」

石田は黒崎の言葉を半ば無視して会話を続ける。

「は?」

「だから。ぐるぐると色々考えている人間らしい黒崎の事は案外嫌いじゃないみたいだって言ってるんだ」

「石田…もう一回分かりやすく言ってくれ」

石田が言葉を紡ぐごとに少しずつ黒崎は顔を近付ける。

「黒崎、近い。っていうか気持ち悪い」

眉を潜めて言い放った石田に距離を離して胡座をかいた。

「おっ前さぁ…なんでそうなんだよ」

「どういう事だい?」

本気で聞いているのか黒崎が言わんとしている事を理解した上なのか測り難い表情で尋ねられ、黒崎は小さく溜め息をつく。

「もう良い」

「なら良いけど」

「俺は石田が好きだ」

机の上に置いてある数学の教科書とノートに視線を移して、ペンを取り上げた石田の腕を掴む。

怪訝そうに視線を上げられた目を見つめて告げた。

「僕も黒崎の事好きだよ」

臆面も恥ずかしげもなく返された言葉に、黒崎の方が頬を赤く染める。

「心臓に悪いから突然ストレートに言うのやめてくれよ」

「だって言って欲しかったんだろう?」

照れ隠しも含めての黒崎に、視線を再びノートに落として問題を解きながら答えた。

「あー、もう」

「言いたい事があるならはっきり言いなよ」
がしがしと頭を掻きながら唸るのを聞いて、石田は眼鏡をあげながら冷たい視線を送る。



「別に…ただ、なんかあったら頼ってくれよ」

自分が無力な所為で何かが崩れる姿はもう見たくない。



「君もね。人間の君になら手を貸してあげるよ」

自分が何も知らないうちに彼が傷付いているなんて嫌だ。



不敵に笑った石田が綺麗で黒崎はまた唇に触れるだけのキスをした。





僕の恋人は金平糖みたいだ。

とても甘くて色が鮮やかで、硬いようで脆い。

甘いのは好きじゃないけど、まぁ時々なら悪くないかな。










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題名は金平糖の語源です。

ポルトガル語らしいです。



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