今年の10月は思ったより寒かった。夏は吐くほど暑かったのに。ラニーニャ現象の影響である。天気予報の巨乳アナの受け売りなのでラニーニャがなんなのかは知らない。

部活の帰り道、ちらちらと横目で彼を伺うと街路樹の銀杏と同じ色をした髪が揺れるのがわかる。
秋丸は秋だ。名前は言わずもがな、雰囲気もどことなく秋っぽい。
よく言えば知的、悪く言えばガリ勉な印象を相手に与えるシックなフレームの眼鏡をあげる仕草に、読書の秋という言葉がふと頭を過ぎった。
はてさて、俺は奴が野球雑誌とエロ本以外でどんな本を読むのかを知らない。東野なのか伊坂なのか村上なのか。
首を傾げたと同時に腹の虫が音を立てた。どうやら俺は読書より食欲の秋の方がお似合いらしい。スポーツの秋という意味では二人とも当てはまるんだけどなあ。

そんなことを思ったままに隣の秋丸に告げると、彼は呆れたように笑いながら「じゃあ榛名は春だ」と言った。


「名前的に?」
「あーそれもそうだけど、主に頭ん中が」
「んだとお!?お前中間テストで俺より保健の点数悪かったじゃねぇかよっ」
「筋肉と生殖の範囲で榛名に勝ってもなぁ…」
「うっせ!」
「じゃあ榛名、春って英語で何て言う?」
「スプリングだろっばーか!」
「じゃあ秋は?」
「………」


容易く俺の頭の中が春だったということが証明され、悔しいが言い返せない。
絨毯のように広がる足元の落ち葉を思いっ切り蹴ると、手応えのないカサァという音が雲の高い空に吸い込まれていった。遠い、届かない。
ふと心細いような、手持ち無沙汰なような気がして、俺の少し先を歩く秋丸に手を伸ばす。


「待てっ!」


がしい、力強く秋丸の腕を掴む。
なんだよ、困ったように小さく笑う俺の好きな表情を一瞬浮かべて、止まった秋丸の足はこんもり積もった葉っぱに掬われた。


「ぉあ?」
「うわっ!」


盛大な音を立てて、柔らかな落ち葉に秋丸と俺の体はダイブした。不運にも下敷きになった秋丸は赤い紅葉に軽く埋もれている。


「榛名あ!」
「なあ、オマエ春好きか!?」


身を乗り出して秋丸に問い掛ける。ずれた眼鏡から覗くキョトンとした目が間抜けだったが生憎俺は真剣だ。


「は?」
「だからあ!春!好きかって聞いてんだよ」


食いかかるように声を上げると、秋丸は途端含むように笑い出す。


「落ち葉、ついてる」
「お?」


俺の頭の上から5、6枚くらい(予想外に多かった)の葉を払い落とすとキスされた。触れるだけの短いやつ。


「好きだよ」


普段うざったい程人前を気にする秋丸の手が俺をかき抱く。
その刹那、俺の体の中を好きという感情がかけ巡った。
ただただ驚いて癪なことに秋丸に翻弄されるる自分にすら嬉しいとか思ってしまう。


「〜っ、秋丸だいすきっ!」


強く抱き返す。痛いよ榛名、と声が聞こえた気がしたが俺は今すごくときめいてるから見逃してほしい。





(20101123)