大歓声をBGMにして、ただその一瞬は静寂に包まれた。視神経のみ研ぎ澄まされ聴覚は機能していない。これだけで十分だった。邪魔な音は一切いらない。
瞳の先には彼がいる。マウンド上でフェンス越しに彼は、以前のような鋭さはなく俺だけを見つめていた。野生の感とでも言うのだろうか、あの時もこんなにも遠くから俺を見つけてくれた。

皮肉なもんだ。
あの頃の俺はきっと、今この夢の舞台に元希さんと共に立てることを疑いもしなかったんだろう。一緒に野球をすることが何よりも生きがいだったあの頃。今はもう恨んでいる訳じゃない。だけど、いまだに正しいとも思わない。そこにあるものは、彼も俺も自分の野球をやりたかった。ただそれだけ。たとえそれがエゴだったとしても、中学生の俺達は一生懸命だった。

ふと、元希さんの唇が動いた。
スタンドからでは声など聞こえないはずなのに、頭の中で慣れ親しんだ音が再生された。

そとで、待ってろ

生憎、今日は団体行動ではない。仕方ないと笑ってみせると、彼も笑った。昔、焦がれてやまなかった無邪気な笑顔。心の中で暖かい気持ちが溶けて、じんわりと染み渡っていく。


帰る観客に混じって俺もスタンドを後にした。熱気から覚めたそとは思ったより涼しい風が吹いている。夕日が鮮やかに彩り、その中で俺だけが一人佇んでいた。
あの、初めて出会った日もこんな感じだったかな。元希さんとの出会いは幸か不幸か俺の野球にとてつもないほどの影響を与えた。自分の野球をやり通す元希さんの背中を見て、俺は別の高校へ行くことを決意したのだ。互いが互いの道を選択しなければ、今の自分達はいないのだ。


「…っ!隆也」

走ってきたのか、元希さんは肩で息をし、顎へ大量の汗が伝う。

「元希さん」

ふわりと何かが頭の上に被さったかと思うと、唇に何かが触れた。
目の前には元希さんの顔。
すぐに離れたそれは元希さんの唇。
こんな往来で…!とは思ったが、元希さんのアンダー姿を見てユニフォームを被せられたということがわかった。

「隆也、」

「っ、ちょ」

さすがに二度めはないと胸を突っぱね、距離をとったが赤い頬は隠せない。被せられた元希さんのユニフォームに隠れるとそれごと抱きしめられた。

「隆也、愛してるぜ」



不思議なことに
こうして元希さんとまた一緒にいれる幸せな今があるなら、今まで起きてきた嬉しかった、悲しかった、悔しかった、どの出来事も何も間違ってなどいなかった。むしろ、すべて愛おしく思えるのだ。

元希さんごと、愛してしまっているのだ。


―…今年の甲子園優勝は、武蔵野第一…









5000hitありがとうございました
少しの間だけ、フリーにしたいと思います
もしよろしければお持ち帰りください^^

22.10.02 丹暮










おまけ↓




たんぼさん宅から強奪!!!!!!!!!!
はあはあたまんね阿部かわいいそして榛名がテラ王子様・・・
見た瞬間に「もらっていい!?」といってしまいました・・・素敵・・・絵も本当にすてき・・・
5000hitおめでとうございました!!これからも応援してます!!!!
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