「俺はお前のこと好きだよ、泉」
「っせーな、俺にそのケはないって言ってんだろ」
「嘘だろ、じゃあこれ何」
「でも……ああ何で、畜生」
「何が」
「いや、違うし、だってお前が、」


俺の上で意味のわからないことを泉はぶつぶつ呟いている。
今の体勢をいうと、俺は泉に両手をがっしりと掴まれ押し倒されている。押し返そうにもマウンドポジションを取られたから足は動かないし、部活後で体はクタクタだからまさにまな板の鯉。
俺が今、泉を好きだと言ったら(流れでだけども)、拒絶の色を見せたくせに。そのケはないんじゃないのかよ。何だこの状況は。
好きな人が目の前にいて激しく波打つ俺の鼓動とは相反して、頭の中は不思議と冷静だった。


「そろそろどいてくんね?」
「あー、無理」
「なんで」
「……さあ」


とぼけるでもない、自分でもどうしてこうしてるのだろうという泉の顔に、だんだんとイライラしてきて「放せよ」と言ってみたが、全く聞いているふうではなかった。


「ひょっとして、俺さ」
「なに」
「お前のことが好きなのかもしれない」
「はあ?」


曖昧で、先程と矛盾してる泉の言葉に俺は素っ頓狂な声をあげた。
でも、違う、何でこんな奴、など本人を目の前にして泉はまたぶつぶつ唸る。失礼だろオラ。


「なー、阿部」
「なに」
「今から阿部にキスすっから」


そう言い終わる前には超至近距離に泉の顔があって、いやだと拒否を示す前に食らい付くようなキスが、一瞬、落とされた。
恋人同士のような息の触れる近さで見つめ合う。
俺とは全く違う、サラサラの黒髪が頬に当たってくすぐったい。


「やばい、阿部かわいいんだけど」
「そういう泉はかっこいいんですけど」


また口付けを落とされると掴まれていた手が解放され、代わりにきつくきつく抱きしめられる。


「好きだ、阿部」


常にクールなはずの泉の大きな瞳には熱い炎が宿っていて射止めるように俺を見つめる。
やっと気付いたのかよ?
挑発するように笑うと泉が首筋に優しく噛み付いた。





恋と変は似てて紛らわしい
(普通気づくだろ)




(20100906)