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悪魔のなみだ 1018

 あからさまな嫌悪を此方に向け訝しむ監視を伴って一歩そこへ踏み出せば、植物が焼けた臭いとそれが示す通りに焼け焦げた裏庭。

 少し前にそこが戦場と化していた証。昨夜やたらと主の名前が叫ばれていた、騒がしかった理由。


 ――全てを知って何故だか全身の力が抜けた。


 支える者もなくその場に膝から崩れ落ちる。後ろで監視が何か言っているが何も聞こえない。

 力なく掴んだ炭化した草が、あっさりと砕け散って粉々になって……全てを失ったかのような感覚に囚われる。

 それでも涙は流れない。

 ヒトならば泣くのだろうが、悪魔は涙を流さない。この身を持って主の言葉の意味を知る。

 昨夜何があったのかなんて聞くまでもない。主にとっては仕事というよりきっと退屈凌ぎ。


 私如きが主に不満を抱くなんてあってはならない、あってはならないというのに――私のせいで誰かが傷付く、誰かが困る。


 何故か私を捕まえた黒竜の顔が浮かぶ。


 彼は私を主の檻から出そうとした。必死なようだった。

 私なんかのために、どうして必死になれるのだろうか。ヒトの事も悪魔の事も、未熟な私には分からない。

 私は彼と何か約束をしたらしい。約束……ならばそれは契約だろうか?

 与えられる仕事しかできない私がヒトと契約なんてできる訳がない。証拠に彼の心臓には契約の証はなかった。

 契約ではない約束を悪魔が守る所以なんてない。それなのに守らなければいけない気がして――傘を振り下ろした、初めて主に反抗した瞬間。



「……私、が…………ここにいて良い訳がない」



 今の私には力なく呟く以外に何一つ、できる事もない。






悪魔のなみだ(悪魔は涙を流さない/メフィストの言葉)







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お題提供:ミラクルワールド
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