世間で言う小学生の夏休み・・・・
私は夏休みという時間なんてなかった。
いわば、都会へのお引越しがあったからであった。
まだ・・・あたしがデジタルワールドに行く前のお話。





Story Without Title
7月31日の出来事・・・その1




「みつきちゃん!本当に大丈夫かい?」
図太い男の声が一人の少女の目の前に聞こえた。
「大丈夫、それに一人暮らしって言ってもお母さん・お父さんと離れるのはちょっぴりだし。」
「・・・でもな。」
「大丈夫!大丈夫!」
髪の毛がセミロングで笑顔が似合う少女はその男の人を笑顔でそう伝える。
大丈夫!というのは彼女の口癖なのだろう。
「・・・親方〜!とりあえず大荷物の配置はしましたぜ!」
「わかった!お前達は下に戻ってろ!」
「へ〜い!」




頭にタオルを巻きつけて半袖姿のがたいがいい男がみつきという少女の目の前にいる
男にそう話し掛けるとその目の前にいる男性は「わかった!」と声をだした。
「・・・とりあえず、なにかあったらここに電話するんだぜ?」
「ありがとうおじさん。」
おじさんと呼ばれた男性から貰った小さいメモはみつきの手の中に入り微笑んだ。
その30代後半のおじさんを玄関まで見送ると、ぎぃぃっと鈍い扉の音がして、しまった。



閉まった扉に鍵をかけてみつきはルンルンっと足がスキップしつつも
玄関から台所、そして寛げる居間に足を運んだ。
でかい窓からベランダへ、そのベランダからは観覧車が見えていた。
ベランダに出るとみつきの頬に風が通り抜ける、夏独特の生ぬるい風だがみつきにはその風が
とても懐かしく思えてきたのだった。
「・・・懐かしいなー・・・」
観覧車を見るみつきの顔がとても切なくなってきた・・・胸がきゅんっとする。
その痛みは小学生5年生のみつきはわかっていたのだった。
「・・・・・さて!さっさと自分の部屋と家具のビニール取らなくちゃ!」
まだまだ仕事は沢山ある!みつきの胸の痛みを消そうとしているのか、本人はわからなかった。







朝の10時。
とりあえず居間のソファーのビニールを破き、そして台所の食器棚にダンボールで
「割れ物注意(食器)」とかれているのを開け新聞紙で大切に包まれている食器を
食器棚にしまいこむ。

1・・・2・・・3、枚数を数えながら。
「・・・よし、」
コップの棚も綺麗にそろえてあった。
特に色違いのマグカップは前の列に並べられていた・・・赤・青・白と。
赤のマグカップは父は赤・白は母・そして青はみつきのである。
マグカップは結構使われているのか
所々キズがついている・・・。
みつきの家族は両親だけである。
母も父もアメリカで今一生懸命に仕事に打ち込んでいる。
・・・しかし、みつきは「仕事だからしょうがない」という考えは持っているようで
あんまり考えないようにした。

次に自分の部屋を整理してみた。
中々広く真新しいブルーの・・・いや、
「なんで、ピンクのカーテン?」
そういえばさっきのおじさんがブルーのカーテンをひそひそと持っていたような・・・
入れ替えられた・・・。みつきは苦笑しつつもカーテンを替えずに
次に真新しい勉強机に手をのばした。
そして自分のベッドの前の壁にはコルクボードをつけた。
60センチ×60センチと中々のでかさでそこには沢山の写真を貼り付ける予定なのか
まだ貼っているものは何一つなかった・・・と思ったら。
「・・・ぁ、忘れてた。」
自分の机にあるダンボールを開けがさがさと中を物色するとみつきの手に一枚の写真を貼り付けた。
「・・・元気にしてるかな。」

言葉を呟くがその言葉はみつきの部屋の空気に溶けてしまった。






時間は結構経ってしまった。
もう時間は2時間も経過していてやっと大分片付いてきたようだ。
「・・・ほっとしたー、後は電話のケーブルをっと・・・」
居間に1体の機体を置いた。
それは電話であり電源をつけて時間設定と何年何月何日と
記入をしなくちゃいけなかった。
「えっと・・・1999年の・・・7月31日・・・っと。」

時間は・・・と記入していくうちにピピピッと「設定完了」という音声が流れた。
そのとき、ふとみつきは誰かに電話をしたくなったのだ。
そう、自分の幼馴染に・・・だ。
電話番号は変わってないだろうか、
みつきは胸を高鳴らせながらも受話器を取り数字を打っていく。






「はい、石田ですが・・・」
「ヤマト!久々っ!」
電話をしたのは石田ヤマトという少年だった。
そっけない声は本当に昔から変わっていなかったのかみつきの胸が高鳴りを見せていた。
その元気な声はヤマトには最初は驚きを隠せなかったのだろうか
「お前!みつきか!?」
「うん!」
ヤマトから聞くみつきという言葉は本当に懐かしかった、電話越しでもそれとなく声の
変化がついているのは明白だったからだ。
時間が流れているのだと、改めて思い知ったのだった。
「久々だな。元気にしていたか?」
「うん、そうそう!あたしお台場に引っ越してきたんだ。」
「!なんで教えてくれなかったんだ、そしたら引越しの手伝いくらいしてやるのに。」
「そんな!オーバーだなー。」




ヤマトは本当に昔から世話になっているみつきにとっては
やはり幼馴染で同級生のヤマトでも兄貴分なのだろう。
しかし、自分だって何も出来ないって訳じゃないのよ!ヤマトと対等なのよ!と
いうのをヤマトに報告したかったのかもしれない。
「そうか・・・じゃぁ夏休みにタケルとみつきの家にでもお邪魔するよ。」
「うん、タケルくんも元気にしてる?」
「あぁ・・・元気だ。」
両親が離婚した、みつきもそのことは知っていた。
幼い頃だったが幼馴染の両親が離婚というのはイヤにでも思い出すのである。


「じゃぁ夏休みいつ時間が空くかわからないからまた折り返し電話するな。」
「うん!じゃあね!」
電話の通話時間は5分くらいだっただろうか。きっと会ったら夜通しヤマトと一緒に話すとなると
今からでもみつきはわくわくが止められない。
ヤマトとはよき友達でありよき相談相手の幼馴染、みつきはるんるんっとなっていたが
肝心な事を忘れていた。







今日は日差しが暑いからと青色のスポーツ帽子を被り髪の毛を人束に結び短パンをはいた。
みつきにしてみれば家の服装くらいであるが(本当は時間があればお洒落がしたいお年頃)
急いで行かなければならない目的を見つけてしまったのだ。
「お財布ももってと・・・」
あいさつ回り。といってもこの階だけでも粗品でもいいからとみつきは頭を働かせた。

みつきからすれば母がいつもやる事をタダ単にマネをするだけなのだが・・・。
と思ったが母はきちんとしているのかちゃんと買ってあると言い出して
「とりあえずみつきの昼食を買いなさい!」
というのでみつきは予定を変更してこの辺地帯を散歩と昼食を食べに行こうと決めたのだ。
「お台場って広いもんなー。」
みつきの言葉には小学生の無邪気なココロが踊りだしていた。






鍵を閉め、みつきは階段を降り外へと出た。
蝉の声が聞こえ同時に小さい子供達の遊び声が聞こえてくる。
同時に部屋の外と違う外の温度はとてつもなく差があった。
「さてっと、昼食だったら・・・ぁ。」
てんてんてん・・・みつきが歩こうとした時にふと足元に何かがきた。
それは丸いボール、サッカーボールであった。
その持ち主なのか5・6歳の少年がこっちに向かって走り出してくる、全速力で。
「ごめんなさい!?」
その少年は驚いた。
みつきがボールを手から離したと思ったらそのままリフティングしてみせた。
それが面白いくらいに続くのでみつきが終わっている時には少年は感動したのか目をキラキラと
輝かせていた。
「はい。」


その少年の輝いた瞳が消えることなく遠くで待っている友達の元へといった。
ボールをちゃんと受け取った少年を見ているとみつきはまた歩く。
「(とりあえずコンビニでご飯でも買おう。)」
近くのコンビニに入ろうとした時だった、みつきの目の前にまたもやサッカーボールが
落ちていた。コンビニに置き忘れたのだろうか、
それとも今このコンビニの中で買い物をしているのか。
というか、今日はなんでこんなにサッカーボールを見る回数が多いのかちょっぴり不思議に思えた。

じっとそのサッカーボールをみるとそのサッカーボールには小さくだが「お台場小学校:サッカークラブ」
とマジックペンでかかれていたのだ。
「(あたしが通う学校だ。)」
しかもサッカーという単語だけでもみつきの顔がほころぶ。




数十分してもコンビニの前のサッカーボールをとりに来る人なんかいなかった。
まさか、忘れたのかもしれない・・・
「・・・確か、お台場小学校って近くだったはず・・・」
とんっと足を使いみつきはお台場小学校へと足を向けた。








「あれ・・・なくなってる!!!」
その数分後、コンビニ前に頭にゴーグルをかけている少年は
走りながら自分が置いておいたサッカーボールを取りにきたのだが
肝心のサッカーボールがないのに気が付いた。
「・・・やっべーな。」
がりがりと髪の毛を掻きながらその少年は急いで走っていた。
スポーツバックを肩に乗せて・・・・。

ぽつりと「空とかにまた言われそうだな。」と呟いた。




それから、彼女の7月31日が始まろうとしていたのだった。
ちょっぴり長い、みつきのお台場の一日。







Suzuno Asaka
Dream Novel 2006,1130


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