アクアリウムを見上げる人間を思い出せるのは3人しかしらない。
一人はターコイズの短髪の長身の男。
その男と同じ顔をしているターコイズの笑顔が
なにか企んでいるかの顔をしている。
もう一人は銀髪の青い瞳をもったメガネの男だ。
3人以外と一緒にすんでいるテラリウムの真っ赤な金魚以外の記憶は
みつきは残っていなかった。

尾ヒレで軽く運動がてらヒュイヒュイと泳いでみせる。
記憶をなくしてから数ヶ月たっているらしいが泳ぎだけは完璧だった。
その泳ぎの完璧具合を見せるのは
その金魚ぐらいでいつもの3人は知らない。
自分がここの住人だとしてもみつきはどうしても諦めができなかった。
頭の奥底ではモヤモヤが上手く晴れず深い霧に覆われている感覚。

何十往復かするとみつきは近くの石に
腰を下ろした。腰を下ろすとやっと終わったのかと金魚も近くに
パタパタと泳いできてくれて
胸ビレにみつきはからだをよせた。
「ねえやっぱり私は外の世界にいってみたいな・・・」
「またそんな分からないことを。
ここにいた方が安全だよ?」
「・・・」
ここにいれば安全。
確かに金魚のいうとおり、エサをやりにくる3人さえいれば永遠に
ここでゆっくりと暮らしていけるだろうが。
考え方を聞いてみつきはそうか、と頭に思った言葉を紡いだ。

「あなたはおばあちゃんなの?」
「まだ若いわよ!」
失礼しちゃうわ!と胸ビレをぺちっとみつきから離すとクスクスとみつきはわらった。
「冗談よ。でも私はこの水槽からでてみたいの」
「冗談!?水槽からでたら死んじゃうわよ?」
「みて分からない?」
にやにやと企んでいるみつきの顔は水槽の先を指さした。
指さした場所は部屋の外が見える窓であり
窓の先は自分たちと同じ感じの大きな水槽がみえる。

それをみた金魚はさあっと青い顔になっていく…。
「だめよ。あなたはよくても私は望んでいないんだもの」
大きな敵がいるのよ?食べられちゃうかもしれないわ!」

「一緒に住むことだってできるかもしれないわ?」
みつきがどんな言葉を紡いだところで金魚はNOしかいわない。

否定しかしてくれないなんて、と思うがそれ以上に奥にみえる
違う世界に思いはトんでいってしまっている。

「みつきわかってる?あなたは私と同じ金魚じゃないの」
え?とみつきは?マークを出しながら金魚の言葉を聞いて目が点になる。
確かに赤い金魚よりも尾ヒレはでかいし声も違う、腕もあるが私は金魚じゃないの?
純粋な疑問に彼女は答えた。
「あなたは人魚。金魚とは違うの」
金魚は投げやりにいうなりみつきの顔を見ずにゆっくりと後ろを向いて泳いでいった。
その金魚の言葉に何も言葉を残せないまま金魚の後ろを見るしかなかった。






「ターコイズの君。」
「?どうしました?」
「私は金魚ですよね?」
「・・・いったいどうしたんですか?」
いつもの食事の時間にきっちりとやってきた彼に直接問いただした。
そのみつきの口調ははっきりとしているが、ターコイズの君は笑っていたが
少し真顔になった…しかしみつきの答えてはくれない。


「金魚がいったの。私は人魚だって・・・」
だから貴方と話せるんですか?
恥ずかしくて語尾が小さくなったが下を向いた。
そのとき小さいみつきの顎を人差し指一本でで
くいっと顔を上げられた。
その顔は優しい顔だがオッドアイの瞳がきらりと光った。
「ショック・ザ・ハート」
その言葉をつぶやいた瞬間みつきは喉に違和感を感じた。
その違和感についてみつきは何が起きたのかすらも本人はわからず
ただ困惑の瞳が彼を移している。

「もう一度聞きますね。――――あなたはこれからどうしたいんですか?」


ワタシは、外の世界にいってみたい。
知らないセカイにいってみたいの。


思っていた言葉はみつきの口という檻をすり抜けて言葉としてつむがれた。
自分で制止しようとしても言うことを聞いてくれない。
蛇口が壊れ、水が勢いよく流れ出すように・・・・
その言葉を聞いて目を細めそうですね・・・とターコイズの君は言うだけ。

「ではあなたが言ったあのセカイをみてみますか?」
「いいんですか!?」
てっきり怒られていってはいけない、否定的な言葉がくるのだと思った。
しゅんとしたみつきは上を向いて彼をみる。
うれしい、うれしい。
その気持ちが尾ヒレにまで感情が高鳴ったかジャムの瓶に入ていった
水がびちゃびちゃとはねてしまい彼の顔に水が飛んでしまったようだ。

「ああ、ごめんなさい」
「いいえ。ならいつも顔を見に来る方々にも聞きますね」
ちょっと待ってくださいね。


そういってみつきが入っているジャムの瓶を一度テーブルに彼はおいた。
先ほどの尾ヒレのせいで少し水がなくなったのを気にして
アクアリウムの中の水をビンに入れる。

扉はぱたりと閉められ一瞬に静寂に包まれた。
うれしい気持ちが勝っており彼女はターコイズの君が
いつでもくるように目をキラキラとさせて扉に視線をはずさないでいた。







扉がしまってから数十分。
静寂が終わりを告げた。
ばんっと勢いよくあいたと思えば
ターコイズの君ににているもう一人のターコイズの君、そして銀髪のおとこだった。
「久しぶりですねみつきさん」
テーブルにちょこんとおかれていたみつきだったがそのジャム瓶を
銀髪の男は手に取り目線をあわせた。
「僕の名前をご存じで?」
「・・・ごめんなさい、覚えるのは苦手で」
「わかりました。僕はアズール・アーシェングロットといいます」
「オレはね、フロイドだよ小エビちゃん」
後ろからひょっこりと現れた男はターコイズの君と全く一緒の顔立ち。
目を細めながらヒラヒラとゆったりとした動きをしていた。
…フロイド、その言葉をつぶやいたときさあ、と瓶を持っている銀髪の男が片方手にもっている
小瓶をみつきに見せた。
小瓶は透明で中身はキラキラと金粉がまっていてみつきは目を一層キラキラとさせた。
そのみつきの様子をみてアズールはつぶやいた。

「僕たちがあなたの願いをかなえます」


僕たちと≪契約≫をいたしましょう。
彼の言葉はみつきにとっては甘い甘い、誘惑でありその笑みが深く、なにかを
企んでいるなんて気づくはずがなかったのである。


2020.0522


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