書崎



『書崎ー』

「なんだい杏里」

『シーフ・アイってやってよ』

「………は?」

『いいから!』

いま会話をしているのは恋人の杏里だ。こうやって彼女の方からよく話しかけてくれるのだが…

「え、いきなりどうしたんだい」

『いいから!ほら、シーフ・アイ!』

こんな要求をされたのは初めての事なので正直反応に困るし、そして何より戸惑ってしまうのは当たり前だ。

『…試合の時はやってるでしょ?』

「まあそうだけれども…」

『じゃあいいでしょ?ポーズだけ!』

お願い!と両手を勢いよく合わせて頭を下げる彼女。前述はしていなかったが一応ここは教室で周りに人がたくさんいるからさすがに躊躇した。だけれども自分の大切な彼女からの頼みだと思えば…!
右手の人差し指と親指で円をつくりそれを目元にあてて一言。


「…し、シーフ・アイ」

パシャ

「え!?」

『書崎かわいいよ!ありがとう!』


まるで壊れたかのように奇声に近い声をあげながら、るんたるんたと楽しそうに教室を出ていく杏里の後ろ姿を自分はただただ呆然と見ていることしかできなかった


*

「杏里に可愛いと言われ写真まで撮られた。どうしよう冴渡、もしかしたら立ち直れないかもしれない」

「そんなにそれが嫌だったのならさっさと別れて勉強でもしたらいいじゃないか」

「…生憎だけれどもその選択肢は頭にないよ」



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冴渡は勉強が恋人。

これは最終的に何がしたかったんだろう



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