あいつ
「おい、起きろ」
『んー…?』
授業が終わり、チャイムもあれだけ高らかに鳴ったというのにまだ寝ぼけているこいつの頭を、自分のクラスから持ってきたノートで軽く叩く。あ、今なかなかいい音した。
『ったいなぁ…私は今ものすごく眠いの。てことでおやすみ』
「いや寝るなよ」
ノートを丸めて先程と同じようにパコンと叩くと、今度こそ杏里は頭をあげてこれでもかというほどめんどくさそうな表情でこちらを見た。
『…乙女に暴力を振るってまで済ませなきゃならない用事って?』
「暴力ってお前なあ……宿題やってないからノート貸してくれって今朝頼み込んできたのは、どこのどいつだ?」
『宿題…………、あぁ』
忘れてた、と言いながら俺の方に手を伸ばす杏里。呆れながらもノートを渡す俺に向かって「ありがとう」と無邪気な笑みをつくって見せる杏里を見て怒る気もなくなってしまう自分は、ただこいつに甘いだけなのか、それとも。
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