ざぁざぁと夏の夜を冷たい雨が降りしきる。 厚い雨雲から落ちる雫を、三成は縁側で見つめていた。 静寂の中に、雫が地に叩きつけられ散る音。 まるで戦場で死に行く兵のようだと密かに思えば打ち消す。 雨は嫌いではなかった。 戦の時ならば奇襲が楽になる。 返り血は雨に流され気になることも少なくなる。 何より冷たい雫は、三成の心によく合った。 眠気をさそう心地よさと静寂。 そろそろ就寝だと言う頃、足音を聞いた。 三成は短刀を取り出し、警戒する。 月の光が少ないため、足音の主に気がつくには時間がかかった。 「まだ寝てなかったのか?」 眠たそうな顔で、三成の前に現れたのは家康だった。 三成は短刀を懐中にしまい、何の用だ。と横に腰を下ろした家康に問う。 彼は笑って、何となくだ。と答えた。 舌打ちをひとつし、家康が話し出すのを待つ。 こちらから話すことはない。 「ワシは雨はすごいと思う」 三成は沈黙する。 「大地を潤し、人々に自然の恵みを与えるのだ」 「ふん、下らんな。」 下らないことはない。家康は苦笑する。 目を細め、真っ黒な雨雲を見つめ家康は続けた。 「ワシは雨のように、日のように…民にとって必要不可欠な存在になりたいのだ」 「貴様、どういうことだ。秀吉様こそが民の求めるお方だ。それを否定するならば貴様を許さない…ッ」 落ち着け、三成。 家康に言われ、ふつふつと沸き上がる怒りを抑えるために布団に潜り込む。 これ以上家康の話を聞いていたら秀吉と半兵衛に迷惑をかけることになりそうだった。 「三成、もしその時が来たらワシの話を冷静に聞いてくれ」 「何のことだ」 …何でもない。家康は黙り込み、少しだけ光の見える月を見上げた。 雲に覆われて見えないが、ぼんやりと弱い光が目に届く。 「実はここに来たのは三成の寝顔を見に来たのだ」 「頭がとうとうイカれたか家康」 それは酷いなぁ。と三成の耳にはしっかりと聞こえていたが無視をした。 「私は寝る。貴様もさっさと寝ろ。煩わしい」 「もう少し、ここに居させてくれ。眠くないんだ」 三成は少し黙ったが、息を吐いて、好きにしろ。と呟いた。 小さく、すまんな。と聞こえたが、聞かなかったことにした。 寝ると言ったのは単に会話をしたくなかったからだった。 再び静寂に戻ったというのに、先ほどとは雰囲気が変わった。 家康が居るからだろう。 彼は静かに、月を見上げていた。 自分とは違う考えを持つ男は、今何を考えているのだろう。 雨の音を聞きながら、随分と時間が過ぎた。 三成も本格的に眠くなり、眠りに落ちそうになった頃。 微動だにしなかった家康が立ち上がった。 三成もそれには気がついたが、徐々に徐々に意識が薄れていく。 家康が近づいたのも分かった。 意識は遠退いていく。 枕元に座られ、髪を撫でられた。 大きな暖かい手だと、薄れゆく意識の中しっかりと思った。 安心したような、そんな気分になってしまう。 家康が嫌いだ。それなのに。 「一番大切なお前を…裏切ることを、許してくれ三成…」 三成はその言葉を聞く前に、眠りに落ちた。 家康の顔は、つらく悲しく泣きそうな顔だった。 その瞳は、未来を見ていた。 *** 何故だ。と三成は泥雨降りしきる中、声をあげながら泣いていた。 胸が、身体が、心が引きちぎられるほど痛む。 まるで自分の涙が降っているみたいだと、溢れる涙を散らせながら三成は憎しみと憎悪だけが残った心で思う。 雨が好きだった。 静寂が好きだった。 雨の度に来た家康が…。 雨が嫌いになった。 静かになったら家康の声が聞こえそうだから。 嫌いになった。何もかもが。 憎い憎い憎い憎い憎い!!! すべてを奪ったヤツが憎い!!! 私に与えた感情を踏みにじったヤツが、家康が憎い!!! 涙がまだ溢れ続けた。 主君の死に流した涙は冷たかった。 今、頬を伝う涙は温かい雫だった。 家康がそばにいた雨の日と、何故か、この涙が重なる。 楽しかったのに、涙がすべて冷たい泥雨がすべて、そんな感情を流しきってしまった。 タノシカッタノニ、という思い出は三成の心から消え去り、なくなった。 残ったのは、殺意と憎しみと憎悪。 殺してやる。何がなんでも。 過去に、気がつかないうちに想いを抱いていたとしても。 雨 どうして家康が浮かぶ度、悲しくなる…? もっとも憎い男だというのに…ッ ------------ 三成エンドでも家康エンドでも この文章はいけるかな… 駄文で申し訳ありませんが…。 ハッピーエンドはどこにあるんでしょうか(´・ω・`) 最後までありがとうございました。 お目汚し失礼致しました。 |