彼らにとっては毎日が平和だった。 それが当たり前で、これから先のことなんて知識としてだけで知っているだけで本当にどんな大変なことが起きるのかなんて知らない。 それでいいと2人とも思っていた。 静かな城の庭で縁側に座り彼を見物しながら和菓子を口に運ぶ少年と、自分より遥かに背の高い槍を振り回し訓練をする少年が城にはあった。 2人は槍を振り回す少年に言わせれば親友で、和菓子を口に運ぶ少年に言わせれば友人である。 「…竹千代。そろそろ休憩したらどうだ。」 若葉の瞳を少年に向け、声をかけてみる。 もうかれこれ数時間も休憩をとっていないのだ。 倒れられたら面倒なので、佐吉はそう声をかけた。 しかし彼には聞こえて居ないようで、佐吉は手元にあった刀を持ち縁側から庭へ降りる。 ふぅ…、と息を吐き佐吉は竹千代の槍に思いっきり刀を振り下ろした。 キィン!と金属音が響き、竹千代の手から槍が飛び地へ落ちる。 驚いたような顔をしている彼を無視して刀を鞘にしまい、もう一度、休憩したらどうだ。と声をかけた。 今度こそは聞き取れたようで、佐吉も再び抜刀せずに済んだ。 *** 再び縁側に腰を下ろした佐吉の隣に竹千代が腰を下ろす。 佐吉は少し嫌そうな顔をしていたが、休憩をしろといったのは自分自身であったためすぐに諦めた。 茶と和菓子を口に運び、竹千代は息をつく。 「すまんな、佐吉。まったく聞こえてなかった」 この暑い中、長時間休憩なしでは日にやられてしまい元から沸いている頭が沸いてしまう。 不意にそう口にしたかったが、やめておいた。この男と話すことすら面倒であった。 さっさと時が流れ、彼が早く訓練に戻らないかと縁側に脚をばたつかせながらそう考える。 しばらくすると、竹千代が勝手に話をしだし佐吉は答えはしないが耳を傾けた。 どうして長時間訓練するのか、だとか、両親のことだとか、今日見た夢だとか。 佐吉にとってはすべてどうでもいいことなのだが、横の楽しそうに話す竹千代を見ていると聞かないといけない気がしてしまうのだ。 どうせ暇である。耳に入れとくだけ入れておくことにした。 そのうち和菓子も茶もなくなり、飽きることなく佐吉に話し進める竹千代が不意に黙った。 何かと、佐吉は目線を竹千代に送り彼の横顔を見やる。 「ワシがこうやって訓練するもう1つの理由は、この乱世をはやく終わらせたいというところもある」 高かった声が、落ち込んだかのように低くなり彼の目は傾き始める太陽を見つめていた。 目を細め、その先の未来を見ようとでもしてるかのようにじっと、見つめたままだ。 「…天下をとるのは貴様ではない、秀吉様と半兵衛様だ」 「わかっておる。忠勝が居ないと何もできない、簡単に誘拐されてしまうワシがこの世を治めることなんかできるはずがない。少なくとも、今のままでは…」 今のままでは…?佐吉が目つきを変えて竹千代をにらみつけた。 三成は異様なほどに秀吉と半兵衛に執着している。 その2人を裏切る行為は正しく三成にとって最も許せないものであった。 「佐吉、いつか…ワシと一緒に天下をとろう。」 「貴様、何度言わせる気だ…ッ」 天下を統べるのは、と佐吉は繰り返し口に出そうとする。 しかしそれは許されなかった。竹千代が言葉を遮った。 「人は、どんなに足掻いても死からは逃れられない」 佐吉の目が大きく見開かれた。 こいつは何を、言っている?佐吉の思考が、感情がすべて、一時停止する。 目の前の人間は、あの弱い竹千代か?この声は誰のものだ? 佐吉は横の竹千代を信じられないような顔で、見つめた。 「ああ、勘違いするな佐吉!でもそうだろう?いずれはワシらが秀吉公の跡を継ぐのだ」 「……………。」 少年は黙った。神のような存在が消えてしまうなんて、想像もできなかった。 きっとそのときは自分も死ぬんだろうと、密かに思う。 でもしかし、この横に居る竹千代が許さないかもしれない。 「…私がそれまでに死んで居なければな」 「死なせはしないさ!ワシと忠勝が居る!それに秀吉公と竹中殿もそれを許しはせんだろう」 即答だ。やっぱり竹千代は佐吉を死なせることは許さないだろう。 それに佐吉にとって神である存在の主君達もそれを必ず許さない。 「なら、そのときまでは…貴様は私を護れ」 それから…秀吉様のために一緒に天下を統べてやる。 少年は小さく呟き、刀を持って立ち上がった。 そしてひとり、暑い日が射す庭に出る。 ポカンと、間抜けな顔をした竹千代に佐吉は早く出て来い。と声をかけた。 「私も付き合ってやる。」 「あ…ああ!必ず佐吉を護ろう!!」 いつか遠い日の約束 ずっと、ずっとキミを護ると心に誓ったのに。 --------------- 元拍手小説でした。 たくさんの拍手ありがとうございました! |