桜、春風薫る別れと出会いの季節。
今日というよき日に、先生。
先生、僕は今日この私立聖帝学園を卒業します。
僕は先生を校舎裏に呼び出した。
先生の顔は先ほどA4との別れを惜しむ涙で少し濡れていて、頬が赤かった。
今日は僕にとって特別な日だ。
卒業式の日ということよりもっと大切な意味合いを持つ大切な日だ。
唐突に言おう。
僕は今までの僕と決別する。生徒という壁を越える。
「先生、好きだ」
僕の頭の中にはひねくれた告白の言葉が渦巻いていたが、いざとなるとありきたりな言葉しか吐き出せなかった。これが僕の素直な気持ちなのだろう。
「改まってどうしたの?」
さらに顔を赤くする先生。先生は恥ずかしさからか目をそらす。
だけど僕はそらさない。
そこで深呼吸をした。落ち着け。僕の心臓がいまだかつてこんなに脈打ったことがあっただろうか。
勇気だ、勇気を振り絞るんだ。
そして僕は重い口を開いた。
「今日から、」
言うんだ。
「今日から、名前で呼ばせてほしい」
恥ずかしそうに小さな声で先生は言った。
「当たり前じゃない」と。
「ありがとう…」
僕は初めて先生を名前で呼んだ今日という日を、この一言を生涯忘れることはないだろう。
「愛している、真奈美」
(来年も再来年も、ずっとその先も)
この季節が巡る限り忘れないことがある
fin