「夜久?」
「あ、星月先生」
「何してるんだ?こんなとこで」
職員室の前で立ち止まっている夜久に向かって、こう聞いた。
「直獅か?」
頬を赤らめてコクリと頷くお前を見て、俺はなんとなくモヤモヤした。
「中に入らないのか?」
「いいんです、ここで」
それは作り笑いだということは俺にも分かった。夜久はいつもの笑顔と違い、苦しそうに笑っていたから。
「言っておくが、」
「はい?」
「直獅は、言わないと気付かないぞ?」
「えっ?」
「あいつは特別鈍いからな」
おそらく今の俺は悲しみの表情を浮かべているだろう。だから俺は目を合わせないように、この感情に気付かれないように夜久から顔を背けた。
「ま、頑張れよ」
そのまま頭をぽんぽんとたたいてやるのが精一杯だった。
顔は見えない。でもその時、夜久は確かに笑っていた。いつもみたいに笑っているのが分かった。
その笑顔が見たかった。でも振り向いたら俺は泣いてしまうかもしれないから、出来なかった。
その笑顔はあいつのために向けてやれ。
俺じゃなくてな。
「ほら、早く行ってこいよ」
また夜久の前で大人を演じてしまったと自己嫌悪をしている自分。
好きな人の幸せを願わなきゃいけない。それはとても残酷なことだと思う。本気なら本気な分だけ。
今は夜久の足枷にならないようにするだけだ。
(心が泣いている気がした)
fin