「シュウ、シュウはレジェンズやんねーの?」
 放課後、面倒な学業の時間が終わり、さぁ秘密基地へ行くぞと意気込んだシュウを呼びとめたのはクラスメートだった。今日は、メグもマックも用事があるらしくシュウ一人だったため声をかけやすかったのだろう。普段、それほど話す相手でもなかったため何をいきなりとは思ったものの仲が悪い相手でもなし、やらないとだけ返した。
 レジェンズ……DWCから発売されたホログラムによるおもちゃ。”タリスポット”に”ソウルドール”を装着することでレジェンズと呼ばれる生き物を召喚し戦うという遊び。レジェンズウォーと称されたその遊びを、シュウは遊びだとわかっていながらどうしても受け入れることができなかった。
「でもさー、シュウがいつも持ち歩いてるそれ、タリスポットだろ?」
 真っ白でかっこいいよなーと続けられたことに、シュウは曖昧な笑顔しか返せない。
「父さんがくれたんだ。俺の父さんDWCで働いてるから。……でもこれ壊れてんだよ」
 だから使えねーのと言うシュウにクラスメートは不思議な顔をする。
「でもそれ、壊れてる割にすっげー大事にしてんじゃん」
 事実、壊れていると言いながらタリスポットを取り出すシュウの表情は、平常のへらっとしたものではなく、何か大切なものをぐっと飲み込んだような辛いことを思い出すような大人のようなものだった。
「……父さんが、くれたものだから……さ」
 それは、半分本当で半分嘘であることを、クラスメートは知らない。


 自分以外誰もいない秘密基地の屋上でぼうとタリスポットを見つめる。父さんがくれたものだから、ソウルドールを装着してもホログラムが発生しないそれを大切にしているというのは嘘ではない。嘘ではないが、別に何かこれをなくしてはいけない、手放してはいけない理由があったような気がするのだ。
 それは、大きかったような気がする。(そしてちょっと怖かった)
 それは、気楽だったような気がする。(そして自由だった)
 それは、真っ白だったような気がする。(そして真っ青だった)
 それは、風に似ていた気がする。(そして風そのものだった)
 そして、大切だった気がする。(そして大切にされていた)
 びゅう、と風が吹く。ブルックリンブリッジに近いこの廃ビルにはいつも良い風が吹く。その風がシュウは好きだった。そしてその風を気に入ってた存在がもう一つ在った気がするのだ。メグだっけ、マックだっけ、ディーノだっけ。全部違う気がした。
 風に吹かれるたびに、ざわりと騒ぐこの感情は何なのか。
 その感情に名づけるべき名前と、タリスポットを大切にしなければならない理由は似ている。似ているが、シュウはそれを知らない。わからないのではなく、知らなかった。ただ、真っ白なタリスポットと真っ青な青空のコントラストは、その知らない何かに似ていた。

モドル

第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -