ふとした瞬間に、帝人君のことを思い浮かべることが最近よくあった。それは、夜寝る直前だったり、町を歩いているときだったり、コーヒーを一口含んだときだったり。日常の、ほんの少し緊張がほぐれた瞬間、あの子のことをふと思い浮かべるのだ。
 そしてぼんやりと可哀想だなぁと思う。
 ダラーズなんて組織を作って、俺なんかに目をつけられて、ついでにおせっかい焼いたせいで矢霧波江なんて人間にも目をつけられて、さらに黒沼青葉なんて人間にも目をつけられて、幼馴染は失踪し、恋した少女は異形の刀に憑りつかれてるときた。底知れぬ何かを持ってはいるが、基本的に友達思いの、礼儀正しい、普通の子だ。もっともっと、生きやすい生き方があったろうに。もっともっと幸せになれるような恋があったろうに、可哀想な子だと思うのだ。
 そして、何の他意もなく抱きしめてあげたくなる。慈しんで愛しんで、頼むから幸せになっておくれと頼み込みたくなる。この俺がだ。頼むから幸せになっておくれと頼む傍で、あの子を不幸のどん底に陥れるような俺がだ。おかしな話だと自分でも思う。
 ダラーズをめちゃくちゃにしてやって、できるなら俺が利用しやすいようにしてやって、あの子を絶望の底に叩き込んで、あの子がどうなるか見てみたいと思う傍らで、俺はあの子に幸せになってほしい。
 異形の少女のことなど忘れて、池袋の都市伝説のことも忘れて、あの忌々しい化け物の存在も忘れて、俺のことも忘れて、忘れて、忘れて、ダラーズも手放して、何処か閑静な住宅街の一角で、ふんわり優しげな奥さんと幸せで平凡な家庭を築いてほしい。そしたら俺は、君のその幸せには一切関与しないから、頼むから、君よ、平凡な幸せを求めておくれ。
 君が今の君である限り、そして俺がどこまでも折原臨也である限り、君が幸せになどならないのだろうから。早くダラーズを見限って、実家に帰ってひっそりと高校を卒業してどこか都心ではない大学のキャンパスで平凡だけれども充実した生活を送っておくれ。
 日常の、ふとした瞬間に、君を思う。
 俺もおかしな話だとは思うのだ。俺が願うにしては妙な話だとは思うのだ。
 そして、いざ寝付いて目が覚めたら、目的地に着いたなら、コーヒーを飲みほしたなら、また俺は君へ送る悪意の準備を意気揚揚とするのだ。

 だけど君よ、いざ君が非日常を完全に捨てるというのならば、俺は俺の悪意をすべて取り払って唯々慈愛の情をこめて君を抱きしめ、そのあと君の幸せを絶対に邪魔させないことを誓おう。



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それが愛だよ、と彼の友人は呟くのだろう。

モドル

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