※戦争コンビ死ネタ
※帝人君が20越え
※雰囲気で読んでくださいな













 僕は、たまたまその場にいただけだった。

 池袋という町で、セルティさんというデュラハンの首をめぐって、ダラーズという僕の架空から実態を生み出してしまった存在をかき回すように行われた、彼曰く「戦争」。その終焉は、僕の想像以上にあっけなくて、僕は場違いだった。彼の起こした戦争の、限りなく中心に近い渦中にいたにもかかわらず、だ。いつだったか、臨也さんを北欧神話の邪心ロキに喩えた人がいた。ロキは、神々に様々な恩恵を与えた反面、最終戦争を起こし最後には天敵ヘイムダルと相打ちになって死んでいった。これは後から聞いた話なのだけれど、臨也さんは神様になりたかったらしい。ロキは神々の住むアースガルズで唯一巨人族の血を引いている。主神オーディンと義兄弟の契りを結ぶことでアースガルズに住まわせてもらっていたのだそうだ。
 臨也さんはきっと、最終戦争を起こしたかったのだろう。でも、ここは北欧ではなく池袋だ。結果から言えば、最終戦争のようなことは起こらなかった。ただ、神様になりたかった臨也さんは邪心ロキのように死んだ。天敵である静雄さんと相打ちになったのだ。
 どういう経緯で、二人が死んだのか、僕は知らない。
 静雄さんはダラーズを抜けていたし、臨也さんのアカウントも僕が消してしまった後だったから。
 ただ、人づてに臨也さんと静雄さんが死んだということを聞き、臨也さんがしてきたことを聞き、池袋に戦争が起こらなくなった。ダラーズが不本意に利用されることも少なくなった。全く無くなったといえないところが残念なのだけれど。それから、正臣が戻ってきた。青葉君は悪巧みを止めた。門田さんたちや新羅さんとセルティさんなんかは相変わらず。どうやら、セルティさんの首は矢霧波江さんがどこかへやってしまったそうだ。新羅さんのところに手紙が来たらしい。新羅さんがもし亡くなったら、セルティさんに首のありかを教えてやって欲しいという手紙だ。いつか、自分の首と、恋人の首の二つを持ち歩く異質なデュラハンが現れるかもしれない。
 あれから、僕が非日常と遭遇することは少なくなってしまった。僕は大人になって、臨也さんと静雄さんの年齢に近づいて、もうあの頃のように無茶をすることはなくなった。少なくとも、今は何があっても人に火をつけたりはしない。ちょっと今ではあれは流石にやりすぎだったかなって反省してる。
 小腹も空いたし、コンビニにでも寄ろうかなと思った矢先だった。昔みたいに、引っこ抜かれた標識の残骸が視界に入ることはもう無い。
 不意に、背中に衝撃が走った。
「って!」
「何やってんのさ、まったく」
 どうやら子供が僕にぶつかったらしい。転んだりしてないかと振り向いて、僕は息を呑んだ。
「あ、ごめんなさい……」
 幼い姿の臨也さんと、静雄さんが、そこにいた。
 申し訳なさそうにしてる静雄さんと、それを呆れ顔で見ている臨也さんに僕は声が出ない。それに気づいたのだろうか、幼い姿の臨也さんが顔をしかめる。
「また折原臨也と平和島静雄?」
「え、どうして……」
 撫すくれた表情の臨也さんの指摘に、僕は驚いて間抜けにも尋ね返すことしかできなかった。
「首無しライダーとお医者さん、ワゴン車に乗った人たちに、眼鏡をかけたおねーさん、金髪のおにーさんや露西亜寿司の外人さん……みーんな俺とこいつのことを折原臨也と平和島静雄って呼ぶんだよねぇ」
 手振りを交えて嫌そうにそう話す姿は在りし日の臨也さんにそっくりだ。隣で黙っていやそうな顔をしてる静雄さんそっくりの子も、やはり雰囲気から何から在りし日の静雄さんにそっくりだった。それにしても、二人と関係のあった人と既に会っていて、やっぱり二人の名前を呼ばれたこの子達は、一体誰なんだろう。
「えっと、ごめんね。本当にそっくりだったものだから……つい。君たちの名前は?」
「何で教えなきゃなんねぇんだよ」
「知らない人に名前を教えちゃいけませーんってね」
 あ、駄目だ。完璧に機嫌を損ねてしまったらしい。まぁ、知らない人から知らない人の名前で呼ばれ続けたら誰だってこうなるか。
 どうしたものかと考えあぐねていると、不意に臨也さん似の少年が逆に僕の名前を尋ねてきた。別に隠す必要もないし、正直に名乗れば、二人は顔を見合わせパッと笑った。そして僕に言うのだ。平和島静雄と折原臨也がどんな人物だったのか教えてくれ、と。
 当然、僕より新羅さんや門田さん、セルティさんたちのほうが詳しいと思って彼らに尋ねるようにいったのだけれど、少年二人は彼らに僕に尋ねるように言われたらしい。曰く、僕が一番二人に近かったらしい。それは無いと思ったのだけれど、教えてと僕に縋りつく二人に人々の視線が突き刺さって居た堪れないので僕は仕方なく近くの公園で僕が知ってる限りの二人について話した。
 臨也さん似の子は爆笑しながら楽しそうに話を聞き、静雄さん似の子は臨也さんの悪行に顔をしかめながら話を聞いていた。本当に、二人にそっくりだった。
 気づけば、あたりは夕暮れを迎えていて、子供たちの帰宅を促すチャイムが待ちに鳴り響く。
 二人も帰らなきゃいけないらしく、お礼を言って公園の出口へと駆け出す。その前に、どうしても一つだけ僕は尋ねたくて叫んだ。
「君たちは、友達同士で仲良しなんだよね!」
 二人は振り向いて、笑顔で返してくれる。
「もちろんだよ!」
「当たり前だろ!!」
 そこに、故郷にいた頃の僕と正臣の姿が重なって、無性に泣きたくなった。
 神様になりたかった臨也さんは、本当は、何を求めていたんだろう。静雄さんと相打ちになった二人は、何故、互いを嫌悪していたのだろう。二人は理由なんか無いって言ってたけれど、強いて言うなら相手が折原臨也で平和島静雄だからだといっていたけれど、本当のところはどうなんだろう。
 平和島静雄と折原臨也じゃなくなった二人は、これからどうなっていくんだろう。
 臨也さんが巻いた火種を消して回るために奔走した青春の日々を思い出す。楽しくもなんとも無い非日常の連続のどうしようもない思い出の日々。あの少年二人が、普通の幸せを求めて生きていくんだろうと思ったら、頬に冷たいものが伝っていた。
 彼らは、人並みはずれた怪力に自分を、他人を傷つけることもしなければ、いたずらに火種を巻いて、自分の気持ちを迷子にさせて、神様を気取ることも無いのだろう。僕や正臣のようにカラーギャングを作ることもしなければ、園原さんのように誰かの愛に寄生することもきっと無い。
 全うに、愛し、愛され、生きていくのだろう。
 いいや、そうやって生きていって欲しい。
 池袋と新宿にかつていた、都市伝説にも負けないような二人の存在を思い出す。胸にこみ上げる哀愁はなんだろう。数年越しに僕は気づかされた。僕は二人が好きだったのだと。恋ではないけれど、僕は二人が好きだった。あぁ、面白くもなんとも無いどうしようもない青春の日々だった。好きな人の幸せを願えない青春の日々だった。二人がともに幸せであることがかなわない青春の日々だった。
 北欧神話でロキは天敵ヘイムダルと相打ちになって死んだ。オーディンはロキの息子であるフェンリルに飲み込まれ、トールはヨルムンガンドの毒に倒れた。アースガルズには火が放たれ、巨人族も神々も滅んだ。そんな中、オーディンの息子であるバルドルは甦り、新しい光の世界が始まった。池袋では、臨也さんと静雄さんが相打ちになって死んだだけだったけれど、バルドルは甦った。平和島静雄と折原臨也ではない二人として甦った。僕は、その瞬間に立ち会っただけに過ぎない。戦争は終わった。今、ようやく、二人の戦争を僕は見届けることができたのだ。
 今日は、お酒を飲もう。二人の冥福を祈るように、お酒を飲むことにしよう。僕はコンビニへと向かった。



モドル

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