※9巻フィーバーその2 ※極度なネタバレはないが、うっすらネタバレな臨也さん考察 ※あくまで臨→新は友情 ※歪みかど ※ねつ造Yahoooooooooo!!!!!!!!!!! 高級マンションから外へ出る。僕はいつもマンションから外へ出たときの光景が慣れない。行きかう多くの人々、車道を走る車、立ち並ぶ高層ビル。そのどれもが埼玉の田舎では見られなかった光景で、新宿という町の余所余所しい空気を否応無しに吸わされる。臨也さんは気軽に僕を呼びつけるけれど、僕としては遠慮したい。池袋も、車の通りは多いし人も多いけれど、ビジネス街であり交通の拠点ともいえる新宿とサンシャインシティがあり多くの若者が行きかう池袋では、僕の住んでるアパートが存在するという点も含めてやはり違うのだ。 でも、いくらそんなことを訴えたとしてもあの人は聞いてくれないんだろうなぁ。たとえ僕のその要求を聞き入れてくれたとしても、チャットで甘楽として遠まわしに嫌がらせされたり、あるいは、直接池袋に乗り込まれたりするような気がする。チャットで遠まわしに嫌がらせされるならまだしも、あまりあの人に池袋に来る口実を持たせてはいけないと思う。僕の平穏のためにも。 そんなことを考えながら、僕の城へと帰るために新宿駅への道を歩いていると突然肩をたたかれた。ふりむくと、見知らぬ若い男の人が少し戸惑ったような、何か不安なことでもあるかのような弱々しい表情をしていて立っていた。 「え、と……?」 道でも尋ねられるのだろうか。あいにく僕は新宿に関して、駅から臨也さんの部屋に行くまでの道筋くらいしか知らない。ここから駅までの道なら答えられるだろうけど、それ以外の道を聞かれたって僕は答えられない。 けれど、予想に反して彼は思いもかけないことを聞いてきた。 「君は……折原臨也の知り合いなのか?」 臨也さんは、新宿を拠点とする情報屋だ。その彼との関係を聞かれるということは、ちょっと危険なのではないだろうか。反射的に僕は身体をこわばらせてしまった。よく考えれば、ここは何も知らないふりをするのが一番だというのに。 「知り……合いといいますか……えぇと、その」 「あぁ、勘違いしないで欲しい。俺は君に危害を加えるつもりは無いんだ。ただ、ちょっと……君が折原臨也ととの関係を持ってるなら今すぐ切りなさい」 どう答えるべきかと考えあぐねている僕に、彼は口早にそう告げた。 ”折原臨也には関わるな” これは、僕が初日に正臣に言われたことであり、割とよく聞く忠告だ。彼は、まるであの日、正臣が僕に忠告してきたときのような暗い表情をしている。どういうことかと僕が聞き返す前に、先ほどまで僕が聞いていた独特の甘さをはらんだ声がかけられる。 「おや、奈倉じゃないか」 僕に声をかけてきた男の人の後ろに、ファーのついた黒のコートを着た眉目秀麗な青年、決して関わってはいけない人物こと折原臨也が立っていた。 「いくら来良が懐かしくたって、関わりのない後輩を困らせるのは感心しないね。彼、困ってるじゃないか」 「あ……あぁ、そう、だな。あ、俺ちょっと用事があるから行くわ! じゃぁな!」 小首をかしげながらニタリと笑った臨也さんに、彼は怯えのような行動を見せた。僕の隣をすり抜け、走り去っていく彼は臨也さんとどんな関係なのだろう。クライアントにしては、ちょっと様子がおかしかったが、かといって彼をどうこうしようというような動向も見られなかった。 「あの人は、臨也さんの知り合いなんですか」 「あぁ、ちょっと中学からの付き合いでね」 尋ねても、返ってきた答えにぴんと来ない。中学からの友人にしては、ちょっと臨也さんを恐れすぎてはいないだろうか。臨也さんはいじめをするようなタイプではないだろうし。 「昔話でも、してあげようか」 そんな考えが僕の態度に出ていたらしい。臨也さんはちょっと苦笑しながら僕にそう告げた。 「と、言うわけで俺は一度新羅を刺したことになってる」 「なってるって……」 臨也さんの部屋に戻ってきて、臨也さんはすぐに中学一年生の頃に起こった事件のことを話してくれた。俺がこのことを話すのは帝人君が最初かなぁ、なんて臨也さんは言ってたけどそれがどういう意味を持つのかは僕は知らない。彼は、僕を呼び出しては最近あった依頼や事件や、静雄さんの愚痴なんかを僕に聞かせる。勿論、彼の仕事に支障をきたさない程度に、だけど。多分このことを話したのもそれの延長なのだろう。僕は僕で、そんな彼の日常の話を、面白い小説を読むかのような気持ちで楽しんでいた。 「やだなぁ、暗い顔しないでよ! 昔の話。もう俺も新羅も気にしてないよ」 だから、臨也さんにそう指摘されて僕は始めて気持ちが少し落ち込んでいたことに気づいた。臨也さんは、僕の表情を指摘すると鼻歌を歌いながらコーヒーを淹れに行ってしまった。 多分、僕は今臨也さんが案外普通の人間だったことを再認識させられたんだ。彼の話はあまりに僕の日常とかけ離れていたから、いつの間にか彼自身が非日常の象徴の一つであるかのように錯覚していたのだと思う。 ”俺は、全人類を愛している” これは臨也さんの科白で彼らしさとも言える思考で、僕は今まで彼の言う人類愛をどこか非日常めいた気持ちで聞いていた。けど、彼の言うように、新羅さんとの事件が彼の人格形成に関わったというのなら、彼の人類愛は新羅さんへの対抗心から来る、子供染みた普通の感情なのではないだろうか。友達の特別への憧れを隠すために、それとは逆のものを特別視するのは友達ができたばかりの頃の子供に良く見られる現象だ。新羅さんの、セルティさんへの愛を、セルティさん以外を視界に入れないそれを、臨也さんが憧れ、嫉妬したというのなら、彼が新羅さんの意識の対象外を新羅さんとある種同等に視界に入れようとすることでその気持ちにふたをしたのではないだろうか。 僕は、ある種、臨也さんとの間に共犯者染みた連帯感を持っていた。ダラーズを介したそれは僕に少しの優越感を与えてくれていたことを僕は否定しない。僕は、臨也さんと共犯者という立場に抗いがたい見職を感じていた。けれど、どうだろう。僕の考えが正解ではなくともそれに近いものだったならば、本当の意味での臨也さんとの共犯者は新羅さんということになる。彼のセルティさんへの愛が、臨也さんを人類愛に走らせ、その延長で彼が情報屋になったという一面があるのならば。 そうだ、彼は人類愛の対象に静雄さんを入れていない。それだって、静雄さんが池袋最強の男である以前に、新羅さんの友達だったからじゃないだろうか。自分の知らない友達の友達に嫉妬する。よくある話じゃないか。 新羅さんは、闇医者で、裏の人たちと関わりを持つから、自分も裏の職業につく。新羅さんが人並みはずれたものに興味を示すから、自分も人並みはずれた行動をする。新羅さんがセルティさん以外を視界に入れないから、自分は新羅さんが視界に入れなかったものを視界に入れることで補完する。 新羅さんを因数として、複雑そうに見えた数式がするすると簡単な括弧にまとめられるような感覚。そう考えると、とたんに目の前でコーヒーを啜るこの人がつまらなく思えて僕は溜息をついた。 ++++++ 歪みかどくんと子供な臨也が書けて私は満足です。 ぬ仔とのネタ消化よりも前に書きあがってしまったw 9巻読んでからずっと思ってた、正しく普通に歪んだ臨也さん。 愛染…むさぼり愛して執着すること 藍染…藍を使った染色 藍……個人的な帝人君のイメージカラー モドル |