ドアの開けられる音で僕は目が覚めた。うっすらと差し込む光で、今がまだ静かな真夜中なのだと知る。ばたん、とドアが閉まれば、なれない目には暗闇だけが映った。 「僕はここにいますよ」 声をかけてあげれば、部屋に入ってきた人物はぎゅうと僕を抱きしめにかかった。華奢な長身の、しかし程よく筋肉のついた腕が僕を囲って強く強く縋るように掻き抱く。 「んう……んう……!!!」 落ち着かせるように、彼の艶やかな黒い長髪を梳いた。僕よりずっと背が高くて、何でも知っていて、ガゼル王国一の魔導師で、とても強いこの人は、今、僕に縋って震えている。 つい、数ヶ月前までこの人は無実の罪を着せられて薄暗い地下牢に拘束されていた。顔には詠唱を封じるための札が貼られていて、コミュニケーションをとるのも一苦労だったことを思い出す。牢越しの彼は死刑が決まっていても、生を諦めずいつも一生懸命で、僕は看守という立場でありながらそんな彼を尊敬し、そのときには既に敬愛すらしていた。目には強い光が灯されていて、凛とした彼。だけど、それでもやっぱり地下牢での生活は確実に彼の精神を蝕んでいた。 「っく、うぅ……」 薄暗い僕の部屋の中で、彼は地下労では決して漏らさなかった苦しみと怯えに満ちた嗚咽を吐く。彼の処刑の日にゼロさんと共に脱走し何とか無実を証明したあの日、僕と彼は囚人と看守から師匠と弟子になった。彼の住まいにジェイミー君やトマス君と一緒に居候することになって、そうしてやっと僕は彼を蝕んでいたトラウマを知ることになったんだ。 「っあ……」 「大丈夫です。ここは牢屋じゃありませんから。僕は貴方を抱きしめられる……ほら、ね? ネルガルさん 」 ころあいを見計らって、声をかけ彼を抱きしめ返す。 真夜中、彼は、僕の師匠であるネルガルさんは時折目を覚ますんだそうだ。そして、暗い部屋にあの牢獄を思い出して酷く不安定になるらしい。 それを知った初めての夜、あの夜の日はまだジェイミー君もトマス君も出所前だったから、家には僕と師匠の二人だけだった。あの時、家中に響き渡る咆哮に僕は目を覚まして、急いで師匠の部屋に行った。師匠はベットのすみで縮こまってひたすらに僕の名前だけを繰り返していて、思わず師匠を抱きしめてあの日々のように彼の名前を呼んだ。 札が取れたことも忘れ、ひたすら言葉にならない言葉をわめく彼に僕は泣きたくなった。僕が看守だったころ、僕の信条は囚人の方が不安なく処刑の日まで過ごせるように尽力することだったからそれが全くできてなかったことに申し訳なくなった。師匠が落ち着きを取り戻した頃、思わずそれを謝ると彼は首を横に振った。 「俺はね、サニー君がいてくれたから、サニー君が看守でいてくれたからあの日まで希望を捨てずにいられたんだよ。だから君が謝ることなんてないんだよ」 それ以来、師匠は真夜中に目を覚ますと僕のところに来るようになった。震えて怯えて僕に縋る彼を見るたびに僕はとても遣る瀬無くなる。 ネルガルさんに、師匠に成り代わりサシュ公国を滅ぼし、ゼロさんに成り代わり国の王となろうとしていたあのニナと名づけられた囚人27号を想う。キイス君もネルガルさんもゼロさんも彼と大臣の贖罪を認めたけれど、震える師匠を見ると、僕はとても認められそうに無い。正直、死刑制度を廃止したゼロさんに抗議しそうになったくらいだった。ニナと呼ばれる彼が憎い。師匠はやさしいを通り越してお人よしだから、27号に同情して手紙まで書いてるけれど、本当はやめて欲しい。 今、貴方が僕にこうやって縋る理由はあの囚人なのに。あの囚人がいなければサシュ公国も滅びなかったし、貴方が苦しむことも無かった。それは、僕と貴方が出会うことも無かったことも意味するけれど、貴方のこの苦しみと僕と貴方の出会いを比べたら、僕と出会わなかったとしても、貴方が永遠に健やかであったことを僕は望みたかったのに。 僕に縋ったまま眠りについた師匠を僕も抱きしめ返して、意識の海へと僕は身を投げた。 +++++ ネルサニいいと思うんだ……。 ネルガルさんの弟子についてちょっと賢くなったサニー君。 ネルガルさんのトラウマ知って、以前のように天真爛漫なだけじゃいられなくなったサニー君。 薄暗い感情に苛まれるサニー君に萌え。 ネルガルさんにとってサニー君は太陽そのもので依存しまくってればいいよ!!! もうサニー君がいなきゃネルガルさん生きられない勢いで依存してればいいよ!! だから弟子にしたんでしょ? そうでしょ? ピュアピュアなのに薄暗い感情抱きまくったネルサニが好きです。 で、サニー君がいなきゃネルガルさんが生きられないから身を引くゼロサニも好きです。 ゼロ様にとってもサニー君は太陽。傍にいて欲しいけど、ガゼルにはネルガルさんが必要で、ネルガルさんにはサニー君が必要だから自分は手を引くゼロ様切ない。 あと、地味にジェイトマを私は推します。7巻のトマス君のジェイミー君を見る表情……っアレは恋する少年の顔だ!!! モドル |