ふにゃり、と笑った顔を見て俺は久々に目の前でプリンをほおばるこの男が人間なのだということを思い知らされた。綺麗に染められた金髪に、弟から送られたのだというバーテン服にサングラスをつけた池袋最強の男、自動喧嘩人形こと平和島静雄が俺の中学時代の後輩兼部下になってそう日数が立たないうちに、俺は随分とこの男についての情報を書き換える羽目になった。
 中学時代から静雄の化け物染みた怪力は有名だった。気がつけば、自動販売機やら自動車やらを簡単に投げ飛ばし、標識を折り曲げ振り回す様になっていた男をなんとなく俺は拾った。職業柄、こいつといりゃ安全だろうという打算はあったがなんとなく、という感覚が強かったように思う。中学生のときにゃ知っていはずのこの男が人間だという事実を時が多分忘却の彼方に押しやっていたんだな。
 だから今、こうやって静雄が美味しそうにプリンを食べているのを見て、こんなに胸が締め付けられる思いにさらされるんだろう。
「トムさんも一口食いますか?」
 俺の視線に気づいて、そういう静雄。言葉に甘えて差し出されたスプーンを咥えればやさしい甘い、味。男同士で何やってんだかというより、そんな些細なことで本当に嬉しそうに笑うこの男が――。
 なぁ、静雄。こんな些細なことでそんなに嬉しそうに笑うんじゃねぇよ。くしゃりとかき回された髪を嬉しそうに触ってるんじゃねぇよ。俺、トムさん大好きっすってなんじゃそら。こんな当たり前のスキンシップに嬉しそうにすんじゃねぇ。
「静雄、今日飯でも食いにいくべ」
 上司らしく、そう言ってやればきょとんとした顔。そうだ、こいついつもキレた表情ばかりしてるからなかなか気づかないが、まだ幼さの抜けない子供のようなあどけない顔を時々見せるんだ。親の愛情を、無垢に求めるような子供の顔。
「上司だしな、奢ってやるよ」
 切ないような、胸をかき乱されるキモチを隠すように静雄に笑いかけてみた。静雄は今度は戸惑ったような表情でこっちを見る。今度は怯えた餓鬼のように見えた。
「いやでも、悪いっすよ……」
「たまにゃ先輩にいいかっこされてくれよ」
 怯え。静雄は今更何に怯えているというのだろう。こいつの化け物染みた怪力はもう既にみんなの知ってるところだというのに。こいつが案外普通だということはもう俺は知ってるというのに。
 くしゃり、ともう一度髪をかき混ぜてみた。静雄は小さくうす、と呟いて泣きそうな顔をした。まるで、迷子が母親を見つけたかのような顔だった。
 あぁもう、俺のほうが泣きそうだ。
 愛されたい愛されたいと怯える化け物という自己暗示に捉われた池袋最強の男にどんなに劣情を抱いたところで、この男は俺に母親から与えられるような無償の愛を見出すんだ。



++++++
ぬ仔の誕生祝いにリクエスト取ったらトムシズという返答が来たので書いてみた。
トムシズというよりトム→シズになったけどね(笑
たぶん、取立てやになりたての頃? 原作持ってないから時間軸がいまいち曖昧。
コンセプトは実は、親子じゃなくて飼い主と飼い犬。静雄サイドとか続編とかかけるかもしれない。

そうやって雑食サイトへの道を歩みだすのね……。

モドル

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