「おいウィル!」

人通りの少ない道で、いかにもガキ大将らしい風貌の少年の怒声が響く。
ガキ大将の前方を歩いていた少年は、若草色の髪を揺らし、髪よりも濃い深緑の瞳を背後に向ける。

「何?」

ウィル、と呼ばれた少年は煩わしそうにガキ大将の呼びかけに答える。
ガキ大将は少年の態度にますます腹をたててしまった。

「お前っ!俺達がキールを苛めてんの、親にチクったろ!」

ガキ大将の語気は荒々しい。

「うん」

「っ!今更いい子ぶってんじゃねぇよ!」

こってりと怒られたのだろう、ガキ大将の頭上には大きなたんこぶが出来ていた。

「うわあ、すごいコブ」

「そこじゃないだろっ!!」

ガキ大将はしげしげとたんこぶを見つめるウィルに怒鳴った。

「や、だってすごいし」

「ふざけんなっ!」

そうガキ大将は怒鳴り、ウィルの胸ぐらを掴む。ガキ大将はウィルよりも大きく、ウィルは足元が浮いてしまった。苦しそうに足をバタつかせる。

「苦し…っ」

ウィルのその言葉にガキ大将はニヤリと笑みを見せる。

「これで懲りたら―――」

「なんて言うとでも?」

ウィルはバタつかせていた足をガキ大将の急所めがけて思い切り蹴りあげる。

「〜――――!?」

余りの痛さにウィルの胸ぐらを掴んでいた手を放す。その隙をついて、ウィルはガキ大将とは反対方向の道を走る。

「待てよウィル!」

「待てって言われて待つ分けないじゃん!」

ウィルは走りながらガキ大将に向かって悪戯っぽく笑う。

「じゃあね!」

片手を振ってウィルは走り去った。
その場にガキ大将の怒声が空しく響いた。


「こんなもんかな」

ウィルはひととおり走った後、辺りを見回しガキ大将が追ってきていないことを確認して歩き始める。
(ざまあみろ)
ウィルは心の中で満足気に呟いた。
しかしその満足感も束の間、ウィルは後ろへと振り向く。小さくだが自分の名前を呼ばれた気がした。

「…ッル、く、ん!ウィル、君ま、待ってよ…!」

息を切らしながら声の主が近づいてくる。ある程度近づいて来た辺りで思い出した。

「どうしたの、キール?」

キール=ウォーカー。さっきのガキ大将に虐められていた子。正直、あまり関わらないので顔を忘れかけていた。

「ウィル君、足が、速いん、だね」

息を切らしながらキールは話す。

「まあ、それが取り柄だし…で、何?」

大体の予想を立てた上でウィルは聞き返した。

「あ、のさ。僕のこと、大人に言ってくれて、その、ありがとう」

「いらないよ」

「え?」

「だから、ありがとうとか、いらないって言ってるの」

予想通りの返答過ぎて呆れたのか、ウィルはため息をついた。

「えっ、でも」

「正義のヒーローじゃないよ?俺。だって、キールが虐められていた時、止めようなんて思わなかったし」

むしろやり返さないなんて情けないな、なんて思っていたくらいだ。

「そうだけど、」

「助けたくて大人に言ったわけじゃないよ。聞かれたから言っただけだから、ありがとうなんて言わないでよ」

そうキールに言うとキールは俯いてしまった。なんだか逆にいじめてるみたいな雰囲気になる。違うのに。

「でも、それでもカッコいいと思うよ、僕は」

「そう。で、もういい?じゃあまたね、キール!」

キールの返事が返ってくる前に走り出す、というより逃げる。照れてっていうのもあるけど、後ろからガキ大将の声が聞こえたからだ。


人気の少ない小さな森の奥。
そこには小さな孤児園があって、その中では年長者に入るのが俺。
年長者といってもまだ11歳だけど。
静かな森を歩きながらもうすぐ家だと考える。そうするとぐう、と腹がなった。
今日は怪我をしてない、よし、夕飯抜きじゃない。怪我して帰ると園長が怒るからなあ。
今日はシチューとか言ってたなーとか、明日はどこへ行こうなんて考えているうちに孤児園に着いた。


「なんだよ、これ…」

それは美味しそうなシチューの香りとかじゃなくて、血。木目の整った床が赤い血と硝煙の臭いでいっぱいになっていた。

「これ、は、」

何。
そう呟こうとしたその時、足元になにかが当たった。そこに目を向けた瞬間、心臓に杭が打たれたような感覚になった。

腕。

自分よりも小さな子供の腕が赤い床に落ちていた。

「―――――――!!」

声が出ない、パクパクと口だけが動く。誰の、誰が、なんのために、考える前にその場に座り込んでしまった。

なんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
なん、で。

思考が止まる、動けない。心臓がばくばく鳴って死にそうになる。
見渡す限りの赤い絨毯のような血の景色はウィルの思考を壊すには充分だった。

ソフィアは?
リオンは?
セラにセシリー、アリア、ソラにジョエルは?
みんな、みんなこの中にいる?

「園、長」

そうだ、園長。園長は?
ふらふらと立ち上がり所々にある誰のかわからない体を避けながら赤い絨毯の上を歩き出す。
園長室に行く途中に小さなうめき声が聞こえた。あたりを見渡すと前のめりになりながらこちらに向かってくる。

「え、んちょう」

おぼつかない足で声のするほうへ向かう。そこにはいつも優しくしてくれた園長の姿があった。体に傷を負いながら。
すると、声に気づいたのか、園長がこちらを向いた。

「ウィル…?」

「園長っ!」

すぐに園長のところへと駆け寄る。

「どうしてこんなことになってるの?ねえ!園長!?」

「ウィル、今、すぐにでも、逃げな、さい…っ!」

口が血で溢れながらに、途切れ途切れに園長は言った。
逃げるったって、どこへ?居場所なんてここしかないのに?声をあげようとしたそのとき、大きく、図太い声によって遮られた。

「なんだあ!?まだ生き残ってやがったのかよジイさんよお!!」

声の主はズカズカと姿を出した。全身を真っ赤に染めながら。それよりも目が奪われたのは男の服装だった。



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