「うわあ……!」

ウィルは声を上げながら、辺りを見回す。
人の話でしか聞いたことの無い首都の様子、それが目の前にある。きらびやかなアーチ、にぎやかな店頭、あふれかえる人ごみ。見たことの無いおもちゃ。
すべてがウィルにとって新しいものだった。

「首都には来たことが無かったのか」

黒いコートを着た青年、烏はウィルの様子を見ながら話した。こくこくと勢いよく頷く。

「この街を通り過ぎるともっと人通りが増えるぞ」

烏は指を指しながら話す。この通りでも目が回りそうだというのに、一体首都はどれくらい広いのだろうか。

「あの、烏、さん」

「なんだ」

「そろそろ、降ろしてくれませんか?」

この街につくまでの間、ウィルは烏に担ぎ込まれたままだった。人通りの少ないところならまだしも、首都に着いた途端に人の目を集めていてウィルは恥ずかしかった。

「……我慢しろ、もう少しで家に着く」

「わかりまし、た」

家に着いたらすぐにでも降ろしてもらおう。そう考えたウィルだった。

「何じゃあの子供は!」

大通りをずかずかと歩く少女は隣にいる女に向かって文句を言う。

「まあ落ち着いて、親ちゃん」

「これが落ち着いてられるか!まったく、子どもに子ども扱いされるとは!」

腕を振り回しながら、少女もとい、堀籠親穂(ホリゴメチカホ)はわなわなと怒りを表していた。

「そうねえ、いくら親ちゃんが可愛いからって私の妹にされるのは困るものねえ」

手を頬に当ててまんざらでもない口調で女は話す。別にそういう意味では言ってないといった様子で親穂はため息をつく。

「慣れた。とはいえ、同じ年にアレクシアの妹と言われるのはさすがに堪えるぞ…」

今度は大げさに肩を落とす。しかし、切り替えたようにアレクシアを見る。

「どうしたのかしら?親ちゃん」

「何、烏のやつはどうなったかのう、とな?」

烏、その名を聞いたとたんにアレクシアは顔を林檎のように染めて声を震わせる。

「か、からす?そうね、げ、元気じゃないかしら?最近、会っていないけれ、ど……」

しどろもどろな口調から、徐々に尻すぼみになっていく。アレクシアの落ちていく様子を見ながら、親穂は軽快に声を出す。

「なあに、そう落ち込むな。どうせアヤツのことじゃ、どこかで道草でもしておるのじゃろう」

「そうかしら…そうだといいけれど」

「そういっている間にも、ほうら、アレクシア。あの黒いコートの木偶の棒は誰かな?」

街並みに映える黒の青年、長い刀を下げて、緑の髪の少年を担ぎ上げながら悠々と歩いていた。


「「……え?」」





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